美しいバラには周りに何も必要ない
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※ヤンデレ注意
「いっ・・・てぇ・・・」
意識が戻り後頭部をさする
そこにはザラリとした感触に血が固まった塵が細かく落ちていった
半開きであった目を完全に覚まし辺りを見回した
一瞬、肩があがる
そこは一面灰色の壁と床、安そうな質素なベット、トイレが設置してある
何より頭を混乱させてしまったのは眼前にある黒い鉄格子――檻である
もちろん閉じ込められているのは自分だ
「おい!誰か出て来い!おい!!」
叫んでみるも帰ってくるのは反響した自分の声であった
灰色のこの空間は不気味に薄暗い
ここで混乱して喚いたって解決できないのは理解しているので、まずは頭を落ち着かせるためにここに来てしまった経緯を思い出す
ベットに座り組んだ手の上に頭を乗せてゆっくりと記憶を探った
昨日のことである
黄金ボールがボーナスがあったから飯を奢ってやるよ、と言ってくれたので一緒に居酒屋へ行った
夜は人で賑わうはずのその居酒屋の客は俺達だけで他は店主しかいない
元気のいい店主は具合が悪いのかひどく顔が青ざめていた
不審に思った俺達だが、まぁそういうときもあるんだな、とその時はそう理解してしまった
混んでいて普段は座れないカウンター席に座り嬉々として手作りメニューを見る
最初はやはり飲み物、ということで黄金ボールはビールを
俺は烏龍茶を頼む
飲み物はすぐに出てきた
お互い喋りながら五分ほど経ったところで、異変に気づいた
「・・・!?」
意識がグラリと、回るような、押しつぶされるような
大きな音を立て椅子から落ちてしまう
霞む視界で黄金ボールも椅子から落ちていた。必死に彼へ手を伸ばす
だが、誰かが黄金ボールを蹴り飛ばした
「ク・・・クソ・・・!!」
せめて相手の顔を
薄れゆく意識の中、回る視界では黄金ボールを蹴り飛ばした人影が近づいてきたので腰に携えてある銃を持った
「・・・っ!」
後頭部に強い衝撃
そこでふっと身体が軽くなるように意識は途切れてしまった
――ということがあって目が覚めたらここにいた
自分を襲った人物は何者なのか、何が目的なのか、彼は無事なのか
様々な疑問が渦巻く
ベットから立ち上がり自分の身体を確認してみた
後頭部以外に痛みは感じない。無傷である
当然のようだが刀も銃もない
服の裏に仕込んである手榴弾なども
靴も確認する
そこで舌打ちが出てしまった。自分の靴底にはチップ型の通信機と小型のナイフが仕込んであったのにそれすら取られている
そこで脳が感覚を思い出した
身体がぶるりと震える
寒い。すごく寒い
吐く息が白いことにも気づいた
自分で自分を抱きしめ体温を逃さぬようにする
それだけでは足りないのでシーツしか敷かれてないベットのシーツを剥ぎ取り自身へ巻いて縮こまる
それでも身体の震えは止まらない
薄い布ではこの寒さから逃れることはできなかった
この灰色の空間を見ているとより寒さが際立つので目を瞑った
「・・・ん」
いつのまにか寝ていたようだ
寒さのせいですぐに意識が冴える
血管が痛むことを感じつつゆっくりと立ち上がる
筋肉繊維が凍ってしまったかのように痛んだ
「ふざけんな!!誰か出てこい!!」
鉄格子の奥にある扉へ怒鳴ってみるも何かが出てくる気配も見せなかった
白い息が吐き出され、そこから体温を奪っていくので口は早めに閉じた
またしてもシーツに包まり自身の体温を守った
寒い、というよりは痛い、というべきか
指先の感覚が乏しくなってくる
それでも自我を壊さぬよう必死で脳を動かした
