第一章
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暫く経った頃、シンクと他の第五師団兵士達も無事本部へ到着。
時間もあまり経たない内に夕食の時間になった。
『――ゴチソウサマ』
「「「早っΣΣ」」」
だが、一口も食べずに席を立つヘルの方に一同の視線が集まった。
それは、好き嫌いのせいだ。
ヘルは好き嫌いが激しく、肉も野菜も魚も食べられない。ほぼ水しか飲まないのだ。今日の夕食は肉と野菜が中心的に多いので、これはヘルには苦痛だった。
すぐに食堂を立ち去ろうとするヘルの腕を、隣に座るシンクが掴んで制止させた。
シ「ヘル、一口も食べてないじゃん。だから身長伸びないんじゃないの?」
『煩いな。放っといてよ……』
リ「そうか、残念だな。せっかく町で美味そうなケーキを買って来たのだが……」
『――やっぱもう少しだけ食べる』
リグレットの言葉に、ヘルはササッと席に座り直した。好き嫌いの多い彼女だが、スイーツ系は大好物なのだ。
だがそうはいったものの、やはり嫌いな物は嫌いだ。目の前にあるプチトマトやピーマンをどうしようかと、少し蒼い顔で固まっていた。特に、レイの頃から苦手だったセロリがサラダに入っているのにも気が付き、ローブを付けていても分かるような嫌そうな顔を浮かべる。
そんな意外な可愛い一面を見せるヘルに対し、一同は頬を染めて固まっていた。
(((ケーキが好きとか可愛すぎだろ//////)))
シ「……///;;
男の癖にケーキに釣られるなんて、案外女々しいんだね」
『黙れシンク。別にケーキなんかに釣られたわけではない。偶々少し空腹だっただけだ』
同じく顔を赤くしながらも、いつものように皮肉な事を言い放つシンクを、ヘルは思いっきり睨んだ。
すると、かなり離れた位置で一人で食事を採っているディストが会話に参加してきた。
デ「ヘル!大体、シンクにそういう事を"無事に"言えるのはヘルだけですよ!だって彼は貴方の事がすk((ry」
シ「何か言った?((睨」
デ「い、いえ……こういうところです…………;;;」
『?』
わざわざ"無事に"という言葉を強くしてそう言うディストに、シンクが仮面越しで睨み付く。
だが、ディストのいう事は嘘ではない。
蚊が鳴くような声で怯えるディストを見て、"ご愁傷様"とでも言うように、手を合わせている者もいた((デ「勝手に殺さないで下さい!;」
シ「煩いよ死神の癖に。ここで殺されたくなかったらさっさと一人で食べて、さっさと一人で出てってよね」
デ「酷い!!Σ
何もそんなに"一人で"を連呼しなくても((泣」
『シンク、死神をこんなところで殺すな。殺すなら他所でやれ。ケーキに血の匂いでも残ったら許さんぞ』
デ「ヘルまで……泣いてもいいですか?」
とは言いつつも、もう既に泣きそうなディストを見てられず、第二師団の兵士達が数人慰めに駆け寄った。
シンクも、ヘルにそんなことを言われればすぐに食事へと目線を戻す。無自覚にも、ヘルを微かに大切な仲間以上に思っていることは確かなのだ。
すると、ヘルのもう片方隣の席のアリエッタが頬をプクーと膨らませた。
アリ「アリエッタも……ケーキ楽しみにしてるからダメ!」
『安心しろアリエッタ。そんなことをする奴がいたら、この僕が裏に突き出して殺してやるから』
アリ「ヘル……//」
シ「そこ、変な愛情作らない」
真正面を向きながらそんな物騒な事を言うヘルに、アリエッタが頬を赤く染めた。アリエッタはヘルの事が予想以上に好きなのだろう。
そんな二人の微笑ましい様子を、シンクだけが少し睨んでいるように見えた。
すると、リグレットがヘルの目の前に、果物がたくさん入った籠を置いた。
