第一章
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ヘルが神託の盾騎士団に入ってから、今年で二年――。
彼女は、第五師団師副師団長、兼参謀総長補佐官……
――即ち、シンクの副官になった。
彼女は数々の任務を重ね、"漆黒のヘル"という二つ名を持った。
*******
『――……冥斬封!』
ヘルの冥斬封で最後の魔物が倒れた。
今第五師団は、ロニール雪山で魔物討伐の任務に出ている。
最初は並大抵のものだったヘルの戦闘力は、リグレットやアッシュに鍛えられ日に日に強くなっていた。
シ「そっちは片付いたみたいだね」
『……あぁ、そうだな。さっさとお暇するか』
二人が他の兵士達とその場を離れようとすると、その直後――。
ヘルの肌をゾワッと嫌な感覚が這った。
ヘルは眉根を寄せて雪原を睨む。
――人間の臭いにつられて集まってきたのか、かなりの数の魔物があちこちに隠れていた。
分かりやすい殺気にシンクも既に気付いている様で、冷静に構えを取った。
何も気付かずに調査を続ける神託の盾兵に、ヘルは大声で呼びかける。
『――……全員構えよ!』
突然の指示に驚きつつも、兵達は剣を鞘から抜く。
それに応えるように、白いオオカミのような魔物達がわんさかと出てきた。
シ「珍しいね。無口なアンタが部下に指示を出すなんて……」
『無駄口を叩くな。どうやら、群れでお出ましらしい……』
遠くの方に、中でも大きな魔物が赤い眼をギラリと光らせているのが見える。
シ「ヘルは周りの兵に指示!こいつはボクが相手してやるよ!!」
シンクは右手で作った拳を左手の平にバシッと叩き、
その様子を見て、ヘルは軽く溜息を吐いた。
『――全く、困った上司サマだ……』
だが、彼女から怒っている様子は感じ取れなかった。
ヘルはいつも通り落ち着いた様子で兵士達に指示を掛ける。
『……お前ら、一匹たりとも逃がすな!』
「「「はっ!!」」」
兵士達は一斉に返事をし、魔物達にかかっていった。
(さて、誰から相手になってもらおうかな……)
ヘルは目の前で身構えている魔物達を睨みながら、先ほど閉まった剣を腰から抜いた。
そして、中でも大きく強そうな魔物を見つけるとニヤリと口元を上げ、その魔物に剣を向けた。
『――まずはお前だ』
ヘルは剣を天に突き刺しながら駆け出し、高く飛ぶと
『黒き光よ、
天から黒き雷を呼び覚まし、剣に集ったところを思いっきり敵に放った。
同時にシンクも
(……お見事)
敢えて口には出さないが、パチ…パチ…とゆっくりとした拍手と心の中でシンクを誉めてあげた。
次はどれを倒すかと考えていると、シンクの近くで雪に塗れた木がガサガサと動くのが見えた。
──それを魔物だと認識するのは、遅くはなかった。
『――!シンクっ!!』
シ「――っ!」
ヘルはシンクの方へ駆けだし、庇う為に彼に飛びつくと、アイスウルフの鋭い爪で肩を負傷する。
ダラダラと血が流れる肩を横目に、ヘルを二人の体は雪に沈む。
ヘルは心のどこかで、このような光景をどこかで見たような気がした。
『――ぅっ!』
シ「ヘル!」
兵「ヘル様、シンク様!大丈夫ですか!?」
ヘルは痛む肩を抑えながらゆっくりと身体を動かすと、シンクに襲い掛かった魔物を倒して二人に駆け寄る兵士達がいた。
ヘルは小さく頷くと、体を起こしているシンクを心配そうに見つめる。
『……無事で何よりだ』
シ「余計なお世話だよ。庇われなくたって避けれたさ」
『本当に大丈夫そうだな……』
いつものように冷たく顔を背けるシンクに、はぁ……と大きな溜息をつく。
だが、その溜息は呆れたものではなく、とても怒りを感じるものだった。
負傷した肩を治療術で直すと、先をスタスタと歩いていくシンクに背を向けながら、ヘルはフードの端を強く握り、何かを小さく呟く。
『……少しは信頼してよ((ボソッ』
シ「――!」
その言葉はしっかりとシンクに届いていた。
目を大きく開きながらも一度立ち止まるシンクだが、ヘル自身が一番驚いていた。
彼女は、まだ感情を上手く理解できていない。
この日初めて、自分がシンクを"心配"していたという事に気が付いた。
彼が強い事は、誰よりも一番よく知っている。
だが反対に、シンクは一人でも平気という大きな自信を持っていることも知っている。
その自信が原因でいつか彼を失ってしまうのではと、不本意にも不安になっていたのだ。
彼は出会った時からヘルに似ていて、人を避けて孤立していた。
その理由はまだ知らないが、そんな彼に対して微かに仲間意識を感じていたのは確かだった。
――それは、彼が彼女の名付け親があったから。
それも大きな理由だろう。
だが、それ以上に大きな理由があるという事を、彼女はまだ知らない。
シ「……ボクはアンタの行動が理解出来ないよ」
『奇遇だな、僕もだ』
彼の言葉に答え、でも……と続ける。
『……自分の事が、一番よく分からない』
シ「!」
それに反応したのかシンクは振り返ると、ヘルはいつの間にか彼の隣まで歩いてきていた。
すれ違った瞬間、悲しい紫色の瞳がチラッと見えた気がした。
『――こんな愚かしい生を受けてしまった事を、この目で見てながら生きている。ただそれだけだ……』
そんな、悲しい言葉と同時に――。