きっと、きっと誰かが助けに来てくれる。俺がいないことに不審を抱き探してくれるはずだ
そうだ、一緒にいた黄金ボールなら・・・
ガチャリ、と重い音が聞こえた
軋む首をバッと上げると鉄格子の奥の扉が開いた
「名無しさん!」
聞き覚えのある声に体温を逃がさぬよう閉じていた口が開いてしまう
「・・・ッアマイ」
いつものように綺麗な服を纏ったアマイがこちらへ駆けつけてきた
ふらふらと立ち上がり鉄格子を握り揺らした
「よ、よかった・・・。早くここから出してくれ」
アマイは足を止め俺の顔を見た
あぁ助かった。良かった
極度の安心に自然に口角が上がる
やっとここから出られる。この寒さから、痛さから
まさか助けに来たのがアマイとは予想外であったがとにかく今はここから脱出することが第一だ
緩む顔でアマイのことを見上げた
「・・・ッ!」
脳に直接氷柱でも刺されたかのようにゾッとした
アマイは檻から出してくれる気配も見せずただただ――笑っていた
端整すぎるその笑顔に恐怖した
「アマイ・・・?早くここから出し、」
「あぁ良かった名無しさん。やっと汚いものは排除できたよ」
「は・・・?」
頭が真っ白になる
アマイは肩をすくめて楽しそうで、嬉しそうに話を続けた
「君をずっとここに閉じ込めておけばもう二度とバラが汚されることはない。美しいバラは一生僕のものだ。だからね、名無しさん。大丈夫だよ僕がその美しさを守ってあげる。ずっとここにいよう。君が枯れてしまわないようずっと見ててあげるから」
・・・狂ってる。狂ってる狂ってる狂ってる!!
寒さではない、別の震えが体中を襲った
まさかアマイマスクが俺を閉じ込めただなんて
吐き出された白い息はすぐに空気と混じり溶けるように消えていく
「ふざっ・・・けんなよ・・・!!ふざけんな!!ここから出せ!!」
鉄格子の隙間から腕を伸ばすもアマイには届かない
アマイはそんな俺の姿を愛おしそうに優しく見つめている
その視線に恐怖しか感じなかった
「じゃあね名無しさん。僕は仕事があるからまた来るよ」
手を横に振って出て行くアマイの背中へ叫び続ける
閉められた重い扉にも暫し叫んでいたがそのうち無駄なことを悟り先ほどと同じ体勢になった
・・・いや、大丈夫だ。大丈夫
きっと誰かが助けに来る。来てくれる
協会だって俺がいなくて黙ってはいないだろう
ましてやこれは一人での犯行だ。すぐに見つけ出してくれると思う
そう信じて、この灰色の空間と寒さに耐え待った
――だが、無常にも最後まで助けはこなかったと知る
どれくらいの時間が経っただろうか
もうすでに何日かは経っているかと思う
口から出る息はやがて白ですらなくなっている
自分の肌の色を見て、本来の肌の色が思い出せなくなるほど不気味な色になっていた
ここに来てから水しか飲んでいないせいだと思う
おそらく寝ている間にでも置いといてくれているのだろう
なのでアマイの姿はあれきり見ていない
この寒さによる身体の軋みと、空腹と、身体の衰退と、灰色の空間と、助けがこない先の絶望に精神がおかしくなりそうだった
静寂による耳鳴りで鼓膜が劈き耳を塞ぐよう頭を抱えた
誰か、誰でもいい。誰でもいいから、お願いだから助けてここから出して寒い。寒いよ。お腹空いたよ。誰か、お願い、誰か、来て、怖いよ、嫌だよ
やがて、水すらも体温を奪う原因となり受け付けなくなった
薄いシーツに包まりながら重い頭を床へ預ける
灰色の床を、ただ見ていた
ついに何も考えられなくなった。助けだとか、恐怖だとか
あぁ、このまま死ぬんだな
脳の最後の思考がこうだったように思う
「・・・」