リ「ヘル。野菜が苦手なら食べてやるから、果物でも腹に入れとけ。ケーキはその後だ」
『……果物なら食べる』
リ「よし、偉いぞ」
ア「リグレット、ヘルに甘やかしすぎだ」
リ「ヘルはこれからが成長時だろうに、こんなに細ければだれだって心配になる。野菜が苦手なら、果物だけででも栄養を摂らせないと……」
ア「それを甘やかしと言うんだ」
ヘルの頭を優しく撫でるリグレット。リグレットは彼女を弟のように可愛がっており、ヘルもリグレットを姉のように、女嫌いだとは思えないほど彼女に懐いていた。
とはいえ、彼女が普通に接することができる女性はリグレットとアリエッタくらいで、他の女性は誰であろうと避けているのだが。
そんな二人の様子に、アッシュは溜息をついていた。
すると、仕事の為か総長室に籠っていたはずのヴァンが、突然食堂を訪れてきた。
ヴ「――ヘルはいるか?」
『……ヴァン、何の用だ』
ケーキを楽しみに心待ちしていたヘルは、ヴァンという邪魔者を強く睨む。それも、常人なら必ず怯えるほどの威力だ。だが、そんなものであのヴァンが折れるはずもなかった。
ヴ「話がある。すぐに総長室へ来い」
『……断るって選択肢は?』
ヴ「ない」
『……』
ヘルは再びヴァンを睨む。周りの空気が彼女の殺気で凍り付いていた。
それもそうだろう。今日だけで彼女のこの"フード越し睨み返し"を見た回数は、もう50を疾うに超えているのだから。
だが、彼女が睨んでいる原因は恐らく、ケーキだけではないはず。
だって彼女は、レイが生きた12年間を……そして、"ヘル"が生まれてからのこの二年間を、ヴァンとモースにただ利用されてきたのだから。それ以上にも、彼女がヴァンとモースを嫌う理由は大いにあるだろう。
ヴ「ヘル、これは上司からの絶対命令だ」
『勘違いしないでくれない?僕はお前の事、上司だとも何とも思ってない。困り者の上司サマはこの皮肉屋だけで十分さ』
シ「ちょっと待ってヘル。それどういう意味?結構傷付くんだけど」
『何って、そのままだけど』
すると、そんな彼女の言葉にカチンときたのか、シンクはズンとヘルに顔を寄せてきた。
シ「これ以上言うなら、その口塞ぐよ?この冷酷フード」
『その言葉、そっくりそのまま返してやろうか。この皮肉仮面』
二人の間に火花が散る。二人の顔の距離は異常だったが、こんなことは珍しい事でもない。他所でこれをやると、二人に変な女子ファンが付いてしまう事もあるのだが……。
すると、そこへリグレットの左腕が喧嘩中の二人の間に入り、制止させてきた。
リ「二人とも、痴話喧嘩はそこまでだ」
「『誰が!!💢』」
とは言いつつも、声を重ねてリグレットに怒鳴る二人。
もう日常茶飯事と言ったところで、二人の喧嘩に慣れきっている一同は、その様子を微笑ましく見ていた。
デ「まあ、どっちもどっちという奴ですかね」
ラ「子供は親に似るというからな」
アリ「二人とも……似た者同士……です」
『アリエッタまで……;;
――もういい。行くぞヴァン』
ヘルが席を立ちヴァンの元へ歩み寄ると、リグレットがヘルに優しく微笑んだ。
リ「ヘル!お前の分のケーキ、残して待っているからな」
『……どうも//』
ヘルは少し頬を赤くして、そう小さくボソッと呟くと、ヴァンと共に食堂を後にした。
それを見た一同は、例のごとく顔を真っ赤にしていて、中には倒れた者もいたとか……。
シ(何なのアレ、可愛すぎでしょ……って何!?//
……やっぱりボク変だ。よりによって男の部下にこんな感情――)
シンクは。赤くなった顔を見られないように顔を背けながら、何かとその感情に気が付こうとしていた。
それに本当に気が付くのは、まだまだ先の話――。