第92話 夢の中の約束
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独りぼっちなのは仕方ない。
皆俺を避けるのは、親にそう言われているのだから。
それに、これくらい耐えられないと強くなれないから。
学校で笑う声を、離れた所で聞く。
いいな。俺も混ぜて欲しいな。
そんな気持ちを心の中に閉じ込める。
あの時ガロウを助けたのも、正義心からではない。
なんで自分だけが、"特別"扱いなのか。そんな理不尽でムシャクシャしていただけだ。
助ける、という正義を建前にして暴力というなの悪を振りかざす。
結果的に、助けて良かった。
助けられたのはこちらで、ガロウは俺を孤独から救ってくれたのだ。
「名無しさんちゃん!」
そう言って、休み時間の時にこちらのクラスまで来てくれるのが嬉しかった。
ガロウと遊ぶのが楽しかった。
家のことを知っても、ガロウは俺と一緒にいてくれた。
ずっと独りぼっちだった俺をガロウは助けてくれたんだ。
その姿は、
「(ヒーローみたい)」
ガロウを見つめて、思う。
孤独から救ってくれるのは、ヒーローそのものだ。
けれど、本人には言わない。言ったら怒られてしまうだろうから。
俺だけのヒーロー。
フフ、と笑ってテレビをまた見た。
テレビにはジャスティスマンが流れている。
2人でドクロマンを応援していた。
「いつか名無しさんちゃんとジャスティスマンのショー見に行きたい」
ガロウがそう言ってくれたのを覚えている。
勿論、笑顔で頷いた。
一緒にドクロマンを目の前にして、一生懸命応援するのだ。
脳内でそんなことを思うと、楽しみで心臓がドクドク高鳴っている。
何度も、何度も、ガロウが言ってくれた言葉を繰り返す。
いつか、絶対行こうね。
「……ん?」
ふと、繰り返していた言葉に疑問が生じた。
何度も呼ばれていたのに、どうして今更気づくのか。
冷や汗が急に出てくる。
学校では男の性別であるし、プールも休んでいる。
なのに、どうして、女の子のように「ちゃん」と呼ばれるのか。
もしかして、女であるのがバレてしまったのか。
やばい、どうしよう、怒られる。
「ね、ねぇ」
震える声でガロウに聞く。
「な、なんでちゃん呼びなの……?」
ガロウがキョトン、とした顔をした。
「え? 女の子でしょ。だから名無しさんちゃん」
「ど、どうして……?」
「??。どう見ても女の子じゃん」
見た目か。見た目だけで女の子と思われているのか。
ほっと胸を撫でおろしたのをよく覚えている。
そこで男って言えなかった。
もう家に帰らないといけない時間だったから。
そして家に帰れば、引っ越さなければならないことを言われた。
どうして、と言えばこちらの事情だと。
嫌だった。ガロウと離れるのが。
せっかくできた友人なのに。ヒーローなのに。
その時は子供だったから、家を抜け出したっけ。
こんな事しても、すぐに捕まるのに。
ガロウの家へ行った。
最後に、どうしてもガロウに会いたかったから。
パジャマを着たガロウが出迎えてくれた。
引っ越すことを、遠くへ行ってしまうことを、もう会えないことを伝えた。
お互い、鼻水出しながら泣いたっけ。
「グスッ……でも、きっといつか会えるよ」
そう言ってくれたのは、ガロウだった。
「だって約束したもん。一緒にジャスティスマンのショー見に行くって」
コクコク、と頷く。
「あとね」
ガロウが鼻水を啜り、顔を上げた。
涙で揺らいでいる瞳が、真っ直ぐ見つめてくれた。
「僕が、名無しさんより強くなったら、結婚してください!」
顔を真っ赤にしながら言ってくれた。
その時否定できなかったのは、男だと言えなかったのは、
ガロウのその言葉が嬉しくて、こちらも真っ赤になってしまった。
うん、とも、だめ、とも言えずに黒さんに車に乗せられたんだ。
最後に見たガロウの顔が、悲しいものじゃなくて良かった。
……そんな約束、ガロウは覚えていないだろうけど。
「約束、忘れてねーよ」
ガロウの声が聞こえた気がした。
幼い声ではない、最近聞いた声。
意識がふわふわと浮いているのに、瞼は張り付けられているように開かない。
身体も、自分のものではないように動かせない。
けど、誰かに手を握られた。
誰に手を握られたかは分からない。でも、悪い気分どころか、良い気分だ。
「ガロウ……?」
自然とそう口にしてしまったのは、ガロウの夢を見ていたからだ。
「……?」
見慣れない天井がぼうっと見えた。
次に、聴覚が動きピッピッという音が聞こえる。
天井から自分の身体に目をやった。全身が管に繋がれている。
ここは病院なのだと、理解した。
そうだ、怪人協会に連れて行かれて、子供を守って、戦って、ガロウに再会して……それで、意識を失ったのだ。
誰かが病院に運んでくれたのだろう。お礼を言わなければ。
「うわぁっ!? 扉が破壊されてる!!?」
看護師がそう言って急いでどこかに連絡をした。
動かせるだけ首を扉の方へ向ける。
すると頑丈そうな扉はペシャンコになっていた。
「えー……意識を取り戻してくれて良かった」
医者が名無しさんに言う。
扉は急いで直してくれたようで、医者も安心している。
どうやら大分意識を失っていたようだ。
しかし、名無しさんは自分の心配よりも他の者が心配だった。
皆は、と言おうとしたが喋れない。
喋ろうとすると顎と頭が激しく痛むのだ。
そんな名無しさんを察した医者が言う。
「他の者はとっくに退院して、元気にしている」
その言葉に安心した。
フラッシュやイアイアン、タツマキが無事で良かった。
ということは、自分だけこんなにボロボロなのか。
己の弱さを実感するが、まぁ良い。皆が無事ならば。
「?。名無しさんさん何を握っている?」
「え?」
手の感覚が無いものだから、何かを握っているなんて気付かなかった。
指一本動かせない。どうやら5本指全て折れている。
仕方なく医者が取り出した。
クシャクシャの紙は2枚あり、何かのチケットのようだ。
「えーなになに。遊園地のジャス……ティスマン? のショーチケットのようだ」
目を見開く。
医者の発した言葉が、現実と受け止めるのに時間がかかった。
きっと、あの時、手を繋いでくれたのは、
このチケットをくれたのは、きっと
「ガ、ロ!」
喋れないけれど、確かにその名を口にした。
目から涙が出てくる。
ガロウは約束を守ってくれた。
自分も早くその約束を果たすために、元気にならなければ。
あぁ、君はやっぱり俺のヒーローだ!
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