黒歴史は消せない消したいお願いします
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
―どちらの死を先に見たいか?
言葉の理解は一瞬遅れた
男の狂った考えにイアイアンの眉間に力が入ってしまう
「お前ら、よく聞け。このビルには爆弾を仕掛けた。起動すればここにいる全員は死ぬだろう」
黙っていた連中は急にザワつき始めた
爆弾という単語の信憑性を周りと話しているのだろう
男はうるさい大衆をよそにイアイアンと会話をする
「ヒーローが当たり前となったこの世はみんなヒーローの力を信じすぎている。守ってもらうことが当たり前だと思っていないか?人間は自分の信じた正義に心酔しすぎだ。だから、覚まさせてあげなければならない。この世の戯言の正義を気づかせてあげるのだ」
「・・・それがお前の言う未来か」
「そうだ。人間の自立が目的だ」
男との会話を諦めた
今自分がどのような状況に立たされているのか、改めて自覚する
おそらく男はどちらかを選択して、後にもう片方も潰すであろう
イアイアンは自分の実力をわかっている。だからこそ、助けられるのも片方しかできないことも
オカマイタチとバネヒゲは男とは距離がありすぎる。助けの助けは手伝えないだろう
爆弾のスイッチを持っている右手を狙うか、名無しさんへ向けている拳銃を握っている左手を狙うか
大衆の目は男からイアイアンへと替わっていた
どちらの選択をするか
イアイアンの目は市民を見た。みんな、助けて欲しそうな目である
何を迷う必要があるのか。自分自身でそう思う
ここは本当なら迷わずスイッチを持っている手を狙わなければならない
だって名無しさんはひどい姿ではあるがヒーローである。発砲されてもかわせるのではないだろうか
・・・いや、けれど名無しさんは爆弾解除をしていた。もしそれが成功していたら?
いや、いや、まだ途中であったのなら
迷いが迷いを呼びイアイアンの額に一筋の冷たい汗が頬をなぞり地へと落ちる
名無しさんなら・・・名無しさんならやってくれるはずだ。イアイアンは右手に狙いを定めた
名無しさんは強いし弾一発かわすぐらいどうってことないはずだ。怪我をしてようと、どうにかしてくれるはず
けれど、
「・・・!。・・・ッッ!!」
名無しさんが、市民と同じ目をするものだから。普通の、助けを望む目をするものだから
「・・・うおぉぉぉぉぉ!!!」
「!!!」
まるで一種の映画のワンシーンでも観ているかのようであった
それほどイアイアンの居合い斬りは美しいものである
男の手が、ゆっくりと落ちていくようであった。――その手は左手だ
「愚かな!」
右手は痛みを感じる前にボタンを押した
一人の市民が悲鳴を、感染するかのように次々と絶叫などがあがる
だがその悲鳴は空を回り消えてゆく
「なっにぃ・・・!!」
男が驚きの表情が見せた
名無しさんが腰を浮かし手を使わないで立ち上がり男を縛られた手で殴りかかる
血の飛沫は空の水色を背景に散った
トドメを刺したのは既に走りこんでいたオカマイタチとバネヒゲだ
男は、完全に意識を失った
もう世界を変えようとしていた男の姿はない
バネヒゲが男が右手に持っていたスイッチを取り上げた
「一件落着ね。無事人質も救出できたみたい」
「そうですね。なんだが私達おいしいところを持っていってしまったようです」
後の処理は二人に任せるとして、イアイアンと名無しさんは大衆から離れ安全で静かな場所へと移動した
数メートル先では多くの喝采が聞こえる
フラリと紙が揺れるように倒れそうになった名無しさんをイアイアンが支えた
そして拘束された手を自由にしてあげた
名無しさんは自由となった手で口も自由にする
口の端は大きな瘡蓋
「どうして、右手ではなく左手を狙ったんですか?」
いつもの凜とした目でイアイアンを見つめた
あの助けて、という目は勘違いだったのではと思うくらいだ
「・・・お前のことを信じただけだ。お前なら、やってくれただろうな、と」
「ありがとうございます。本当に、あれでは意識も朦朧としてましたし避け切れなかったと思います」
あの男が言っていた
「ヒーローが当たり前となったこの世はヒーローの力をみんな信じすぎている」と
名無しさんの強さを過信しすぎていた。彼も、一人の人間だということを忘れていた
何が才能だ、実力だ。子供相手に何を嫉妬していたのか
名無しさんと一緒にいて、あの技術
どれほど努力をしたのだろう。まだまだ自分より子供だというのに
名無しさんは才能あるヒーローなんかではない。ただの、頑張るヒーローだ。
自分たちとなんら変わりはない
イアイアンは今までの自分を恥じるように息を吐き出すように笑う
「今回は・・・やりましたね!」
名無しさんが手をイアイアンへと向けた
それは、かつて振り払った手である
今回はそんなことはせず、しっかりと握る
戦う手とは思えないほど小さく、柔らかであった
しかしたまに感じる固い感触はきっと努力の証拠のマメだろう
「あぁ!」
二人は、お互いに同じような顔をして笑った
日が沈みかかる空は曖昧な色をしていたが綺麗だ
「早く医者へ行かないとな。怪我がひどい。化膿してしまう」
「そうですね、ありがとうございますイアイアンさん」
「・・・イアイでいい」
「え?」
「それと、敬語もなくて大丈夫だ。気軽にしてくれ」
これが、二人の絆の始まりであった
1/2ページ