第19話 今日は17時から魚が安い
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「お腹空いた……」
制服姿のまま夕日を背にして歩く。
今日は大変な日だった。
朝は寝坊して何も食えず、お昼は学校周辺で怪人が出たため昼食が取れず、午後は赤点スレスレの数学、化学、英語が続いたため集中して取り組まないといけず、学校が終わったらファンが押し寄せ(先日の写真のせいで)……そして今である。
今すぐコンビニに行きたいが、冷蔵庫には鶏むね肉2キロがある。
それを調理して食さなければならない。
背中が丸まったままスーパーに入り、野菜や調味料をカゴに入れた。
特に値段は見ていない。自分が欲しいものだけを購入している。
すると遠くに見たことのある頭が見えた。
髪がなく肌色丸出しの頭。
「サイタマ」
「ん? おー名無しさん」
自然に隣に並び他愛ない話をする。
そしてふと、どうして彼がここにいるのか疑問に思った。
怪人が出現しているならサイタマがここにいるのか理解できる。それならば趣味であり、仕事であるヒーロー活動をしに来たのだろう。
しかし今日T市に怪人など出現していない。その証拠にサイタマはOPPAIと書かれた、名無しさんにとっては皮肉とも取れるパーカーを着ている。
怪人が出ているなら彼は真っ黄色のコスチュームを着ているはず。
「何でここにい、」
「お前!?」
ビクリ、と肩が跳ねる。
サイタマの目線は名無しさんのカゴの中身。
カゴの中はキャベツと鶏ガラ、砂糖のみが入っている。
何もおかしい物は買っていないし、ごく普通のスーパーにおかしな物は置いていない。
名無しさんが首を傾げたところで、サイタマが言う。
「おまっ……魚は!? 早くしないと売り切れるぞ!?」
「は?」
魚がどうしたというのだろう。
名無しさんが考えているのを気にせず、サイタマは腕を引っ張る。
「これを逃すと次はない」「90円だぞ」というサイタマの言葉は名無しさんに聞こえていなかった。
いつの間にか眼前に"90"と大きく赤い文字が書かれたポスターの前にいた。
あぁ、そういえば。と名無しさんはやっと思い出す。
今日は18時から魚が安かったと、スーパーの入り口にそんなチラシが入っていた。
「いや今日はもう晩飯決まってるから魚いらないんだよ」
「ふざけてるのか!?」
「えぇ」
ふざけたこと言ったか? と言い返そうとしたが、サイタマの真剣な顔を見て口を噤む。
いつもの何も考えていない目ではなく、キリッとさせた目。
「お前ひとり暮らしなんだろ!? なら安い時に買って、冷凍しておく! これひとり暮らしの常識だぞ!!」
「は、はぁ……でも俺稼いでるし、」
「だぁぁっらしゃ!!」
名無しさんの続きの言葉を言わせないよう、サイタマは叫ぶ。
あのまま言わせておくとサイタマの心が耐えられないから。
ゴホン、とサイタマが咳払いをしてから人差し指を名無しさんに向ける。
「しょうがない……ひとり暮らしのコツを名無しさんに教えてやろう!」
「え、大丈夫」
「お前なぁ! 人が教えてやると言っているのに!!」
「お腹空いてるんだもん」
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