第18話 かまってくれなきゃやだやだ
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「美しいものはひかれ合う、って信じるかい?」
「はぁ?」
名無しさん渾身のはぁ?が出た。
何を言っているのかさっぱり分からない。理解したくもない。
どうしてこんなにもアマイマスクは神出鬼没なのか。
忙しい、というのは嘘なのか。
長い溜息を吐き出し、不運に対するイラつきを落ち着かせた。
朝っぱらからアマイマスクに会うなんて、今日の占いは最下位だったことを思い出す。
必至でアマイマスクを視界に入れないよう気を付ける。
「ふふ、また君に美しさに磨きがかかっているようだ」
「失せろ」
報告書を書く手が震える。
アマイマスクに何を言ってもここから消えないことは分かっていた。
こちらが言えば嫌味を言い、言い返せば皮肉を言われる。
そこでイアイアンに言われたことを思い出した。
言い返すから向こうは面白がってからかうのだと、好きな子気になる子にちょっかいをかけてるだけだと、イアイアンは言っていた。
ならばすることは1つ。
「だから未だに僕を倒せずS級にあがれないままA級なんだよ」
「……」
「もっと美しくなるためにさらに強く、そして速やかに悪を排除できるようになったほうがいい。悪に容赦はいらないのだから」
「……」
言い返したい気持ちを抑える。
アマイマスクの声を耳に入れないよう、周囲の音を拾いとる。
カチカチという微かな時計の音も逃さない。
「ヒーローとは、どんな悪も逃がしては駄目だ。どんなに反省していようと更生しようと、怪人という過去を持ってるというのは美しくな……って聞いてる?」
「……」
「……」
「……」
アマイマスクが黙った。
今彼がどのような顔をしているのか見たい。
だがここで反応してしまっては敵に笑顔を見せるということ。
必死に我慢して手元を動かす。
「ふーん。僕に対してそんな態度していいと思ってるんだ」
視界の端から高級な布が見えなくなった。
心の中でガッツポーズ。乱舞。歓声。
様々な表現で喜んだ。
何だ、アマイマスクを自分の前から立ち去ってもらうのはこんなに簡単なことだったのか。
過去、自分がムキになって言い返していたのが今では恥ずかしいぐらいだ。
ほっ、と全身の力を抜く。
今度からアマイマスクに会っても無視をすればいい、と学ぶことができて嬉しい!
ウキウキで報告書を全て書き終え提出した。
その時だ。
「ッぎゃーーーーッ!!!」
「きゃああああああ」
「やばいやばいやばい」
周りの絶叫と名無しさんの全身に鳥肌が立ったのは同時だ。
名無しさんも周りと同様叫びたかったが、あまりの衝撃に喉の筋肉が硬直してしまったのだ。
背中に冷たい感触と、肩に重み。
アマイマスクが名無しさんのことを後ろからハグをしている状態だ。
ぞわぞわと蝶々が周りを飛んでいる不快感。
反抗したいのに、体も喉も動かせない。
「あーあ、無視なんてするから」
耳元でそう囁かれ、より一層鳥肌が強くなった。
最早周囲の叫び声やカメラのシャッター音など聞こえていない。
やっと喉が動かせるようになると、名無しさんは早口で言う。
「ごめんなさい無視して申し訳ございませんでしたお願いですから許してください2度としませんから離していただけませんか」
「……ふふッ」
名無しさんの体が軽くなる。
硬直した首を無理やり動かしアマイマスクの方を見た。
すると彼は手で口を隠しながら笑っている。
それは面白いものを見たような笑い方だった。
そんな声を聞いたのと、体の硬直が解けたことで名無しさんは動く。
「コロス」
「ふっふふ、ふ。やってみれば?」
この後名無しさんは協会内で怪人発生以外のことで武器を使用したこと、ヒーロー同士で戦うこと、2つのルールを破りセキンガルにかなり怒られた。
久々に恐怖を感じてしまい、「でもでもアマイマスクが」「アイツが悪くて」と言い訳をしてしまったことにより反省文を書かされたとさ。
次の日、アマイマスクと名無しさんの写真はありとあらゆるところに回り世間を騒がせた。
1/1ページ