87発目
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逃げろ。逃げろ。逃げろ。逃げろ。
例え何かを踏んでも、関節が壊れようとも、脚が破裂しようとも
それでも、逃げなくてはならない
アイツに追いつかれたら、未来は決まっている
『はぁ……はぁ……ここまで来れば……』
何キロ、いや、何十キロ走っただろう
カンガルーのような見た目をした怪人は、辺りを見回す
木が生い茂り、まるで桜のように葉が待っている
逃げることに夢中でどこへ逃げて来たのか把握していなかった
どうやらここは森らしい
一般人でも、ヒーローでもない彼女にこの怪人は追いかけられていた
人間を超越した怪人になったというのに、たかが人間の女に追いつかれそうになっていた
彼女は何者なのだろう
ヒーローにしては慈悲が無さすぎる
涎を垂らしながらその場に座る。さすがに人間を超越した力を持っても、スタミナには限界があるものだ
「追いついた~」
『!!?!?!?』
汗一つどころか、呼吸さえ乱れていない名無しさんを幻だと思ってしまう
恐怖も絶望も感じる前に、怪人は腹より上が無くなる
草の上へ広がる臓腑に眉一つ動かさない
「名無しさん?」
知っている声に、戻ろうとしてた足を引っ込めた
前方から歩いて来るのはソニックだ
「ソニックじゃん。どうしたのこんな所で」
「宿にしている廃ビルがここにあるからだ。貴様はどうしてここにいる」
「追いかけっこしてたらここまで来ちゃった」
「追いかけっこ?」
そこでソニックは地に倒れている怪人に気づく
熱をまだ持った怪人の死体を察する
名無しさんと追い掛けっこをして死ぬとは。怪人へ少し同情してしまった
ふと思う。どうして怪人である名無しさんが怪人を殺すのだろう
いや、自分には関係ないこと。疑問は頭から消去し腕を組む
「丁度いい。名無しさんに見せたいものがある。付いて来い」
「見せたいもの?」
歩き始めるソニックを追いかけ、背中が近づいたら歩く
通されたのは大きなビル。苔や枝に浸食されそうになっている建物だ
中もひどい荒れようだったが、怪人が暴れている今の町よりは比較的綺麗に見える
廃墟とはこれまた懐かしいと思いながら辺りを見回していた
「これだ」
「? 何これ」
「怪人細胞、というらしい。これを食べれば怪人の力が手に入る」
「へぇ」
見覚えのあるような、ないようなピクピクと動く内臓のようなもの
これを見せてどうするというのだろう
名無しさんがソニックを見て見る
ソニックは怪人細胞を見つめていた
「どう思う」
「どう思うって?」
「俺が、怪人になることを」
首を傾げる。どうして自分に意見を求めるのだ
正直どちらでも良かった
ただ、名無しさんは知らない。怪人細胞の適応に失敗すると命を落とすことを
そのことを知っていたなら、マシな返事をしていたかもしれない
「まぁ……怪人になるのもならないのもソニックが決めることだし私からは何も言えないよ。人間も怪人も大した差はないし」
「……そうか」
人間も怪人も大差ない
力を持つ者だからこそ言えることだな、と自虐的に笑う
今まで自分以上の強さを持っていたのはサイタマと名無しさんだけかと思っていた
だが違う。今日出会った疾風のウィンド、業火のフレイム
この二人にだって相手できるか分からない
怪人化すれば、一体どれほどの力を手に入れることが出来るのか
自分の足元に倒れるサイタマを想像し、笑みが漏れる
最早、後悔はおろか人間としての未練さえも無かった
「俺は怪人になるぞ」
手に持っていた怪人細胞を見下ろす
そして、
「……なぁ、これは……火を通すべきだよな?」
「えっ」
「まさかこのまま食べるものではないよな?」
「当たり前じゃん! こんなの生で食べられないよ」
「やはりか。そう、怪人細胞を食すにあたってどのように調理すべきか貴様に相談したかった」
名無しさんは怪人細胞を改めて見る
正直な所、自分で合ったら火を通してでもこんな気持ち悪いものは食べるのはごめんだ
だが、フライパンや包丁などを用意しているソニックに本心は言えなくなる
肉だと思え? いいや、あんな色をしたものを肉に思えないだろう
「う、うーん……メジャーにステーキとか」
「ふむ。そうだな。ステーキにするとしよう」
早速調理を始めるソニック
輪切りとなった怪人細胞は更にグロさを増していた
思わず手で口を隠してしまった
上機嫌に料理するソニックに名無しさんは初めて恐怖を抱いた
人間としての感情がもう既にないのでは、と疑ってしまう
だが見た目は最悪だが、肉の焼ける香りは鼻腔を通り胃袋を刺激する
買い物をして、夕飯に丁度いいぐらいの時間だ
「んじゃ、私は帰るね」
「帰るのか。食っていけばいいものを」
「いやぁ……遠慮しておくよ。また今度ソニックの料理食べさせて。牛のステーキがいいな」
「なっ、あ、し、仕方ない……いつでも食べに来い」
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