第86話 膝を抱えて祈り続ける。神などいないくせに
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襲い掛かってくる虫のような怪人の左腕が斬れた
巨大なムカデの脚が何本も襲い掛かってきた
全身包帯のサイコが斬りかかってきた
同級生が俺の腕を抑えつけた
たっちゃんが踏みつけてきた
それだけではない
殴ったり、蹴ったり、踏みつけたり
圧倒的な敵意と理不尽
だが本人達に明確な敵意の理由などないのだ
目の前に、実際はゆっくりではなかったのであろうが、汚い靴の裏が迫ってくる
やめて!! 叫びたかったが声は出ない
出なかったのではない
出す必要がなかったのだ
気づいたらたっちゃんは地に手と尻をついていた
「やめろよ、お前ら」
いつの間にか僕を掴んでいた二人は、僕を離してたんだ
二対一の喧嘩。それは昨夜見たジャスティスマンとワンダーウーマンVSドクロマンみたいだった
テレビでは、ドクロマンは二人にやられてしまったけど目の前の喧嘩は違う
二対一で勝ったのは、一だ
二人が泣きながら公園から去っていく
呆然と、現実に起きたことを僕とたっちゃんは理解していなかった
たっちゃんが立ち上がる。顔を真っ赤にして睨んでたんだ
僕は恐怖で動けなかった
「お前!」
たっちゃんがその子の胸倉を掴んで殴る
その子もたっちゃんの胸倉を掴んで頭を叩いたり、頬をつねったりしていた
どうしよう、誰か。誰か
砂埃の中で喧嘩を続ける二人を止める勇気が僕にはなかった
でもそんな勇気なんて必要ない
喧嘩を止める必要なんてなかったんだ
「クッソ!! 明日覚えてろよ」
たっちゃんが鼻血と涙を流しながら帰っていく
小学生からしたら、鼻血を出し膝小僧や肘を擦切らせているなんて大怪我に見えるだろう
大怪我をしたのは、たっちゃん達だけではない
目の前に立っている子、僕を助けてくれた子も同じ、いやそれ以上に怪我をしていた
それにも関わらず、その子は僕に振り向く
「大丈夫か?」
振り向いた笑顔は、まるで太陽のようで
暖かく僕を照らしてくれたような
言いようのない感情をそのままに、差し出された手を握る
「俺は名無しさんっていうんだ! 君は?」
「僕は……ガロウ……」
「ガロウか! 怪我は?」
それから、どうしたんだっけ
2人で帰ったんだっけ
2人で、泥だらけになりながら帰った気がする
夕日が、綺麗だった気がする
名無しさんとジャスティスマンについて話した気がする
それで、名無しさんとは友達になったんだっけ
……そもそも、なんでこんな事思い出してるんだ?
どうして、今こんな事を思い出す?
友達? ハッ。虫唾が走る
アイツはヒーローで。俺は怪人。
相反する関係。憎み合う関係。対立しあう関係。
二度と、道が交わることはない。
なのに、どうして──
「じゃあ、もう俺達友達だな!」
こんな言葉が、頭の中で反芻しやがるんだ。
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