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俺に恋して



俺に恋して




 陽だまりに佇むあの人への想いを断つ方法はないかと信濃に聞いたのは、ずっと私の相談にのってくれていたからだ。
 だから、じゃあ俺に恋すればいいと平然と答えた信濃を三度見した私は悪くない。


「えっと、あの、それは、どういう……?」

「大将は昔の想い人を忘れたい。で、俺は大将が好き。だから大将が俺を好きになればいいんだよ」


 首を傾げる信濃は可愛いけどそうじゃない。
 全く意味が分からないと書類に向き直ろうとすれば、お腹の重みが増した。


「懐がら空きだよ、大将」


 膝に滑らかな柔らかさが伝わって慌てて視線を下ろせば、爽やかに香る赤い髪。
 信濃が顔を上げて、栗色の中で淡い翡翠の光を放つ瞳が私を射抜く。
 じわりと甘い蜜が体を絡めとるように、信濃の左手が頬を包んだ。
 骨ばった掌に体が強張る。退こうにも後ろは文机で、翡翠色が近づくのを見返すことしかできない。

 何故、どうして、そんな気持ちも空しく、熱い吐息が耳の端に触れた。


「俺、ずっと大将のこと好きなんだよ。だからね」


 熱を帯びた何かが耳を湿らせて、その正体に気付いた時には既に信濃の体は離れていた。
 そしてただ激しくなる動悸を聞くだけしかできない私に、

ーー俺に恋して

 そう、温かなひまわりのように笑って手を差し伸べた。
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