いつのまにかアマイが鉄格子の先へいた
また自分は意識を失っていたようだ
弱った俺を見るアマイの視線にどうも思わなくなる
もう、彼へあれこれ言う体力もない
アマイは黙って踵を返し扉の向こうへ消えていった
少しの時間が経った後にアマイはまた来た
鼻をくすぐった香りに弱ったはずの身体は反応した
「お腹、空いてるよね」
オボンに乗せられた器を一つずつ、鉄格子の隙間からこちらへ差し出してくる
パンに温かいスープ、温かい飲み物
最初はこの光景が信じられなくて呆然と見ていたが、震える手でパンを一つ掴む
おそるおそるそれを口へ運んだ
「・・・!!」
そこからは無我夢中で覚えていない
散らかった器を見たような気がする
「名無しさん」
久々の肉声。耳鳴り以外の音
首は自然に彼のほうへ向いていた
アマイはしゃがんで俺と同じ目線になり美しい両手をこちらへ差し伸べる
やがてアマイの手のひらは俺の頬を包んでいた
・・・あたたかい
こんなにも、温かいものがあったのか
じんわりと氷を溶かされるよう
ゆっくりと、アマイの手へ自分の手を重ねる
どうしようもないほど心地がよくて、気持ちがよくて
ずっとこのまま、こうしていたい
だがパッと温度はなくなる
「ごめんね、時間だから行かないと。またね」
なんということだ!ここからアマイがいなくなってしまったらまた寒い中一人ぼっちで耐えなくてはいけない
あの温かい手が感じられない
また取り憑かれた恐怖と戦わなくてはいけない
嫌だ、そんなの、無理だ、耐えられない!
「待って!!アマイ、行かないで!!お願い!!」
必死に叫んでもアマイは困ったような顔をして扉の奥へと消えてしまった
あぁ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ
お願い早く帰ってきてここに戻ってきて一人このまま待っていたらおかしくなってしまう
床へうずくまり、身体の震えが止まらないまま彼を待った
いつになったら来るのだろうか、まだ来ないのか、早く、早く戻ってきて
早く彼の温かい手へ触れたい。彼と一緒にいたい
もう、時間の感覚など忘れひたすら彼を待った
ガチャリ、と音が聞こえ頭を上げる
そこには待ち焦がれていたアマイの姿
手にはまた食事を持ってきている
この前と同じように一つずつこちらへ寄越す
全部渡し終わった後で音もなくアマイは立って足を動かした
「!」
あぁこのままではまた彼が行ってしまう!!嫌だ嫌だ嫌だ!!せっかく来たのに!!せっかく戻ってきてくれたのに!!
身体の痛みや軋みを忘れ必死に鉄格子の奥へと手を伸ばした
そしたら今度はしっかりとアマイの服の袖を掴んだ
喉から精一杯の声を出す
「いやだ!!行かないで!!お願い!!お願いだからどこにも行かないで・・・一人にしないで・・・ここにいてよ・・・」
するりとアマイは自分の手を離した
絶望に落とされたが
「フフ・・・名無しさん」
すごい音が鳴ったのはわかる
鉄格子が一瞬にしてアマイによりへし曲げられた
俺とアマイの間には何もない
アマイは優しく、壊れないように、俺の自分の後頭部へと手を添えた
そのまま押され自分はアマイの胸へ収まる
「これからずっと、僕に傍にいてほしい?」
少ししか動かない首を縦に振った
「そっか・・・じゃあ、ずっと傍にいよう。このままずっと、永遠に」
全身に染みる温かさに一粒、涙がこぼれた
・・・自分を助けてくれるのはこの人しかいない
アマイは、ご飯をくれた。温かみをくれた。孤独から助けてくれた
あの寒さを、孤独を、恐怖を感じさせぬよう永遠に一緒にいてくれると
そのことが嬉しくて、嬉しくて
