第83話 お見舞いにはメロンって言っただろ!!
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重い気持ちで病室のドアをノックする
名無しさんのそんな気持ちに相反するように、手に持つ花は綺麗に咲いていた
「おーい……大、丈夫……か」
名無しさんが見た光景は、ベッドで青い顔をして寝ている三人
……ではなく
「……随分、元気そうデスネ」
「いや、待て。違うぞ名無しさん」
重戦車フンドシがトランプを置き、名無しさんへ手のひらを向ける
制止、のジェスチャーだ
「そうだ、俺たちは立派な病人だぞ」
「テジナ、手に持っている物は何だ?」
「トランプだが?」
三人は、輪となりトランプをしていた
輪の中心に何枚かカードが捨ててあるということはおそらくババ抜きだろうと想像する
重戦車フンドシは椅子に座り、他の二名はベッドに座っている
テジナーマンはベッドの淵近くだ
「元気かよ、ブルーファイア」
「当たり前だ」
眉間の皺と、不機嫌そうな顔はいつも通り健在であった
いつも通りではないのは彼の右腕部分
病院服の袖が、右腕だけ薄い
その右袖部分に何もないことが分かる
名無しさんは一瞬だけ顔を顰めたが、すぐ呆れたような笑顔を作った
見舞い品で持ってきた花を花瓶に差し、その辺に置いてあった椅子へ座る
ババ抜きの様子を眺めていた
重戦車フンドシが嫌な顔をし、ブルーファイアが微かに笑う
そして、笑った顔を一瞬にして終わらし名無しさんへ視線を向けた
「見舞い品に花とはな。センスが女々しい」
「はあぁ!? ンだよ文句あんのか!!」
「食い物だろ普通は」
「うるせー! どうせむさくるしいだろうと思って華やかな病室にしてやろうと思ったんだよ!」
テジナーマンが重戦車フンドシからトランプを一枚抜く
そして残り一枚であった自分の手札と一緒に捨てた
どうやらこのババ抜きの勝利はテジナーマンのようだ
ブルーファイアは表情を変えなかったが、重戦車フンドシは肩を脱力した
名無しさんが二人へ声援を送る
ババ抜きで敗者は一人。いずれは決着がつくだろう
二人が互いのカードを真剣に見つめ合っていた
名無しさんとテジナーマンはニヤニヤしながら見つめていたが、名無しさんの視線はいつの間にかブルーファイアの右腕に移動していた
今はもう失われてしまった右腕
また。と心臓が握り潰されたように苦しくなる
いつもいつもそうだ。また間に合わなかった
思い出されるA市の瓦礫の山。左腕を抑える友人
あの時、俺は何していた?どうにかできなかったのか?
歯が震えるのを必死で我慢する
悔しさと、自分に対する怒り
握っている手の力が強くなっていた
「あがりだな」
「クソ……」
ハッと顔を上げる
そこには項垂れている重戦車フンドシが見えた
どうやらババ抜きの敗者は重戦車フンドシで決定らしい
ブルーファイアは満足そうだ
テジナーマンがトランプを集め、慣れた手つきできっている
「どうする、第二ラウンドやるか?」
テジナーマンの問いかけにブルーファイアと重戦車フンドシが頷く
「名無しさんもいることだしな」
「お、望むところ」
テジナーマンがトランプを配る
ババ抜き、第二ラウンド開始だ
項垂れているのは先ほどと同じ人物。重戦車フンドシであった
「お前は表情に出やすいんだ」
テジナーマンと名無しさんが黙っていたことを、ブルーファイアは遠慮のえの字も見せず言葉の刃で重戦車フンドシをぶった斬る
下がっていた頭が更に下がる
「まぁまぁ元気だせよフンドシー! 次はポーカーフェイスが必要じゃないゲームしようぜ?」
「名無しさんお前だけだな、優しいのは」
暫しの間トランプをし、雑談に花を咲かせていた
真っ白な壁と床でなかったらここは外のファストフードのように錯覚してしまっていただろう
思ったより三人が元気そうで良かったと名無しさんは安堵する
楽しい話の中、水を差すのが悪い気がして本当の目的を聞かず帰ってしまおうかと思う
いや、逃げては駄目だ。勇気を出さなくては
「……あのさ!」
名無しさんの張った声に三人が振り向く
「教えてくれないか、今回の事。――”人間怪人”ガロウの事」
怪我を負った三人に協会内で起こった事件について語ってもらうのは、ヒーローという肩書に、プライドに、泥を塗ってしまうようなことだ
負けてしまった戦を語りたい者などいないだろう。むしろ開けて欲しくない蓋のはずだ
それでも名無しさんは知る必要があった
知りたくない気持ちも多少はあったが
「やっとその話か」
テジナーマンが口角を上げる
「いつ切り出されるかと、待っていたというのに」
重戦車フンドシが座り直し名無しさんへと正面合わせとなる
「な、なんで」
分かったの、と言う前にブルーファイアが名無しさんを左の手で指さした
「お前は表情に出やすいんだ」
テジナーマンと重戦車フンドシが同時に頷く
とうとう名無しさんが堪えきれなくなり笑いが噴き出す
「ハハ、俺そんなに表情に出やすいかな」
そうだな、という風にブルーファイアが微かに笑った
確かに自分達の敗北を語るのは愉快なことではない
だがそれ以上に、自分達のような目に合うヒーローが出て欲しくないと思うのが彼らであった
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