第16話 愛用車、絶対絶対壊すなよ!
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「……」
「……」
静寂な部屋に、1人と1体が座っていた。
たまに機械が動くキュィィィンという音が静かに鳴る。
気まずい。名無しさんは何か喋ろうかと思うが、駆動騎士は話しかけられるのが嫌いかもしれない。
早く、早くスタッフが来ないものか。
ここ最近はS級の方々と話す機会も多い。しかしまったく喋らないどころか、会わない人だっている。
その内の1対が駆動騎士だ。
何を考えているのか分からないサイボーグ。
ジェノスと違い、表情が分からないのも少しだけ恐怖を感じる。
「A級2位軍人貴公子」
「はっはい!?」
グルンっと首が動き、名無しさんの方を向いた。
1つしかない、視界を映すためだけのモニターが名無しさんを見つめた。
その威圧が名無しさんの背骨を伸ばした。
「他のヒーロー、S級までも関係があるそうだな」
「関係があるというか、」
付きまとわれているだけ、の方が正しい。
特にゾンビマンと番犬マンは、こちらが視界に入らないようにしているのに追いかけてくる。
思い出すだけで、ゾッと寒気が体に行き渡る。
「何故お前が好かれるのか、魅了されるのか、何か特殊なフェロモンを無自覚に放出しているのか」
「はい?」
「サンプルを取りたい。今日一日観察させてもらう」
駄目です。無理です。やめてください。
そんな拒否の言葉が出る前に、協会のスタッフが部屋に入ってきた。
「遅れてすまない。さっそくだが、話を始める」
プロジェクターに今回の任務について写しだされた。
しかし名無しさんは駆動騎士の方を向いたままだ。
駆動騎士の言っていることが、何も理解できない。
サンプルって何だ。フェロモンって何だ。
言葉を脳内で繋ぎ合わせるが、分からない。
「軍人貴公子くん、話を聞いているか?」
スタッフに注意され、正面を見る。
いけない、集中しなければ。モニターに書かれている文字と図形を読む。
今回の任務はこうだ。
銀行のシステムに侵入するブラックハットハッカーの集団の本拠地を見つけた。
数は10人ほどだが、彼らはとあるペットを数十匹飼っている。
ペット、だなんて可愛いものではないが。
どうやらヒーローが倒したロボットを持ち帰り、改造しているようだ。
ヒーロー協会として、倒したロボットが悪用されているなど世間にバレたら、また非難されてしまう。
だから、第1の任務は全てのロボットを排除。
第2の任務は、勿論本拠地の破壊と、ハッキングデータの回収。
世間にバレてはいけないように、速やかに行うこと。
そう、このブラックハットハッカーの集団は最初からいなかったかのようにしなければならない。
この活躍が、世間に知られなくても良い。それで良いと思うヒーローではないと、できない任務であった。
そうして抜擢されたのが駆動騎士と名無しさんであった。
名無しさんが手を挙げる。
「あの、童帝くんの方がこの任務に最適だと思うのですが……」
童帝ならば、その集団へハッキングしてデータを回収するなど片手間でもできるであろう。
わざわざ自分が行くよりも、そちらの方が確実に成功できる。
しかし、スタッフは首を横に振る。
「彼は今忙しいそうだ」
「忙しい?」
「ゲームをクリアしたいから、と断られてしまった」
思わずテーブルを叩いてしまいそうになった。
何というくだらない理由なのか。
命の危険が無い。協会の自己都合な任務に、呆れて断ったのだろう。
おかげで、多少ハッキング知識がある名無しさんにその役目が回ってきたのだ。
怒りを抑えろ。鎮めろ。深呼吸を繰り返す。
「駆動騎士くんは、ロボットの排除をお願いしたい。金属の欠片も残さず頼む」
「……」
駆動騎士は任務の内容を遂行するだけ。
協会の自分勝手な都合についても口を出さない。
今の駆動騎士には、名無しさんについての興味しか無かった。
モニター越しに戦う姿は見たことあるが実際は見たことない。
それも他の者が夢中になる理由があるのか?
「以上。明日7時から任務決行だ。後は2人で話し合ってくれ」
そう言ってスタッフが部屋から出る。
また、先ほどと同じ静寂が流れた。
なんて他人任せなのだろうか。作戦すらこちらで考えないといけないとは。
それを、信頼しているからといえば納得するしかない。
駆動騎士は動かない。
仕方なく名無しさんが作戦を考えることにした。
机で光っているディスプレイを操作して、ハッカー達のアジトを映した。
「えっ……と、敵の数は10。ロボットの数は30と推定されています」
ロボットは見張りとして使われているので、誘き寄せてまとめた方がいい。
ハッカー達の戦闘能力はほぼ無いと仮定。
と、自分で考えた作戦を話した。
駆動騎士は動かない。本当に聞いているのか不安になってしまう。
「俺の意見は以上です。駆動騎士さんはどうですか」
「異論はない。その作戦で良い」
「は、はい……」
一応聞いていたみたいだ。
ホッと胸を撫でおろす。その後は抜けている部分を駆動騎士が指摘し、埋めていく。
「捕まえた人間はどこに収容しておく?」
「えぇと、この部屋にロッカーが複数置いてあります。この中がバレないと思われます」
「了解した」
駆動騎士は名無しさんが想像していたより話を聞いてくれる。
先ほどの発言が嘘のようだ。
作戦がまとまり、話は以上だ。
ふと、駆動騎士の方を見ると彼は名無しさんをジッと見ていた。
ビクッと体が動く。真っ赤な丸いモニターに見つめられて驚いてしまったのだ。
すぐに視線をずらす。
「作戦は以上です。お疲れさまでした」
足早に部屋を出る。
掴めない人だ、と思った。何を考えているのか、どう思っているのか、何も分からない。
まぁ、こうして話し合うのも今だけだろう。
明日の任務では、業務連絡しかしない。今日ほど喋ることはないだろう。
ドッと全身の力が抜けた。
アマイマスクやゾンビマンに絡まれるのとはまた別の疲れが押し寄せる。
携帯で近くのカフェを調べる。
今日の疲れと明日の任務に向けて、甘いものでも食べようと思ったのだ。
「ここから5メートルに喫茶店。7メートルにチェーン店」
「はぎゃっ!!??」
後ろから駆動騎士の声に、持っていた携帯を落としそうになる。
携帯をキャッチしてくれたのは駆動騎士だ。
何故、こんなところに。
あとどうして調べている内容を。
そんな名無しさんを察知したのか、駆動騎士は言う。
「言っただろう。今日一日観察すると」
目の前が真っ暗になる。
駆動騎士の言葉の意味が分かってしまった。
つまり、今日一日駆動騎士に見られるということだ。
ご飯の時も、ヒーロー活動の時も、家にいる間も。
逃れようと思っても、S級9位の目を欺くことなど名無しさんにはできない。
駆動騎士は、ヒーローの中でもまともだと思っていたのに。
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