アマイの胸の中、自分はずっと泣いていた
「いっ・・・てぇ・・・」
意識が戻り後頭部をさする
そこにはザラリとした感触に血が固まった塵が細かく落ちていった
半開きであった目を完全に覚まし辺りを見回した
一瞬、肩があがる
そこは一面灰色の壁と床、安そうな質素なベット、トイレが設置してある
何より頭を混乱させてしまったのは眼前にある黒い鉄格子――檻である
もちろん閉じ込められているのは自分だ
「おい!誰か出て来い!おい!!」
叫んでみるも帰ってくるのは反響した自分の声であった
灰色のこの空間は不気味に薄暗い
ここで混乱して喚いたって解決できないのは理解しているので、まずは頭を落ち着かせるためにここに来てしまった経緯を思い出す
ベットに座り組んだ手の上に頭を乗せてゆっくりと記憶を探った
昨日のことである
黄金ボールがボーナスがあったから飯を奢ってやるよ、と言ってくれたので一緒に居酒屋へ行った
夜は人で賑わうはずのその居酒屋の客は俺達だけで他は店主しかいない
元気のいい店主は具合が悪いのかひどく顔が青ざめていた
不審に思った俺達だが、まぁそういうときもあるんだな、とその時はそう理解してしまった
混んでいて普段は座れないカウンター席に座り嬉々として手作りメニューを見る
最初はやはり飲み物、ということで黄金ボールはビールを
俺は烏龍茶を頼む
飲み物はすぐに出てきた
お互い喋りながら五分ほど経ったところで、異変に気づいた
「・・・!?」
意識がグラリと、回るような、押しつぶされるような
大きな音を立て椅子から落ちてしまう
霞む視界で黄金ボールも椅子から落ちていた。必死に彼へ手を伸ばす
だが、誰かが黄金ボールを蹴り飛ばした
「ク・・・クソ・・・!!」
せめて相手の顔を
薄れゆく意識の中、回る視界では黄金ボールを蹴り飛ばした人影が近づいてきたので腰に携えてある銃を持った
「・・・っ!」
後頭部に強い衝撃
そこでふっと身体が軽くなるように意識は途切れてしまった
――ということがあって目が覚めたらここにいた
自分を襲った人物は何者なのか、何が目的なのか、彼は無事なのか
様々な疑問が渦巻く
ベットから立ち上がり自分の身体を確認してみた
後頭部以外に痛みは感じない。無傷である
当然のようだが刀も銃もない
服の裏に仕込んである手榴弾なども
靴も確認する
そこで舌打ちが出てしまった。自分の靴底にはチップ型の通信機と小型のナイフが仕込んであったのにそれすら取られている
そこで脳が感覚を思い出した
身体がぶるりと震える
寒い。すごく寒い
吐く息が白いことにも気づいた
自分で自分を抱きしめ体温を逃さぬようにする
それだけでは足りないのでシーツしか敷かれてないベットのシーツを剥ぎ取り自身へ巻いて縮こまる
それでも身体の震えは止まらない
薄い布ではこの寒さから逃れることはできなかった
この灰色の空間を見ているとより寒さが際立つので目を瞑った
「・・・ん」
いつのまにか寝ていたようだ
寒さのせいですぐに意識が冴える
血管が痛むことを感じつつゆっくりと立ち上がる
筋肉繊維が凍ってしまったかのように痛んだ
「ふざけんな!!誰か出てこい!!」
鉄格子の奥にある扉へ怒鳴ってみるも何かが出てくる気配も見せなかった
白い息が吐き出され、そこから体温を奪っていくので口は早めに閉じた
またしてもシーツに包まり自身の体温を守った
寒い、というよりは痛い、というべきか
指先の感覚が乏しくなってくる
それでも自我を壊さぬよう必死で脳を動かした
きっと、きっと誰かが助けに来てくれる。俺がいないことに不審を抱き探してくれるはずだ
そうだ、一緒にいた黄金ボールなら・・・
