第一章
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任務も無事に終わり、帰りの船でヘルは眠っていた。
そこで、とても懐かしいような夢を見た。
≪――初めまして、イオン様≫
イ<……アンタ、誰?>
≪今日より、導師イオン様の専属魔導騎士となりました。宜しくお願いします≫
そう、レイとオリジナルイオンの夢だった。
これは二人が9歳の頃、初めて出会った日のことだ――。
この時、まだ彼には名前が無かった。
優しく微笑み敬礼するレイに、イオンは隣にいるヴァンを強く睨んだ。
イ<……ヴァン、ボクは許可してないはずだよ>
ヴ<これも導師イオンの事を思ってのこと……ご理解下さい>
≪貴方が何と言おうと、僕は貴方を御守りします。三年という短い期間、宜しくお願いしますね。イオン様≫
イ<三年ねぇ……ちょっと長い気もするけど、まあ仕方ないか……。その代わり、役に立たなかったら追っ払うからね>
≪ええ、承知しております。イオン様の御心のままに……≫
そう言ってまた微笑むレイから、イオンは目線をフイと反らす。
それを可笑しそうに笑うレイ。
イ<……で?アンタ名前は?>
≪名前?名前なんてありませんよ。僕は魔導騎士……それ以外に何もありません≫
イ<名前がない?全く、面倒だね……。
――じゃあ、ボクが名前付けてあげるよ。こっち来な>
イオンの元へ駆け寄るレイ。
すると、イオンが部屋の本棚から古代イスパニア語の辞典を持ってきた。
イ<えっと……アンタにピッタリなのはこれでしょ。"聖なる光を守りし者"
――名前は"レイ">
≪レイ……そんないい名前を貰ってしまって宜しいんですか?≫
イ<いい訳ないじゃん。この分、しっかり働いてもらうから……覚悟してよね>
≪――!はいっ^^≫
レイの元気のいい返事を聞き、イオンは煩いと耳を塞ぐ。
そんなイオンにまた可笑しそうに笑いだしたレイを、イオンがギロッと強く睨んだ。
これが、二人の出会い――。
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シ「――、ヘル、ヘル!
――本当、よく船酔いせずに眠れるね。寝る時もフード被ってるし……」
こちらは帰りの船の中。シンクとヘルは、船の個室で同室だった。
もうすぐ船が港に着くので、途中眠ってしまったヘルをシンクは起こそうとしていた。
シ「ちょっと、ヘル!いつまで寝てん……の…………
――っ!!///」
シンクはヘルの肩を揺さぶる手を止める。
――見てしまったのだ。
チラリと一瞬だけだが、フードがズレてヘルの中性的で綺麗な顔が……。
それを見て胸がドキッと高ぶり、それと同時に、微かに懐かしい気を感じた。
だが、それが何故かは知る由もなかった。
すると、ヘルの瞳がゆっくりと開いた。
『――イ……?シンクか……』
ヘルが夢から覚めると、もう船は港に着いていた。
少し似た緑色の髪が目の前にあったので、寝惚けてうっかり"イオン"と呼びそうになったのをグッと堪えた。
それを見て呆れたように短い溜息をつくと、シンクは起こす為に揺さぶっていたヘルの肩から少し離れた。
シ「――///
ヘル、着いたよ。早くしないと置いてくからね」
『……あぁ、今行く』
少し顔を赤く染めてそっぽを向くシンクの言葉に、ヘルは重たい瞼をゴシゴシと擦り、まだ微かにある眠気を堪えながら起き上がった。
(かなり懐かしい夢を見たな……。
あんな夢を見るなんて、僕はまだ"レイ"に縛られているのかな……
――いや、冗談じゃない。僕は神託の盾騎士団第五師団師副師団長ヘルだぞ。僕はもうレイじゃないっていうのに、どうして今更こんな夢を……)
シ「――、ヘル、聞いてる?」
『なんです?イ――シンク様。
……ん?;』
シ「――……っ!//
な、何イシンクって……人の名前勝手に変えないでくれる?
(急に何さ、ビックリしたよ……///)」
『……寝惚けたかな。顔洗いたいし先行くから』
どうやら本当に寝惚けてしまったらしく、またもやシンクをイオンと呼んでしまいそうになったヘルは、眠そうに目を擦り誤魔化しながら先に船を降りて行った。
そんなヘルの後姿を見ながら、シンクが顔を真っ赤にしていることにも気づかずに――。
シ(――全く、ボクもどうかしてるね。男の素顔を少し見たぐらいで動揺するなんて……)
何故か妙にドキドキと鼓動を奏でる胸を堪えながら、シンクはいつもとは少し違う意味で長い溜息をついた。
だが一向に収まる訳もなく、どこかで見たことがあるようなヘルの顔を、シンクの頭の中が連想させていた。
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アリ「ヘル……!お帰りなさい」
『……ただいま、アリエッタ』
無事に本部へ辿り着いたヘル。
すると、アリエッタが廊下まで迎えに来てくれていた。
アリエッタとは、レイの時もかなり仲が良かった。
レイとオリジナルイオンが、唯一心を開いていた人間の一人だったからだ。
レイの時も、留守から戻った時はこうして迎えに来てくれていた。
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アリ<レイ様、お帰りなさい……!>
≪只今戻りました、アリエッタ。留守番ありがとう≫
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アリ「――……ヘル?」
『――!すまない。船の中で寝てしまってな、まだ寝ぼけているのかもしれない』
アリ「気を付けてね……?」
『いや、平気だから……』
またもやレイの記憶が浮かび上がってくる頭を片手で押さえながら、ヘルは彼女に顔を背けてその場を立ち去った。
アリエッタは心配そうに、ヘルの背中を見つめる。その背中から、どこかレイに似ている雰囲気を感じた。
アリエッタは、ヘルがレイの記憶を少し受け継いでいるレプリカであることを知らない。
それは、ヘルが"レイだった事"を忘れる為でもあり、自分が"ヘル"である事を自覚させる為でもあった。
ヘルは、死んだレプリカレイ達の為に
だから、アリエッタと仲が良かった頃のレイを忘れたがっているのかもしれない。
アリ(レイ様……。
ううん、ヘルはヘルだよ……そうだよね……?)
寂しそうに見つめるアリエッタの視線の先は、もう誰もいない静かな廊下だけ――。
アリエッタは頭の中で、"ヘルがレイだったら"と考えてしまった。
その考えを否定するように、違うとゆっくりと首を横に振ると、アリエッタは一人で自室へと戻っていった。