第84話 平らにしても、平らにしても、誰かが踏みにじり、荒らすのだ
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
人間怪人ガロウの討伐にS級三位ヒーロー、シルバーファングが名乗り上げたらしい
その連絡を聞いてから名無しさんは動悸が止まらなかった
名無しさんはガロウがバングの弟子であったことを知らなかったし、破門されたことも知らなかった
何もかも、ガロウについて名無しさんは知らなかった
思い出が小学校の頃で止まってしまっている
連絡を全て聞き、携帯を閉じた
協会側はあの事件を隠している。今だって話してはくれなかった
事件の当事者に話を聞いたから名無しさんは真実を知っている
ヒーロー協会が犯罪者に助けを求めるなど、市民はどう思うだろうか
おそらくこの真実はひた隠しにするだろう
まぁ今はそんな協会の裏事情などどうでもいい
ガロウがどうなってしまうのかが不安で堪らなかった
……一度、話がしたい
けれどヒーローとなってしまった自分と話しなどしたくないであろうし、そもそもガロウが名無しさんのことを覚えているかどうかも分からないのだ
罵声を浴びせられるだろう。黙って聞こう
顔の骨が折れるほど殴られるかもしれない。大人しく受け止めるとしよう
殺されても、おかしくない
それでも、ガロウに会いたい
「大丈夫かよ名無しさん?」
「!」
スティンガーに顔を覗かれる
ハッとして顔を上げれば眉の下がったスティンガーの顔があった
「まぁ緊張するよな。今この瞬間だってヒーロー狩りが現れるかもしれねーんだし」
「すまん。大丈夫だ」
「……」
チラリ、と一瞥されたが何も言わぬ代わりに口笛を吹き始めた
暗い顔をしていただろうか
本当は覚悟なんて出来ていないのかもしれない
だからこうして堂々と、真正面からガロウと対峙することに躊躇し、恐怖しているのか
駄目だ、駄目だこんな情けない姿
背筋を伸ばさなければ。顔を上げなければ
しかし中々上がらない背筋のまま歩んでいると、背中を撃たれた
衝撃で、一気に背筋が伸びる
撃たれたのではなく、掌で叩かれたと理解するまで少し時間がかかってしまった
「なーに大丈夫だっての! このスティンガー様がいるんだ。大船に乗ったつもりでいろって」
スティンガーの満開な笑顔に、土砂降りな心へ傘を差してもらうようだった
そうだ。今回の事は一人で抱え込んではいけないものだ。協会が、全ヒーローが関わってくることなのだ
決して一人ではない。仲間がいる
深呼吸を一つ。気持ちを整える
まずはガロウの捕獲。こちらが第一優先だ
ヒーローとして、ガロウと出会おう
次に友人、はたまた敵としてガロウと出会おう
覚悟は決まった。まずはヒーローとして対峙しようではないか
こちらも負けじと笑顔を作る
「おう、任せたぜスティンガー」
そこで、支給された端末がけたたましく鳴る
「デスガトリングにガロウが接触、交戦を開始した! 尾行班八十名はこれより撤退します! 位置情報は送信済み、後はよろしくお願いします!」
「チッ。俺らのほうじゃなくてあっちか!!」
「行くぞ、スティンガー!」
「おう!」
デスガトリングの方へ向かったか
最近メディアへの出演が多かったスティンガーの方へ来ると想定してたが、甘い考えだったらしい
足を前へ、前へ押し出す
一歩踏み出す度に祈る
まだ、シルバーファング達と出会っていませんように
ガロウが、無事でありますように
連続の打撃に意識が朦朧とする
掠れた視界で、彼らが見えた
ひどく理不尽で、強者の彼らが
弱者を悪とし、見下げる奴ら
許せない。許せない。許せない許せない許せない――
何が正義だ! 何が悪だ! 結局は多数派の意思によって俺が殺されてゆくだけだ!
許せん! 理不尽!
根拠は上手く解析できんが俺は怒っている!
ただわからせてやりたいんだ!
弱者の一撃を喰らわせてやりたい!
善悪の立場を否定してやりたい!
「名無しさん、アイツムカつくよな」
脳を翳めた、幼い誰かの声
誰だったけ。クラスの誰かだ
名無しさん。隣のクラスメイト。それなのに悪口がこちらまで伝染していた
アイツが何かしただろうか。いいや、アイツは大人しく過ごしていただけだ
一体何が気に食わなかったのか。今なら分かる。
ただ単純に、気に食わなかった。それだけだ
根拠もない悪意を浴びせられアイツは平気だったのだろうか
権力者の子で、容姿端麗で、運動神経も良い
本来ならアイツもたっちゃんと同じような存在だったはずだ
一体何の差でアイツも理不尽を受ける立場だったのか
ヒーローと怪人。勝者と敗者。強者と弱者。善と悪。
これらのどちらにも属さない理不尽
けれど、確実なのはアイツも俺と同じ立場だったこと
だからこそ、
「こんなところで負けてられるか!」
”あの時”俺が繰り出せなかった一撃を、撃ち込まなければ!!
1/2ページ