30発目
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ヒーローというのは仕事ではない。
"ヒーロー"というものは後からついてくる肩書である。
誰かを助けて、誰かを倒して、その結果がヒーローだ。
それはヒーロー協会が設立する前の話だ。
アゴーニがヒーロー協会を設置後、ヒーローは職業になった。
おかげで、様々なものが不要となった。
まず1つ目は、悪を倒す力。
2つ目は、正義心や高潔な精神。
3つ目は、諦めない心。
今ではヒーローとは、一般人でも頑張ればなれる時代となったのだ。
けれど、中には──
『ナンだぁ!? コいつ!! よえぇぇぇぇ!!』
怪人が叫ぶ。
怪人の足元には一人の人間が転がっていた。
その人は名無しさんも知っている人物、C級1位の無免ライダーだ。
無免ライダーは完全に気を失っている。
だが、彼は怪人の足をガッチリと掴んでいた。
その先には行かせない、というように。
先には保育園の散歩途中なのか、2人の大人が大人数の子供を庇うように立っている。
子供たちは泣き叫ぶ。
泣いたとしてもどうにもならないのに。
いや、どうにもならないのではない。怪人の怒りを誘発している。
『もウいいや……とドメさしチまおウ』
怪人は大きな拳を振り上げる。
その拳の目標はもちろん無免ライダーの体に穴を開けるためだ。
名無しさんはそんな様子を電信柱の影に隠れて見ていた。
どのタイミングで出るか迷っている。
今怪人を回収してもいいが、結果的にヒーローを助けることになってしまうな。
それだけは勘弁だな、と目を瞑っていると、耳にドドドドという音が聞こえてきた。
これは走る音。しかもこのスピードは、サイタマだ。
今サイタマと鉢合わせるのは都合が悪い。
何故なら、この後ボンキ・ホーテでTシャツの特売だからだ。
仕方ない。
「はいはーい、終わり終わり」
『!?』
名無しさんが怪人の大きな手を掴む。
それだけで怪人は腕を動かすことが出来なくなる。
いや、腕どころではない。全身が動かないのだ。
まるで岩に腕を突っ込んだように。
ジロリ、と怪人は名無しさんを睨んだ。
だが、その視線に恐怖したのは怪人側。
思わず後ろに飛び退くほど恐怖を感じたのだ。
「じゃ、もう帰ろうか」
『は、はい……』
怪人は肩を落としながら帰ってゆく。どこに帰るかは不明だが。
姿が見えなくなると、子供たちの興奮した声が聞こえた。
「お姉ちゃんすごーい!」
キラキラとした目で見つめられ、いたたまれなくなった名無しさんは無免ライダーを抱えて走る。
ここで無免ライダーを放っておいても園児がなんと言うか分からないからだ。
救急車は時間が掛かる。なら直接病院に連れていくしかない。
名無しさんは病院まで急いで走った。
そして病院に着くと、抱えていた無免ライダーを病院の駐車場に転がす。
ここならば誰かしら見つけてくれるだろう。
仮面を外して無免ライダーの顔を見る。
うん、大丈夫そうだ。
名無しさんは無免ライダーの方を振り返らずに、ボンキ・ホーテへと走った。
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