第4話 アマイもの(物理)を所望します
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怪人を倒したあとはヒーロー協会へ報告をしなければならない。
いつ、どこで、どんな怪人で、どのように倒したのか。
情報は武器になる。似たような怪人が出た時は、情報をもとにどこが弱点か推測しやすい。
また、どのようなヒーローを向かわせるべきかなど役に立つ。
報告はヒーローの義務だ。しかし、多忙な場合──例えば、S級ヒーローやアマイマスクは除外されているのだ。
つまり、A級二位である名無しさんは報告するのは義務である。
「ふぅん。災害レベル虎でこれだけ手間取ったの? S級になるのはまだまだだね。君は甘い。悪などさっさと排除したまえ」
「一言いいか。ウゼェ」
名無しさんの横にいるのはA級一位のイケメン仮面アマイマスクだ。
アマイマスクは名無しさんがここに来るのが分かっていたかのように、突如現れた。
さっさと帰りたい。名無しさんの本音だ。
何故かアマイマスクは名無しさんに異様に絡んでくる。その理由は分からない。
ライバル視しているのか、それともただの嫌がらせか。どちらかだろう、と考えている。
それでも理解不能なのは変わらない。むしろ分かりたくないまであった。
「僕より強くなるとか負け犬の遠吠えは幻聴だったかな?」
「殺す」
確かな殺意。この後決闘でも申し込みたいが、どうせ忙しいからと断られるだろう。
名無しさんはため息をつく。ただでさえ、コイツは隣にいて欲しくない。
アマイマスクはよく名無しさんの隣にいる。
ただでさえアマイマスクだけでも目立つのに、名無しさんも一緒にいるともなれば。ちょっとしたライブのように目立ってしまう。
今でも、名無しさんはひしひしと熱い視線を感じていた。
名無しさんはいっそ、誰かに話しかけられたほうが嬉しいと思うが、残念ながら周囲は話しかけることができない。
美しい2人が並んでいる姿は、まるでアフロディテとイシュタルが並んでいるかのよう。
それだけ美しいからこそ、話しかける者はいなかった。
神へ触れる者はいないだろう。高い宝石を触る際は気を付けるだろう。絵画を見て一瞬息が止まるだろう。
そんな2人へ気軽に話しかけることができる者など。一般人も、ヒーローも誰一人いない。
「まぁ名無しさんの端正な顔は認めている。一緒にアイドル活動してもいいと思ってるよ」
「ありがとな全然嬉しくねぇ」
名無しさんは名無しさんで、アマイマスクの強さは認めていた。
性格は悪い。だが、強い。勝てないのだから認めないといけない。
いつか、アマイマスクの膝を折りS級になること。それが名無しさんの目標だ。
「いつかお前越してやるからなクソ」
「できるものならね」
威勢を張る名無しさんを鼻で笑う。その姿ですら、周りは感嘆の息を漏らすのだ。
名無しさんだけがアマイマスクのその姿が苛立だしい。
いつか、絶対にアマイマスクより強くなる。そして、S級になりあの御方にお近づきになりたい。
それが名無しさんのS級になりたい、邪な気持ちだ。
アマイマスクの嫌味は続き、嫌でも耳に入ってしまう。いくらなんでも遅すぎないか、と疑問だ。
時計をチラリと見る。
「アマイ、仕事の時間大丈夫なのかよ」
「あぁもうそんな時間か」
やっとアマイマスクから解放されることに、心の中だけで留めようとしていたガッツポーズが行動に出てしまう。
アマイマスクは名無しさんに背を向けて歩き始めた。
あぁ、やっと静かになれる。この怒りが収まる。そう思っていたのに。
半分ぐらいまで歩いたところで、アマイマスクが振り返る。
「それじゃあまた。プリンスソルジャーくん」
「そのロン毛と共に首を切ってやろうか?」
名無しさんがプリンスソルジャーというヒーロー名が恥ずかしいことを知っていて、わざと言っているのだ。
しかも大きな声で。周囲に聞こえるように。
顔が赤くなるのは、アマイマスクへの怒りと恥ずかしさで熱が集まっているから。
アマイマスクは微笑んでから再び歩き始める。
名無しさんは改めて俺はアイツが嫌いだな。と呟いた。
「君はずっとA級だよ。軍人貴公子名無しさん」
誰も見ていない、誰にも聞かれないように呟く。
アマイマスクは一人そう微笑んだ。
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