100発目
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ガロウもどこかへ行き、メタルナイトが出てきた。
急性放射線障害が出ているため、皆はメタルナイトのラボで検査と除染処置を受けてもらう事となった。
これにて、怪人協会戦とガロウ戦は終わりを迎えようとしている。
「一緒に家財道具探そうぜジェノス。潮干狩りで」
「……ハイッ!!」
「あぁ、その前に」
「?」
サイタマがジェノスを抱えて、メタルナイトに見つからないよう走って行く。
ジェノスは最初、どこへ向かっているか分からなかったが、途中で向かっている先が分かった。
名無しさんの家ではない。
いつも名無しさんと一緒に行くQ市のご飯屋さんだった。
引き戸を開ける。
「ちーっす婆さん」
「あらいらっしゃいサイタマ君」
お店の中は誰もいないように見える。
当然だ。Z市であんなことがあったのだから、他の者は避難していることだろう。
そんな中でもやっているこのお店は、流石老舗というべきか。
肝っ玉が違うな、とサイタマは思う。
その証拠にダルマ状態のジェノスを見ても、ただの1人の客としか見ていない。
名無しさんいる? と聞かなくても、奥で1人、大量のうどんやら蕎麦やら丼やらを食べている人物がいた。
サイタマは遠慮なく、ジェノスを椅子に乗せて名無しさんの隣のソファ席に座る。
ズビズビと、鼻をすすっている所を見ると名無しさんは泣いているようだ。
「俺も食っていいか?」
「ダメ」
「こんな食えねーだろ」
「……」
名無しさんが無言だったので、サイタマは目の前にあるカツ丼を遠慮なく頂くことにした。
名無しさんもサイタマも、喋らずに食べるものだからジェノスはどうすべきか迷う。
おそらくサイタマ先生は名無しさんを励ますために、来たのでは、と推測している。
──せっかく同じ趣味ができたのに、相手はその趣味を辞めるどころか、そもそも同じ趣味なんかではなかった。
つまり、趣味を本気でやっている名無しさんにとっては裏切りとも呼べただろう。
だからあの時「本物の怪人を見せてあげるよ」と言ったのではないか。
これがジェノスの考えだ。
ジェノスの考えは当たっている。だが、もう1つ理由があった。
それは、せっかくできた後輩がいなくなったからであった。
「まぁ元気出せよ名無しさん」
「……」
名無しさんが次のお皿を取る。
そのお皿には生姜焼きが乗っていた。
せっかく綺麗な生姜焼きであったのに、名無しさんはガツガツと汚く食べた。
「いつでも俺が付き合ってやっから」
「……うん……」
「俺と遊ぶのは不満か?」
「……そんなことない」
「じゃあもう元気出せ! 怪人の仲間だって沢山いるだろ」
「……!」
名無しさんは思い出す。
仲良くやっている怪人達を。
ワクチンマンだって、グロリバースだって、昆布インフィニティだって。
皆、名無しさんを友人だと思っている。それに、恩人だとも。
ボロスだって、名無しさんの趣味に付き合ってくれている。
「うん……うん! そうだね!! 私にはいっぱい友達いるや!」
涙目のまま、名無しさんは笑った。
目から出る涙は止まったが、頬からはまだ流れている。
サイタマはそっと、その涙を拭ってあげた。
「ねぇ汚い!」
「おいお前……人の優しさを……」
「なんか臭うよ」
「マジ!?」
サイタマが自身のグローブを嗅いでみる。
すると、埃っぽいような、泥のような、そんな臭いがした。
思わず顔を顰めてしまうのは、名無しさんもサイタマも同じだ。
いつも通りの名無しさんに、サイタマもジェノスも少し笑顔となる。
「後で皆に謝っておけよ」
「はーい!」
いつも通りの顔。いつも通りの憎たらしい、飄々とした顔に、嬉しい気持ちになるとは。
「名無しさん」
「なぁにジェノス君」
ジッとジェノスは名無しさんを見つめる。
「……一度しか言わん」
「え、なに、怖い」
「感謝する」
名無しさんは一瞬、何を言われているのか分からなかった。
どうしてお礼を言われるのか。
だがサイタマがテーブルに置いた、ジェノスの核を見て納得がいった。
「もしかして、見たの?」
「あぁ」
「そっか」
思わず名無しさんは謝罪しようとしてしまう。
だって、あの時ジェノス君を守れなかったから。
だが、感謝に対して謝罪は違う。
「どういたしまして」
フフ、と笑う名無しさんにつられてジェノスも笑う。
「あの恰好は内緒ね。恥ずかしいから」
「……それはどうだか」
「ちょっとジェノスくんひどい!」
あの恰好、とは名無しさんがボロボロの姿だ。
サイタマですら見たことが無い瀕死の姿。
あの姿を知っているのが自分だけ、と思うと体内の温度が少しだけ上がる。
「おいおい、内緒ってなんだ! 2人しか分からない話すんじゃねぇぇぇぇぇ!!」
結局、テーブルの上の大量なご飯達は食べきることができなかった。
ジェノスに食べてもらおうとした2人であったが、「この状態で食事することはできません」と言われた。
怪人協会戦とガロウ戦の終活は、サイタマと名無しさんの絶望で終わるであった。
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