Caligula-カリギュラ-
いつも通りの理想の世界。今まで違うのは"死とは何か"と考えてしまうことだろう。俺の膝の上で、俺にも伝わってしまうくらい震えている鍵介の頭をそっと撫でた。
マンションの部屋から見える黒い靄、おそらく花だろう。花らしき影が悲しげに、終わっていく理想 を眺めていた。…そう見えるのは俺がセンチメンタルに陥っているからだろうか。
現実に帰れる一歩手前、そこで人の負の感情に侵された電子の歌姫と戦った。μが人間であればこんなことにはならなかっただろう。しかし、彼女は単なるボーカルソフトであり、それ以上もそれ以下もない。だからこそ"バグった"という最悪の事態になってしまった。
支配者が失われたメビウスは次第に崩壊し始める。こんな時ですらも青い空はペンキがはがれていくように、だんだんとその色を失っていく。でも、メビウスの住民はこの変貌に気づかない。
理想世界での終わりがこんなに悲惨なのは帰宅部だけだ。どうせならメビウスの住民のように、幸福感で満たされて終わりたいものだが、「反逆者 」である俺たちにそんな恩恵が与えられるはずない。いつ消滅してしまうだろうと恐れながら生きていくしかない。崩壊はゆっくりと、じわじわと進んでいく。そう簡単に終わらせてくれやしないのだ。
「先輩は、怖くないんですか、死ぬ、ことが…」
「そりゃ…怖いよ。でも、これが俺たちの選択の結果だし、どうしようもない。」
「そんなに簡単に言わないで下さいよ…!」
「ご、ごめん…。でも俺はちょっと満足なんだよね。」
「なぜ。なぜそう思えるのですか。」
「泣きそうな顔しないでよ…。でもね、俺は君と死ねるんだと思えると嬉しいんだ。ちょっとした心中みたいでさ。君の最期の記憶に残るのが俺だ。逆に言えば、俺の最期の記憶には鍵介しかいない。それだけで満足だ。…ごめん、変だよな。俺…」
ちょっと言い過ぎた。紛れもない本心だが、きっとおかしいと非難されてしまう。多分、俺から鍵介は離れて行ってしまう。こんな、いつ死ぬかもわからない時に。
「…。おかしく、ないですよ。でも、僕もそうやって考えればきっと死ぬことなんて怖くない。そのためには僕たちはずっと一緒に居なければなりませんね。他の人間を視界に入れず、ずっとずっと一緒に。死んでしまえばきっと、何者も僕たちを切り離すことは出来ない。独りじゃ、ない…」
その目に見え隠れする恐怖。きっと、それらを忘れられるようにしているんだ。だからそうやって肯定するのだろう。自己暗示は、何よりも強力だから。
でも、誤魔化すために言った言葉では意味がないのだ。それは、君の本心じゃないから。
「……願わくば、その言葉が本当であってほしいな。」
「はは…本当に、決まってるじゃないですか。」
とは言っているが、声の震えと小ささで説得力がない。…きっとそれが正しい反応なんだろう。ただ、俺がおかしいだけで。恋人の死を望むなんて、どうにかしている。
「…ごめんね、ありがとう。鍵介、こっち向いて。」
「…?」
震えの収まらない鍵介の唇にそっとキスをする。
「こんなことで気が休まるかは分からないけど、気持ちいいことして、一瞬でも忘れよう?」
「は…はは、僕、そんなに怯えているように見えますか…?」
「…うん。だから、楽にしてあげたくて。…そんな気にはならないかもしれないけど、きっとこれが最善策だ。どうせなら、気持ちいいままで、眠りたいでしょ?」
「…それなら、ずっと先輩といられますね。お互いに、色濃く記憶に残る。」
「こんな倒錯感も、たまにはいいと思うよ。」
マンションの部屋から見える黒い靄、おそらく花だろう。花らしき影が悲しげに、終わっていく
現実に帰れる一歩手前、そこで人の負の感情に侵された電子の歌姫と戦った。μが人間であればこんなことにはならなかっただろう。しかし、彼女は単なるボーカルソフトであり、それ以上もそれ以下もない。だからこそ"バグった"という最悪の事態になってしまった。
支配者が失われたメビウスは次第に崩壊し始める。こんな時ですらも青い空はペンキがはがれていくように、だんだんとその色を失っていく。でも、メビウスの住民はこの変貌に気づかない。
理想世界での終わりがこんなに悲惨なのは帰宅部だけだ。どうせならメビウスの住民のように、幸福感で満たされて終わりたいものだが、「
「先輩は、怖くないんですか、死ぬ、ことが…」
「そりゃ…怖いよ。でも、これが俺たちの選択の結果だし、どうしようもない。」
「そんなに簡単に言わないで下さいよ…!」
「ご、ごめん…。でも俺はちょっと満足なんだよね。」
「なぜ。なぜそう思えるのですか。」
「泣きそうな顔しないでよ…。でもね、俺は君と死ねるんだと思えると嬉しいんだ。ちょっとした心中みたいでさ。君の最期の記憶に残るのが俺だ。逆に言えば、俺の最期の記憶には鍵介しかいない。それだけで満足だ。…ごめん、変だよな。俺…」
ちょっと言い過ぎた。紛れもない本心だが、きっとおかしいと非難されてしまう。多分、俺から鍵介は離れて行ってしまう。こんな、いつ死ぬかもわからない時に。
「…。おかしく、ないですよ。でも、僕もそうやって考えればきっと死ぬことなんて怖くない。そのためには僕たちはずっと一緒に居なければなりませんね。他の人間を視界に入れず、ずっとずっと一緒に。死んでしまえばきっと、何者も僕たちを切り離すことは出来ない。独りじゃ、ない…」
その目に見え隠れする恐怖。きっと、それらを忘れられるようにしているんだ。だからそうやって肯定するのだろう。自己暗示は、何よりも強力だから。
でも、誤魔化すために言った言葉では意味がないのだ。それは、君の本心じゃないから。
「……願わくば、その言葉が本当であってほしいな。」
「はは…本当に、決まってるじゃないですか。」
とは言っているが、声の震えと小ささで説得力がない。…きっとそれが正しい反応なんだろう。ただ、俺がおかしいだけで。恋人の死を望むなんて、どうにかしている。
「…ごめんね、ありがとう。鍵介、こっち向いて。」
「…?」
震えの収まらない鍵介の唇にそっとキスをする。
「こんなことで気が休まるかは分からないけど、気持ちいいことして、一瞬でも忘れよう?」
「は…はは、僕、そんなに怯えているように見えますか…?」
「…うん。だから、楽にしてあげたくて。…そんな気にはならないかもしれないけど、きっとこれが最善策だ。どうせなら、気持ちいいままで、眠りたいでしょ?」
「…それなら、ずっと先輩といられますね。お互いに、色濃く記憶に残る。」
「こんな倒錯感も、たまにはいいと思うよ。」
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