ガチャリ、と重い音が聞こえた
軋む首をバッと上げると鉄格子の奥の扉が開いた
「名無しさん!」
聞き覚えのある声に体温を逃がさぬよう閉じていた口が開いてしまう
「・・・ッアマイ」
いつものように綺麗な服を纏ったアマイがこちらへ駆けつけてきた
ふらふらと立ち上がり鉄格子を握り揺らした
「よ、よかった・・・。早くここから出してくれ」
アマイは足を止め俺の顔を見た
あぁ助かった。良かった
極度の安心に自然に口角が上がる
やっとここから出られる。この寒さから、痛さから
まさか助けに来たのがアマイとは予想外であったがとにかく今はここから脱出することが第一だ
緩む顔でアマイのことを見上げた
「・・・ッ!」
脳に直接氷柱でも刺されたかのようにゾッとした
アマイは檻から出してくれる気配も見せずただただ――笑っていた
端整すぎるその笑顔に恐怖した
「アマイ・・・?早くここから出し、」
「あぁ良かった名無しさん。やっと汚いものは排除できたよ」
「は・・・?」
頭が真っ白になる
アマイは肩をすくめて楽しそうで、嬉しそうに話を続けた
「君をずっとここに閉じ込めておけばもう二度とバラが汚されることはない。美しいバラは一生僕のものだ。だからね、名無しさん。大丈夫だよ僕がその美しさを守ってあげる。ずっとここにいよう。君が枯れてしまわないようずっと見ててあげるから」
・・・狂ってる。狂ってる狂ってる狂ってる!!
寒さではない、別の震えが体中を襲った
まさかアマイマスクが俺を閉じ込めただなんて
吐き出された白い息はすぐに空気と混じり溶けるように消えていく
「ふざっ・・・けんなよ・・・!!ふざけんな!!ここから出せ!!」
鉄格子の隙間から腕を伸ばすもアマイには届かない
アマイはそんな俺の姿を愛おしそうに優しく見つめている
その視線に恐怖しか感じなかった
「じゃあね名無しさん。僕は仕事があるからまた来るよ」
手を横に振って出て行くアマイの背中へ叫び続ける
閉められた重い扉にも暫し叫んでいたがそのうち無駄なことを悟り先ほどと同じ体勢になった
・・・いや、大丈夫だ。大丈夫
きっと誰かが助けに来る。来てくれる
協会だって俺がいなくて黙ってはいないだろう
ましてやこれは一人での犯行だ。すぐに見つけ出してくれると思う
そう信じて、この灰色の空間と寒さに耐え待った
――だが、無常にも最後まで助けはこなかったと知る
どれくらいの時間が経っただろうか
もうすでに何日かは経っているかと思う
口から出る息はやがて白ですらなくなっている
自分の肌の色を見て、本来の肌の色が思い出せなくなるほど不気味な色になっていた
ここに来てから水しか飲んでいないせいだと思う
おそらく寝ている間にでも置いといてくれているのだろう
なのでアマイの姿はあれきり見ていない
この寒さによる身体の軋みと、空腹と、身体の衰退と、灰色の空間と、助けがこない先の絶望に精神がおかしくなりそうだった
静寂による耳鳴りで鼓膜が劈き耳を塞ぐよう頭を抱えた
誰か、誰でもいい。誰でもいいから、お願いだから助けてここから出して寒い。寒いよ。お腹空いたよ。誰か、お願い、誰か、来て、怖いよ、嫌だよ
やがて、水すらも体温を奪う原因となり受け付けなくなった
薄いシーツに包まりながら重い頭を床へ預ける
灰色の床を、ただ見ていた
ついに何も考えられなくなった。助けだとか、恐怖だとか
あぁ、このまま死ぬんだな
脳の最後の思考がこうだったように思う
「・・・」
いつのまにかアマイが鉄格子の先へいた
また自分は意識を失っていたようだ
弱った俺を見るアマイの視線にどうも思わなくなる
もう、彼へあれこれ言う体力もない
