33発目
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名無しさんはびしょびしょの体を気にせずご機嫌だ。
携帯の中にはフブキの番号が入っているから。
かと言ってそのままでいいかと言われると、気持ち悪いのですぐに着替えたい。
名無しさんが向かった先は、
「何だよ」
「シャワー貸して」
Tシャツ姿のサイタマが迎えてくれた。
肌から若干熱気が出ていることからサイタマもつい先ほどシャワーを浴びたのだろう。
名無しさんはサイタマの許可を取らずに中に入った。
後ろからサイタマのため息が聞こえたが名無しさんは気にせず脱衣所に行く。
自分の家ではなく、サイタマの家に来たのは単純。
先ほどいた場所からサイタマの家のほうが近かったから。
あとおそらくサイタマもこの雨に濡れてすぐに洗濯するだろう。だから一緒に洗濯してもらおう、という魂胆だ。
予感は的中し、ゴウンゴウンと鳴っている洗濯機は2人分の服が入っていた。
濡れた体をさっぱりさせ、髪を乾かしリビングに座る。
サイタマが見ていたテレビを消して名無しさんのほうを向いた。
「あれ、ジェノス君は?」
「修理」
「あぁ、J市の怪人にやられちゃったのか」
「酸かなんかで溶かされたんかな? 見た目すげーグロいことになってた」
「ヒェー」
話題はJ市の海人族についてである。
この間会った怪人のボスが出てきたそう。
「お前なんで来なかったんだ?」
サイタマが問う。
名無しさんは別の市にいた、と返答したがサイタマは首を傾げたまま。
「だって助けても意味なかったと思う。助かったところで同族の復讐にしか生きられないし。そんなの可哀そうで、哀れで、無駄じゃん」
「ふぅん……本音は?」
「見た目がキモいから行かなかった」
そろそろサイタマも名無しさんの趣味を理解してきた。
名無しさんは命に優先順位を、取捨選択をしている。
それを決めているのは罪の重さではなく、気分。
今日の晩御飯は何にしよう、家事はまず何からやろう、怪人はどれを助けよう。
そんな気分で怪人を助けている。
口では正しいことを言っているようで、内心は何も考えていないのだ。
周りから見れば「なんて悪辣! 命に序列をつけるなんて!」「何も考えていないはずない!」と言うだろう。
だがサイタマも似たような感覚でヒーローをしている。
サイタマは唯一名無しさんのことを理解しているといっても過言ではない。
「さっきの、冗談でもジェノスに言うなよ」
「え? 見た目キモイってやつ?」
「ちげーよ! ジェノスさ……」
サイタマはジェノスが話してくれたことを簡潔に言った。
小さいころ、サイボーグに両親も故郷も燃やされたこと。
復讐するためにサイボーグの体になったこと。
名無しさんは目を見開き口で手を隠す。
まるでショックを受けているかのような顔だ。
勝手に喋ってよかっただろうか、という後悔が押し寄せサイタマは壁を見てしまう。
「……ジェノス君そんな辛い過去あったんだ」
名無しさんが神妙な顔して言う。
そして絶望した顔でサイタマを見た。
「どうしよう! もしかしたら倒してるかもしれない……」
「……それは俺も思った」
「一々倒した奴なんて覚えてないよね」
「そうそう」
そんな話をサイタマと名無しさんが盛り上がっている時ドアが開いた。
ここに帰ってくる人物は2人しかいない。
2人は一斉に口を閉じる。
「ただいま戻りましたせんせ……何故貴様がここにいる」
「おかえりジェノス君」
「質問に答えろ」
ジェノスの目は冷たいものだ。
怪人に向ける目線よりも冷たく、普通の人ならば心が折れてしまいそう。
暫く名無しさんを睨んでいたが、諦めたのか視線を外す。
そしてサイタマに向き直った。
「直って良かったな」
「申し訳ございません! 俺の力量不足で……」
「謝ることはないだろ」
「そうそう。ジェノス君はよくやっているよ」
「貴様は黙っていろ」
ジェノスは怒気を含めて言う。
だが名無しさんは気にせずジェノスに励ましの言葉を投げ続けていた。
いつもならジェノスは手のひらを名無しさんに向ける。
だが今日は名無しさんの言葉をスルーして座った。
顔は上げず、自分の太ももを見つめたまま。
明らかにへこんでいるのは名無しさんでも分かった。
サイタマはかける言葉がない。
何と言ったら分からないから。
3人もいる部屋がしん……と鳥の声が聞こえるほど静かとなった。
何か! 何か言えないか俺! とサイタマは必至で脳をフル回転させる。
だが対人関係スキルが低いサイタマは気の利いた言葉など出てくるわけがない。
誰かこの重い空気をどうにかしてくれ!
「よしよーし!」
「!? 何をする!!」
名無しさんが立ち上がりジェノスの頭を撫で始めた。
ジェノスは一瞬ポカン、としていたがすぐさま反応した。
名無しさんの腕を掴み、自身の頭から外そうとする。
だが力で名無しさんに勝てるわけもなく、頭は撫でられたまま。
「燃やす」
「やめろ俺が怒るぞ」
「くっ……!!」
ジェノスを励ますために撫でたが、そんな気持ちは二の次になってしまった。
案外、ジェノスの毛髪が柔らかくて気持ちいいのだ。
とても人工でできた髪とは思えないぐらい、本物の髪が再現されている。
勿論頭皮は人間のように柔らかくないが。
「えへへ、ごめんね」
「チッ。外出たら覚えていろ」
乱れた髪を整えるジェノスは同時に殺意を名無しさんに向ける。
そんな名無しさんは感動していた。ひと撫でするだけで乱れた髪が戻るから。
なんて便利なのだろう。
いやいや、今はそう思っている場合ではない。
「ジェノス君はさ、もっと甘えていいんだよ」
「は?」
15歳で家も親も友達も全てが無くなり、泣くことのできない体になってしまったジェノス。
親の助けが必要な歳なのに復讐に身を焦がしてしまった子供。
今死なない体で、第2の人生を歩んでいるのなら。
なら、周りの大人に甘えてはどうか。
「周りの大人を頼っていいんだよ。サイタマとか私とか」
「……何を」
「だからさ、そんな根詰めないで気楽にやろう」
ジェノスの肩に手を置く。
気楽にやろう、というのは勿論強くなるための特訓などではなく復讐のことだ。
いざとなれば助けてくれる大人がいる。
しかも世界で一番強い大人が。
だから肩の力抜けばいいよ、というのが名無しさんなりの励まし方だった。
ジェノスが名無しさんの顔を見る。
そして触られた手をどかした。
「ふん、ガキが何を言ってるんだ」
「ガキじゃないですぅー! 大人だもん」
「世間は貴様をそう見てない」
「ぐぅっ……! 確かに皆に子供って言われる……うぇーんサイタマー!」
「俺を巻き込むな!」
名無しさんがジェノスかたサイタマのほうに行き抱き着いた。
サイタマは鬱陶しく名無しさんを手で払い除ける。
その間ジェノスは2人を見て少し考えた。
バチリ、と名無しさんが目が合いジェノスはそっぽむく。
そしてそのまま立ち上がりキッチンへ向かった。
「先生、そろそろ晩御飯の用意しますね」
「おう。サンキュー」
「やったー! ニラ玉がいい」
「「お前には聞いてない」」
ジェノスはニラを切っている時考えていた。
甘えてもいい。頼っていいと。
「……」
もう少しだけ、我儘を言ってみてもいいのだろうか。
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