84発目
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「……」
「……」
「……」
「いや、何か言えよ」
目の前にはアフロをふんわりとではなくとんがりとさせたカツラを被るサイタマ
名無しさんは何も言えない
一体彼がどういった感想を求めているのかも分からなかったし、自分自身がどういった気持ちを抱いているのかもわからなくなってしまったのだ
言葉ではなく、気持ちが出ない
無感情とは生まれてくるものであったか
「まぁ、とりあえずこれで大丈夫だろ」
「ジェノス君はなんて言ってたの」
「弟子だぞ。応援してくれたぞ」
しまったーあの子もアホだーそしてこいつもアホだー
と、右手を額にあて天井を仰ぐ
ここにまともな思考をしてるのは名無しさんしかいないが、普段まともではない側にいるのでなんとツッコミしたらいいかわからない
否定もできず、肯定もできない名無しさんは吐き出せた言葉は
「うん!がんばっていってらっしゃいサイタマ!」
これだけだ
薄暗い部屋に中央に置かれたテーブルが光る
12人の幹部たちの顔を照らすのはその光だ
「犯人像はおそらくヒーロー狩りのガロウの仕業だということがわかった」
話し合われるのは昨夜の重役、ゼイミートが襲われた件について
どうして襲われたのか、何が目的なのか、今後の対策についてなど、話し合われるのは様々
ある一人の幹部がポツリ、と恐怖を洩らす
「ガロウとあの変人怪人がタッグを組んでいなきゃいいが……」
その声に皆が注目する
ここ最近、ガロウの被害が多かったので変人怪人のことなど忘れ、放っておいたが、弱火にしていた記憶を一気に強火にされたかのように話し合われる
ひょっとしたらもうタッグを組んでいるのでは?
それはあり得る。二人とも人間のくせして怪人を名乗っているのだから
そう判断するのはまだ早い。変人怪人のほうではヒーローをあそこまで怪我をさせていない
様々な意見が出たが、結局は結論がでないまま今後の対策だけ決め解散された
ヒーロー協会が最も危険視する二人の怪人
その二人は今
「あ、君この間の」
「あ?」
サイタマの試合のため、お弁当を作ろうと思ったが面倒になりおやつだけ買いに行った名無しさん
その道中、ヒーロー全体を騒がせるガロウと二度目の出会いを果たす
正直名無しさんは出会い頭に頬に一発ほど拳をあげたい気持ちだったが、手を出さずに済んだのはガロウの恰好を見たから
「……若いのにホームレスとは……その、お疲れ様です」
「ちげーよ!」
「えっじゃあもしかして野宿が趣味」
「それもちげぇ!!何だよテメーは」
「いやぁ前回合った人がまた怪我だらけでいるんですもん。そりゃ気になりますよ。しかも異臭放って」
最後の言葉に眉をしかめ、自分の臭いを確かめると確かに生臭い
目覚めてゴミ捨て場にいたせいだろうか
確かにこれは、目立つし気にかかるだろう
だがガロウはやはり強情な言葉を吐き出す
「うるせぇなこれには事情があんだよ。ガキには関係ねーよ」
「君より年上だと思いますけどネー」
「は!?」
足の先から頭のてっぺんまで、思わず順に見つめてしまった
小さな手足、ほどよい筋肉量、自分の胸元しかない身長。そして体の中央少し上の……
「おいどこ見てんだぶん殴るぞ」
名無しさんに拳をかがげられて自分が見つめてしまった場所から目を離した
総合的に見て中学生ぐらいにしか思えなかった
だが自分より年上だと分かったぐらいでガロウの態度はもちろん変わるわけがない
「うるせーな。俺は急いでんだ。暇の相手なら別の奴にしろ」
「これからどこへ?」
「ヒーロー狩りだよ……あっ」
思わず出てしまった本当の目的
だが言ってしまったものは仕方がなかった
おそらく、ヒーロー狩りという名目でガロウのことが分かっただろう
「あ。あー君があの噂のガロウ君だったのか」
面倒ごとは避けたい
きっとこの女はこの場から警察かヒーローに通報するだろう
潰すか?
そう一瞬考えたが、何も関係のない女に手を出すのはいかがなものか
あの憧れていたデビル伯爵はどうしていただろう
考えるだけ無駄なので、とりあえずは女の行動を見ることにする
どうせ泣きわめくか、逃げるか、許しを請うか
だが目の前に立つ女は、ガロウの予想していた行動には移さなかった
「成程成程、納得だ。まぁ、無理しすぎないように頑張れ」
「は?」
口を開けたまま、言葉の意味を理解しようと脳内で反復したがやはり意味は何回考えても同じだった
応援された?何故?
「立派でかっこいい怪人になれよ少年!」
そう言って名無しさんは歩き始める
ガロウは背中を見つめていたが、遠く霞んでくると視線を外した
「なんだぁアイツ?変な奴だな……」
そうは言っているものの、胸の内はすごく脈を打っていた
バクバク言っているのが、脳にも響くほど分かる
強い奴と戦い、怪人に近づくのとはまた違った高揚
決して人に歓迎されない事をしているのはわかっていた
独りで戦ってゆくつもりだったし、仲間も必要としていなかった
……応援された
ヒーローが応援されて嬉しい、とは表面上だけのことかと思っていたがひょっとしたら同じような気持ちなのだろうか
いいや、考えるのはやめよう
結局ガロウは名無しさんのことを「変な奴」と認識することにした
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