こっちもあっちも迷子。僕の気持ちはどうだったけ
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「ごめんなさい名無しさん」
「ううん、大丈夫だよー」
そう言われて、名無しさんの前に立つフブキは黒塗りの高そうな車へと入っていった
今日はフブキと名無しさんでショッピングの予定であったが、フブキ組のほうで何かあったようでリーダーであるフブキが行かなくてはならないということになってしまった
ヒーローは忙しい
怪人出現だけではなく犯罪者まで取り締まらなくてはならない
仕事はたくさんある
仕方ない。と自分に言い聞かせる
だが口に出てしまうのは不満ばかりであった
「せっかくおめかししてきたのにぃー!」
名無しさんが見た目に気を遣うのはフブキやタツマキ、女の子とお買い物に行く時だけ
頑張るのも、その時だけ
いつもは下ろしている髪型もアップしてみたり、滅多に履かないスカートをはためかせてみたり
それが全部無駄になってしまった
そしてここは名無しさんが初めて来る場所
こんなところで独りにされて、果たしてうまく帰れるのだろうか
駅への帰り方だって最早覚えていない
様々な不安から、もう一度声に出してしまう
「ヒーローなんて嫌いだー!!」
「……悪かったな」
「ファベラッチ!?」
後ろを振り向けば、茶色のコートを着て煙草を吹かすS級8位のヒーローが立っていた
「ゾ、ゾンビマンさん何故ここに?」
「ヒーローの仕事だよ。それにしても可愛くねぇ声だすんだな」
「それはどうも」
「褒めてねぇ」
名無しさんの不安が一気に消え去る
こんな知らない土地で偶然顔なじみに合うとは
これで駅まで帰れそうだ
「ゾンビマンさん!」
「名無しさん!」
「「駅までの帰りかた教えて(ろ)」」
まるで事前に打ち合わせでもしていたかのようなハモり二人は目を合わせた
あんなに達者であった口は、偶然の感動のせいか何も喋らない
無言の蓋を開けたのはゾンビマンのため息であった
決して軽いものではなく、空気の中で一番質量が重そうなため息である
また彼の眉間の皺が深くなりそうだ
「マジかよお前も迷子かよ……」
「同じ言葉返しますけどね?」
「いい歳して恥ずかしくないのか」
「ゾンビマンさんいくつでしたっけ」
「俺は仕方ないだろ。初めてここに来たんだし」
「私もですよ」
「「……」」
視線こそ交わらないものの、見る先は同じく未来の見えない地面である
いい歳した大人が二人そろって迷子とは
この現実を、無理やりにでも受け入れなければならない
「……行きましょうゾンビマンさん」
「……そうだな」
言葉を伝えずとも、二人は自然に共に行動することが決まり事のように歩き始める
果たして、ヒーロー・ゾンビマンと怪人・名無しさんは無事に帰ることができるのだろうか
二人が向かった先、というよりは偶然見つけたディスカウントストアだ
地図を買おう、と言ったのはゾンビマンである
残念ながら一家に一台どころか一人一台が当たり前なこのご時世に二人は携帯を携帯していなかった
名無しさんは忘れた。と
ゾンビマンは持っていない。と
「持ってないなんて意外です」
「大体が壊れんだよ、戦闘でな。ちなみに名無しさんには二台ぐらい壊されたっけか」
「地図ありましたよゾンビマンさん」
話された内容をなかったかのようにするために、別の話題へにする
本来の目的を成せ、とでも言うように指さした
売れない商品のせいか、存在が消えかけているかのように地図はホコリを被っていた
ゾンビマンが持ち、手で軽くホコリを払った
「うし、これで駅まで行けるだろ」
何故交番に行かず、わざわざ地図を買うという選択肢を二人は選んだのか
答えは単純に、恥ずかしかったからである
ゾンビマンはヒーローで、そんな彼が迷子だなんて恰好がつかない
名無しさんは名無しさんであまり警察にいい思い出がない
結果、他人の力を借りず自分たちの力で駅を目指すこととなった
店から出た二人の顔は勇ましかった
そして地図代はゾンビマンがだした
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