十話
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アマイマスクとイアイアンが街へとたどり着く
気持ち悪いほどに静かであった
広がっていた青空はいつのまにか灰色の雲に食いつぶされている
雨が、降りそうだ
「な、にが」
イアイアンの言葉が途切れる。呼吸ができなくなる
酸素の少なくなった脳は考えるのをやめ、今のこの景色をただただ画像として捉えさせることしか機能していない
アマイマスクはかろうじて、まだこの現状を考えることができた
華やかな町とは一転。灰色の世界で赤色が以上にまぶしく感じてしまう
鼻につく燃える臭い。肌に纏わりつく熱気
地面に広がる血
血、だけではない。あれは。動かない人間
一粒の水滴が頭に落ちる
徐々に水滴は増え、いつのまにか地面を叩く雨になっていた
コンクリートを更に濃く灰色に染める
反対に、広がる血を薄めていく
雨の匂いと血の匂いが混ざり吐きそうだ
身体に力が入らなくなり、イアイアンはその場へ座り込んでしまった
「あああぁぁっっ!!助けて!!たすけてええええええ!!」
そんな声が、かすかに聞こえた
助けを求める声。ヒーローである自分たちはその声の元へ駆けつけないといけないのにどうしたことか、身体が動かない。動かせない
だが、自分たちが動かずとも声のほうからやってきてくれた
声が近づいてくる。恐怖に支配された叫び声を今すぐやめてくれ!そう、言いたかった
「そろそろ、来る頃だと思ってたぞ」
「……!」
「ッ!」
叫び声の主は引きずられてやってきた青年だ
涙と、鼻水と、涎と汗が恐怖を物語っていた
暴れまわるも、掴まれている手から逃れつことはできない
先ほどと、また姿が変わった名無しさんに息をのんだ
髪が白色になってしまっている
「どうするんじゃ?ヒーロー。ほぉれ、助けてみろ」
ポイッと、まるでゴミでも捨てるように青年をイアイアンとアマイマスクの前に放り出した
腕を動かすことができたのはアマイマスクで、青年をこちら側へ引っ張ろうとする
だが、その前に青年の頭がなくなった
「あ」
空気を押し出したような声が出る
司令塔がなくなった身体はゆっくりと倒れていく
頭は数百メートル横へ吹き飛ばされていた
名無しさんが手についた血を振り払い、笑う
「ハ、ハハハハハハハ!!そうじゃそうじゃ!その表情じゃ!絶望と、恐怖と落胆!人間のその表情だけは、何度見ても飽きないのぉ」
自分自身が、どんな表情をしているのか二人は分からない
ただ、思ってしまうのは
鮮やかな紅い瞳と、白髪の髪をした名無しさんが今までに見たことないほど美しいと思った
顔に張り付く髪をものともせず、アマイマスクはぼやける視界で名無しさんを見る
もう、全てがどうでもよかった
ここで死んでも、自分には関係ない
死んだあとは何もなくなる
イアイアンは、これが夢だったら、と何度も何度も願う
雨で身体が冷え始めても、願いを請う頭だけは熱く感じた
「おい、もう立ち上がらんのか?踏ん張らないのか?もっと我を楽しませんか」
期待に満ちた顔で名無しさんが笑う
するどく尖った牙のある口に吞み込まれる感覚に襲われた
――もう名無しさんは戻ってこないではないか
何を頑張っていたのだろう。何を憤慨していたのだろう。何を、期待していたのだろう
アマイマスクも等々項垂れる
全てを諦め、呆けた表情を見て名無しさんは満面の笑みからスッとつまらない顔をする
「なんじゃ、もう諦めるのか。つまらん。ヒーローとして生きる意味、戦う意味を作ってやったというのに……。貴様らも殺し、次の獲物でも探そうかの」
右手を上げる。ビキビキと音が鳴っているのも分かっていたが、二人が思うのは目の前の死よりも、やっとこの悪夢が終わるという安心感であった
やっと、戦うことをやめられる
やっと、名無しさんを傷つけることをやめられる
ただ、それだけであった
「この体は、大切に使っといてやるから安心せい──」
心残りがあるとすれば、
イアイアンは名無しさんを超すという約束があったし
アマイマスクは名無しさんに越されることが約束であった
その約束が、果たせなかったことだろうか
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