95発目
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『(おのれ! おのれ!! おのれぇぇぇぇぇ!!)』
冷たい土の中、大怪蟲ムカデ仙人は鋭い歯を食いしばっていた。
怪人協会が潰れた?
あのオロチも倒されたとは。
忌々しいヒーローはわが子だけではなく、怪人協会幹部やオロチも倒したとは。
屈辱の気持ちはあれど、恐ろしい気持ちは無い。
今こそ自分が出て、アイツを倒さなければ。
大怪蟲ムカデ仙人のいうアイツとは、キングのことだった。
光を望むように、大怪蟲ムカデ仙人は地上へと出た。
地上に光は無い。空には大きな欠けた月が大怪蟲ムカデ仙人やヒーローを見守るようにあった。
『不遜なる小さき者よ。聞け』
「ひゃえ?」
大きな揺れに、キングは腰が抜けてしまった。
すぐ隣に大きな瓦礫が降ってきて、更に腰が抜ける。
『神に仇なす忌むべき力を滅すべく我らは遣わされた』
大怪蟲ムカデ仙人の大きな目は、1人の人間しか見ていない。
それはキング自身も気づいていた。
気づいているのに、身体は逃げるための力が無い。
どういうこと? 俺が何かしたっけ? 神に仇なす力?
そんなもの持っていない!
「(でかい)」
ジェノスは大怪蟲ムカデ仙人を見上げる。
あの時のムカデよりも遥かに大きい。
大きいだけではなく、その気迫も感じていた。
ゴウケツと同等か、それ以上か。
だがジェノスは安心していた。
ここにS級ヒーローが集まっているからではない。
大怪蟲ムカデ仙人の目的がキングだからだ。
「任せるぞ、キング」
「へぇぁ!?」
ジェノスはキングに背を向けた。
ここにはキングもいて、サイタマもいて、名無しさんもいる。
あんな蟲ごとき、手を貸すまでも無い。
と、ジェノスは思っていた。
周りも同じである。
アトミック侍もクロビカリも、キングが大怪蟲ムカデ仙人を倒すのに邪魔をしてはいけない、と背中を向けた。
あぁ、なんてこった。
キングは目に涙を溜めている。
皆元気そうであるし、誰かが助けてくれると、誰かが倒してくれると思っていたからだ。
『わが子の分まで……苦しめ!』
「(終った……)」
あの時の大怪蟲ムカデ長老はサイタマに助けてもらった。
今やサイタマはどこにいるか分からない。
ここに自分を助けてくれる者はいないのだ。
大怪蟲ムカデ仙人が近づいてくる。
その鬼のような顔に、キングは涙を流してしまった。
『プゥッッッ!!』
ブチブチと、布を破る音。
目前に迫っていた大怪蟲ムカデ仙人の顔が2つに裂かれた。
前が広くなる。
砂煙が入ってしまい、目を擦った。
きちんと視界が動くようになり、何十メートルも先の人物に再び涙を流しそうになってしまう。
あの姿は、
「キング!」
「名無しさん氏……」
自分は立ち上がれないまま。
今すぐに名無しさんの所へ行きたいというのに、足は言うことを聞いてくれない。
名無しさんはそんなキングの事を分かったのか、キングのもと駆け寄った。
そしてキングへと手を差し出す。
キングはその温かい手を思いっきり握った。
立ち上がる前に、先に言葉が出る。
「名無しさん氏、ありがとう……ありがとう……!」
「いいって、こんぐらい」
名無しさんが引っ張り、やっとキングは立つことができた。
これで何度目だろうか。名無しさんに命を助けてもらうのは。
いつもの飄々とした名無しさんの顔が、今までで一番安心する。
握った手は、そのまま強く握ってしまう。
強く握ったとはいえ、キングの力は名無しさんにとって赤ん坊ぐらいの力だが。
「(流石キングだ)」
アトミック侍は思わず笑みが出てしまう。
あの大きなムカデ野郎を一瞬で倒すとは。
彼がムカデを倒す瞬間が見えなかった。
どんな技を出せば、後ろから攻撃が出来たのか。
そう思っているのは皆であった。
後ろの方にいた名無しさんに気づいていなかったのだ。
大きな大怪蟲ムカデ仙人の影に小さな名無しさんは隠れてしまっていたから。
またしても、キングは奇跡的な運で助かったのだ。
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