プロローグ
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(――?ここはどこ…?
というか、僕は一体誰なんだろう……)
ゆっくりと目を開けてそう考えるのは、まだ幼い金髪の少女。
そこは、一般よりは遥かに広い寝室だった。
彼女はザレッホ火山で何者かに回収され、ここで何日も眠っていた。
《この役立たずめ……》
『――っ…!』
すると、頭の中で神官のような恰好をした男の声が響き、彼女は頭を抱えた。急に頭痛が襲ってきたのだ。
暫くして落ち着くと、少女は周りをゆっくりと見渡した。
『――……』
(そうか、僕達はヴァンとモースに火山に投げ捨てられて……
それから、ヴァンに見つかって……)
そう、彼女は純白騎士レイの一番最初に創られた1番目レプリカ――。
レイは、魔物に襲われたオリジナルイオンを庇い死んだ。
そして、世界を救う為に必要な数少ない魔導騎士を再生させる為、ヴァンとモースは禁じられている人間のレプリカ作成を行った。
だが、元々男として生まれてくるはずだった彼女は何故か"女"として生まれてきてしまい、同じレプリカである2~6番目レプリカと共にザレッホ火山で破棄されたのだ。
(ゴミだったんだ……
誕生して間もなく捨てられた彼女だが、レイの時の記憶が多少残っていた。
導師イオン――レイのたった一人の友と歩んできた
だから、彼女にはレイの気持ちを知っている。死ぬまでに彼が思っていた思考の全てを知っている。
だが、まだ心も感情もない空っぽの彼女には、どうしてレイがそう思っていたのかは分からなかった。
彼女がこれからどうするかを考えていると、そこで扉の開く音が聞こえた。
?「起きたか」
『――誰』
そこにいたのは、彼女もよく知っている顔だった。
まだクラクラする頭を押さえながら、彼女は彼をベッドの上から見上げた。
『ヴァン……』
ヴ「私の事を覚えていたのか。光栄だな」
『……黙れ。ここで僕を殺す気?それとも、まだレプリカの材料にするの?』
ベッドのシーツを握りながら、彼女はヴァンを睨む。
彼女が唯一レイから受け継いだ"人間嫌い"だ。まあ、彼女の場合は"人見知り"の方があっているが。
どっちにしろ、彼女はあまりここに長居したくはなかった。
すると、ヴァンは首を横に振ってきた。
ヴ「いや、まだ利用する気はない」
『……まだってことは、いずれはって事?』
ヴ「それは言えない。それより、お前を
少女は『はぁ?』と更にヴァンを睨む。
その漆黒のような紫色の瞳は、とても冷酷なものだった。
『冗談じゃない。ますます利用されるだなんてごめんだね。しかも補佐だなんて……』
ヴ「私に協力すれば、純白騎士レイが恨んでいた
『……何が言いたい』
少女はヴァンを更に強く睨む。
意味が分からなかった。
すると、ヴァンが少女の肩を掴んだ。
ヴ「――
『!』
少女は知らない事実を聞き驚く。
彼女のレイの記憶は、一部抜けている事があったのだ。
――それは、レイの死因は本当に不運な事故だったのかということ。
ヴァンは、何故か近くのテーブルに畳んで置いてあった黒色のフードを少女に付けながら、話を続ける。
ヴ「純白騎士レイは、
『成程、それでレイはあの時呆気なく死んでしまったってことか。レイは
ヴ「そうだ。流石は腐っても頭はキレるようだな」
『黙れ!代用品にすらならなかった僕らを捨てた癖に!!あの時、2番目から6番目のレプリカレイ達はみんな火山の灰になってしまった!唯一男として生まれた7番目が適正だったから、他は生きられたら利用するつもりだったんだろう!?』
少女は生まれて初めて"怒り"を感じ、ローブを着け終えたヴァンの手を払い怒鳴った。
彼女にとって、火山で死んだレプリカレイ達は妹のようなものだったのだろう。
もし運命が違っていたら、彼らは本当の姉弟だったかもしれない……。
その少女の怒りを目の当たりにし、ヴァンはニヤッと笑う。
ヴ「落ち着け、レプリカレイ。
『!』
(確かに、レプリカレイである僕が創られたのは
レイも、イオンも、そして火山で死んだレプリカレイ達も、このままでは浮かばれない……。
生まれても役に立てなかった僕が、
少女は少し考えた後、ヴァンに向き直った。
『……僕を何に利用するかは知らないけど、このまま生きていたって仕方がないしね。
――わかった。どっちにしろ僕はもう世界に裏切られた存在だ。本当に世界に裏切られるまで、ヴァンに協力するよ……』
ヴ「決意したか。そう言ってくれると信じていたぞ」
ヴァンはポンッと少女の頭に手を乗せた。
