おいおい反抗期か。夜九時に帰ってくるなんて
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名無しさんがコネでA級ヒーローになったというのがデマだということはすぐにわかった
「・・・!!」
きちんとこの目で、目の前で、見てしまったからだ
名無しさんの剣さばきの艶やかさを
目の前で繰り広げられる戦いに俺は目が離せないほど魅了されていたかに思う
しなやかに踊るような戦いっぷりに手が出せずにいた
我に戻ったのは、刀身が鞘に戻される音を聞いてからだ
災害レベル鬼を、たった一人で倒した
我には戻ったもの現実の結果に唖然を隠せない
レベル鬼などA級が束になってかかるものである
それを一人で倒しただなんて、しかもA級に成り立てのやつが
唾を飲み込む音が自分の中で鳴り響いた
「イアイアンさん・・・大丈夫ですか?」
生傷があちこちにあるが気にしてないように名無しさんが手を差し出した
まだその頃は今ほど強くはなかったのでさすがに手こずっていたようだ
「一人で立てる」
コンクリートの上に尻をつけていた俺は素っ気なく返し立ち上がる
焦りと、恐怖心を抱いたのだ
名無しさんの強さを目の当たりにして
強く握り締めた拳がその気持ちを押さえつけている
何なんだ、こいつは
A級に成り立てのやつだぞ?そんなやつがどうして鬼を一人で倒せる?
こんな奴に自分が追い抜かれることが怖かった
いや、もう直感的に自分より強いことを理解していたのかもしれない。それを俺は認めたくなかっただけだ
名無しさんの実力は日をめくるごとに姿を現していった
そして周りからの評価も最初とは驚くほどに変わった
最初は見た目の問題もあってこそこそと笑いものに、見世物にされてこそいたが今では尊敬のまなざしだ
いつのまにか名無しさんは4位にまで順位を上り詰めていた
俺の焦りは日に日に大きくなっていく
協会への信頼もとっていた名無しさんがもはや俺を越すのも時間の問題であったように思う
名無しさんへの嫉妬心は限界にまでいきそうだった
自分はS級であるアトミック侍の弟子で、死に物狂いで特訓して、努力して、ここまで強くなった
名無しさんをその時一言で表せば、”才能”の塊だ
才能と努力の差に頭に血が上っていた
ある日のことである
テロリスト達がビルへ立てこもったらしい
緊急にA級上位が呼び出される
「君達もわかっていると思うが、このビルはテロリスト達に占領されている。人質は約三十名はいるだろう」
電子音が鳴り真ん中にモニターが映し出された
そこにはビル全体の見取り図
ビルは八階建てで少し小さめの建物だ
「テロリストの数は把握しているのは十四名。しかし・・・もう少しいる可能性もある。人質がいる場所はここだと連絡が入った。なので、突入は・・・」
念入りに見取り図、人数、作戦を頭に叩きつける
俺達は何よりも人質を助けることが最優先だ。最悪の場合テロリストは後にしてもいい
それに俺達は頷く
ただ一人を除いては
「・・・あの、」
「どうしたプリンス」
「この作戦、効率が悪いように思えます」
「・・・なんだと?」
名無しさんが立ち上がり真ん中に映し出されているビルの見取り図を指す
「突入の段階で裏口から入るのはとても安易です。そんなこと、向こうも予測してるはずです」
「ならば正面から突入とでも言うのか」
「いえ違います」
「他に入り口はない」
「あるじゃないですか、たくさん」
「・・・は?」
指差す先は、ビルの横であった
しかも左側の路地裏に面する部分
「窓から入って突入したほうがいいと思います。それに向こうも考えてついていないでしょう。警備がいたとしても正面入り口と裏口に比べたら薄いはずです」
この作戦の責任者も含め全員が黙った
黙ったというよりは声が出なかったというべきか
名無しさんは続ける
「ここのルートで人質は逃げられます。そしてこちらでテロリストを追い詰めましょう。これなら、人質も助かりテロリストも捕らえることができます」
みんなが呆然と聞いていた
名無しさんの言っている作戦はあまりに無謀であった
実行できるかどうかもわからない
ついに口が開けたのは責任者だ
「・・・しかし、それだとここにいる数十名が突入の時点で入りきらないぞ」
「だからこの作戦には五名で実行するのが最適だと思っています」
「なっ・・・」
さすがに責任者も「五名」という言葉には絶句したようだった
テロリストの数は推定だけでも十名を越しているというのにそれをたった五名で突入だと?
確かに俺達はA級であるし戦闘にも長けているが相手はビルをものの数分で占拠できた者たちだ
それなりに、戦闘技術は持っていると断定できる
何を考えてるんだ、こいつは
「実行する五名は俺が指名してもいいでしょうか?まず、俺と黄金ボール。ブシドリル。イナズマックス・・・それと、」
「いい加減にしろ!!」
ついに俺の限界はきてしまっていた
席を立ち上がり叫ぶ
「これはお遊びじゃないんだぞ!!そんな無謀な作戦で人質を助けられると思っているのか!?人質を助けて、テロリストも捕獲する?そんな漫画みたいなこと成功するとでも思っているのか。現実はそんなに甘くない。お前はまだ社会を知らない子供だ!!」
今でもこの時の自分を思い出しても笑ってしまう
子供だったのは俺のほうだ
ただただ、今までの嫉妬や焦りをすべてぶちまけていた
気持ちの整理もつかず、頭に血が上っているままだ
自身でも頭が熱くなっているのはわかっていたが止められなかった
「人質が第一優先だ!それが俺達・・・ヒーローの役目だろう!!」
「・・・雑草は残したらまた生え続けるものです」
「は?」
「逃がしたらまた現れます」
「・・・っ!!」
手は名無しさんの襟首を掴んでいた
まるで中身の入っていない鞄を持ち上げたかのように軽かった
片手でも持ち上げられるのではないかと思ったぐらいだ
「お前は人質がどうなってもいいっていうのか!!」
「イアイ落ち着きなさい!」
おそらくカマが止めてくれてなかったら俺は殴っていたかもしれない
それほど理性がきかなかった
襟首を掴んでいた逆の手の拳を緩やかに解き、同じように掴んでいた手も離した
まだ興奮状態であったがカマのおかげで少しは落ち着きを取り戻したかもしれない
少なくとも、まともな口がきけるまでは
「・・・お前の作戦は無しだ。無謀すぎる。最初の作戦でいく」
「・・・いや、プリンスの作戦でいこう」
「え?」
責任者の発言に目を丸くし、振り向いた
「確かに人質の命は大切だ。だが・・・悲劇を二度と繰り返さないことも大切だな」
「そんな!でも・・・」
「プリンス。五名の最後の一人は?」
名無しさんは乱された服を元に戻しているようだった
最後までボタンを閉じたあとに俺のほうを向いた
「イアイアンさん、お願いできますか?」
本当は断りたい気持ちでたくさんであったが時間がない
今も人命がかかっているのだ
たとえ無謀だろうがやるしかなかった
「・・・さっさと行くぞ」
誰よりも早くこの部屋を出て、出発用の車に乗った
一人で頭を冷やす時間がほしかったが後にみんなが残ってきたので頭の中は熱で火照っていた
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