17発目
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ガチャリ、と扉の開く音。
その音にすぐ反応したのはジェノスだ。
今まで動かしていた手を止め、玄関へと移動する。
「おかえりなさいです先生!!」
「おう……」
元気なジェノスの言葉とは反対にサイタマの声はしぼんでいる。
それに気づいた名無しさんが、元気づけるために言う。
「おかえりサイタマ。ご飯にする? お風呂にする? それともわ・た・し?」
サイタマは何も聞こえていないと思えるほどスルーし、手を洗いに行った。
無視されたことを名無しさんは気にしていないようだ。すぐにテレビに目を戻す。
テレビの内容は勿論ニュースだ。
先ほどから良いニュースばかり流れている。キリンの赤ちゃんが産まれた、お饅頭が大流行、ダーツ派? ビリヤード派?等々……。
まさに"平和"。今この日は平和なのだ。
サイタマの表情と良いニュース。それが導かれるのは、サイタマは何もできなかったということだ。
怪人も出なければ、不審者も出ていない。ヒーローとして活動ができないということ。
つまり、ヒーローという職業をクビにされるということ。
サイタマの顔はそのせいだ。
反対に名無しさんは顔にこそ出していないが、胸の内は嬉しさでいっぱいだったから。
ニート仲間が裏切ったとはいえ、戻ってくるのは大歓迎だからだ。
「お。今日はオムライスか」
手を洗い部屋着に着替えたサイタマが、テーブルにあるオムライスを見た。
ラップで保護されているが、綺麗なオムライスである。
サイタマが感心しながらラップを外す。
ジェノスは緊張と恐れが混じった結果、足をソワソワと動かしていた。
まるで初めてデートする恋人かのように。
まだサイタマは気づいていないのだ。このオムライスはジェノスが作ったことを。
いつも通り名無しさんが作っていると思っている。
「どう? 美味しい?」
名無しさんが聞く。サイタマはなぜそんなことを聞くのか、怪しんでしまう。
もしかして毒でも入れたか? しかしオムライスは既に飲み込んでしまった。
「なんだよ。普通に美味いけど」
「……!!」
下を向いていたジェノスが顔を上げた。
先ほどの不安そうな顔はどこにもない。血が通っていないし、筋肉もない顔だが、感動したかのような表情をしているのが分かる。
そんなジェノスを見て名無しさんも嬉しくなる。
教えた成果が出るのはとても喜ばしいこと。
「良かったね、ジェノスくん」
「ありがたいお言葉です先生!」
次のオムライスを口に運ぼうとした手が止まる。
「え、ジェノスが作ったの?」
先ほどのジェノスの態度と、名無しさんの発言に合点がいった。
なるほど、だから美味しいかと聞いたのか。
止めていた手を再び動かし、オムライスを口に運ぶ。
確かに家で作るオムライスなら、かなり美味しい。
しかし食べたことのある味。
それが、名無しさんから教わったことを証明する。
「じゃ、感想も聞けたことだし帰るね」
名無しさんが立ち上がる。
まだオムライスが半分以上残っているが帰るということは、本当に感想だけ聞くために居残っていたのだろう。
帰る準備をしている名無しさんをサイタマが引き留める。
「名無しさんも食ってけば?」
しかし名無しさんは首を振った。
「私はいいよ、お腹いっぱいだし。……うん、うん」
「ど、どうした」
「なんでもないよ……」
青ざめた顔と冷や汗が顔に張り付いていた。
何があったのか、サイタマは考えるが分かるはずもない。
ただ、嫌なことだったのはサイタマでも理解できた。
名無しさんはあの綺麗になるまでのオムライス(?)を3つほど食べたのだ。
そのせいでお腹はパンパンであるし、液体ですらも口内が拒否する。
ここは大人しく家に帰り、寝ていたほうがいい。
靴紐を解き足を入れたところでジェノスに止められた。
「どうした」
「……貴様が勝手に食べたのだから、謝らないからな」
「知ってるよ。私が勝手に食べたし、食材勿体ないし、ジェノスくんの労力も無駄にするの嫌じゃん」
「フン」
両足とも靴を履き立ち上がる。そしてドアノブに手をかけた。
「いつか」
「ん?」
ドアノブを掴んだままジェノスのほうへ振り替える。
その顔は先ほどの嬉しそうな顔はなく、いつもの無表情だ。
「いつか、ちゃんとした飯を食わしてやる。それで借りは無しだ」
ポカン、とジェノスの言葉を考える。
ちゃんとした飯。それは外出のことを指しているのではない。
手料理のことを言っているのだ。
しかもそれで借りを返すとは。特に自分は礼を望んではいなかったが。
せっかくこう言ってくれているのだから、甘えることにした。
「じゃあ楽しみに待ってるね。おじゃましましたー」
ドアノブを捻り外へ出る。
昼と夜が覆い被さった空はジェノスにも一瞬見えた。
鍵を閉め台所へと行く。
名無しさんに借りを作ったのが嫌だから、あの提案をしたのだ。
何を作ってやろうか、と考え食器洗いを始めた。
1/2ページ