少女はそれを嫌そうに払いのける。
『気持ち悪いからやめてくれない?そうそう、その代わりと言ってはなんだけど、3つ程僕の願いも聞いてよ』
ヴ「うむ、まあいいだろう。利用するなというのは無しだがな」
『僕がそんなこと頼むはずはないから安心してくれ。
一つ、僕の正体は内密にしてほしい。女であることもバラすな。
二つ、切れ味のいい剣を一つ用意してほしい。
三つ、この長い髪を纏められるものを用意してほしい。
――以上の三つ、叶えてくれるか?』
ヴァンは少女の話を最後まで聞くと、意外に軽く叶えられることだらけで驚いた。もっと重いものだと思っていたのだろうか。
ヴァンはそう思いながらも頷いた。
ヴ「いいだろう。剣は小遣いをやるから今度町で買って来い。髪留めはリグレットに貰うといい」
『……リグレット?』
少女が首を傾げていると、コンコンとノック音が聞こえた。
リ「閣下、リグレットです」
ヴ「入れ」
すると、扉の向こうから金髪の美しい女性が入ってきた。
彼女が、
リグレットが入ってきた瞬間、少女はブルッと体を震わせフードの端を強く握った。
リ「……閣下、拾い子は目覚めたようですね」
ヴ「あぁ。ちょうどいいタイミングだったぞ、リグレット。この子に髪留めを貸してあげてほしい」
リ「この少年に?」
リグレットは少女を見つめる。
彼女がヴァンに連れられてきたことを知っているのは、丁度その時居合わせたリグレットとラルゴだけだ。
その時もチラッとしか見えなかった為、フードを被っている少女をリグレットは"男"だと思い込んでいるようだが、少女にとっては都合がよかった。
何故なら、彼女は"極度な女嫌い"で、ついでに"人見知り"だからだ。
リ「こ、怖がらせてしまったか?すまない……」
『い、いや……怖くなんて……』
(怖い?この空っぽなガラクタの僕が?冗談じゃないよ……)
そんなことを考えていながらも、微かに怖がっているのは事実だ。ただ、その"怖い"という感情を知らないだけ。
そして、女を嫌っている理由はまだある。
――それは、女として生まれなければ捨てられなかったから。
だから、この女性という身体も、その女性自体をも嫌っているのだ。
少女が震えていると、リグレットが偶々ポケットに入れていた予備の髪留めを渡してきた。
リ「気に入るか分からないが、良かったら使ってくれ。少年、名前はなんだ?」
『……僕に名前なんてないよ』
リ「!すまない……」
『……リグレットは悪くない。僕、女の人苦手なんだ。ごめん。それと、髪留めありがとう。新しいの買って返すから……』
リ「そんな気を使わなくていいぞ。それより名前が無いと不便だろう?丁度昼食の時間だから、紹介するついでにみんなに付けてもらおう。ヴァンがこうして子供を連れてくるのは珍しい事ではないしな。シンクの時みたいに
ヴ「よく分かったな……;」
ヴァンは察しのいいリグレットに驚いていたが、ヴァンが子供を連れてきたのはこれで3回目。流石のリグレットも呆れる言葉が見つからない。
だが、それ以上に驚いていたのは彼女の方だった。
『……いいのか?』
リ「あぁ。ガラの悪い奴らばかりだが、みんなそんなに悪い奴らではない。少年と年の近い問題児が二人いるから、きっとすぐに馴染めるはずだ」
『……あぁ』
少女はそう頷くと、顔を見られないように後ろを向き、リグレットに貰った銀色の髪留めで髪をクルッと纏めた。
そしてフードを被り直し、再びリグレットとヴァンの方へ振り向いた。
『あと、出来れば戦闘服もほしい。この服は重くて暑苦しいし……』
リ「それなら、今持ってこよう。余りがあったはずだからな。少年、幾つだ?」
『じゅ、12……』
リ「シンクと同い年か。分かった」
そう頷くと、リグレットは少女に渡す用の服を取りに行った。
(……ダメだと思ったんだが;)
少女はリグレットの行動に思わずポカーンとしていた。
だがそれと同時に、何か心が温かくなるのを感じた。
******
数分にも満たないうちに、リグレットは十ほどの服を持ち戻ってきた。
リ「取って来たぞ、好きなのを選べ。アリエッタとシンクが来た時に何色がいいか分からず頼みすぎてな。余ってしまったんだ」
『……あ、ありがと//
――――じゃあこれ……』
少女は迷わず、シンクと色違いの紫色の服を選んだ。
迷わず――というより、ほぼ直感だが。
リ「そうか、気に入ったようで良かった^^
さぁ、着替えたら食堂へ行こう」
服を手に取る少女を見て、リグレットは珍しく嬉しそうに笑った。
リグレットの言葉に、少女は静かにコクリと頷いた。