アマイは黙って踵を返し扉の向こうへ消えていった
少しの時間が経った後にアマイはまた来た
鼻をくすぐった香りに弱ったはずの身体は反応した
「お腹、空いてるよね」
オボンに乗せられた器を一つずつ、鉄格子の隙間からこちらへ差し出してくる
パンに温かいスープ、温かい飲み物
最初はこの光景が信じられなくて呆然と見ていたが、震える手でパンを一つ掴む
おそるおそるそれを口へ運んだ
「・・・!!」
そこからは無我夢中で覚えていない
散らかった器を見たような気がする
「名無しさん」
久々の肉声。耳鳴り以外の音
首は自然に彼のほうへ向いていた
アマイはしゃがんで俺と同じ目線になり美しい両手をこちらへ差し伸べる
やがてアマイの手のひらは俺の頬を包んでいた
・・・あたたかい
こんなにも、温かいものがあったのか
じんわりと氷を溶かされるよう
ゆっくりと、アマイの手へ自分の手を重ねる
どうしようもないほど心地がよくて、気持ちがよくて
ずっとこのまま、こうしていたい
だがパッと温度はなくなる
「ごめんね、時間だから行かないと。またね」
なんということだ!ここからアマイがいなくなってしまったらまた寒い中一人ぼっちで耐えなくてはいけない
あの温かい手が感じられない
また取り憑かれた恐怖と戦わなくてはいけない
嫌だ、そんなの、無理だ、耐えられない!
「待って!!アマイ、行かないで!!お願い!!」
必死に叫んでもアマイは困ったような顔をして扉の奥へと消えてしまった
あぁ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ
お願い早く帰ってきてここに戻ってきて一人このまま待っていたらおかしくなってしまう
床へうずくまり、身体の震えが止まらないまま彼を待った
いつになったら来るのだろうか、まだ来ないのか、早く、早く戻ってきて
早く彼の温かい手へ触れたい。彼と一緒にいたい
もう、時間の感覚など忘れひたすら彼を待った
ガチャリ、と音が聞こえ頭を上げる
そこには待ち焦がれていたアマイの姿
手にはまた食事を持ってきている
この前と同じように一つずつこちらへ寄越す
全部渡し終わった後で音もなくアマイは立って足を動かした
「!」
あぁこのままではまた彼が行ってしまう!!嫌だ嫌だ嫌だ!!せっかく来たのに!!せっかく戻ってきてくれたのに!!
身体の痛みや軋みを忘れ必死に鉄格子の奥へと手を伸ばした
そしたら今度はしっかりとアマイの服の袖を掴んだ
喉から精一杯の声を出す
「いやだ!!行かないで!!お願い!!お願いだからどこにも行かないで・・・一人にしないで・・・ここにいてよ・・・」
するりとアマイは自分の手を離した
絶望に落とされたが
「フフ・・・名無しさん」
すごい音が鳴ったのはわかる
鉄格子が一瞬にしてアマイによりへし曲げられた
俺とアマイの間には何もない
アマイは優しく、壊れないように、俺の自分の後頭部へと手を添えた
そのまま押され自分はアマイの胸へ収まる
「これからずっと、僕に傍にいてほしい?」
少ししか動かない首を縦に振った
「そっか・・・じゃあ、ずっと傍にいよう。このままずっと、永遠に」
全身に染みる温かさに一粒、涙がこぼれた
・・・自分を助けてくれるのはこの人しかいない
アマイは、ご飯をくれた。温かみをくれた。孤独から助けてくれた
あの寒さを、孤独を、恐怖を感じさせぬよう永遠に一緒にいてくれると
そのことが嬉しくて、嬉しくて
アマイの胸の中、自分はずっと泣いていた
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