今日はこれまた珍しく、彼からご飯に誘われた。ルールに雁字搦めになっている彼はご飯に誘っても断られることの方が確率的に高い。そのうち誘う頻度も下がった。もちろん、彼から誘われることなんて"ゲリラ雷雨が三日連続で同じ地域に降る"くらいの頻度しかない。
待ち合わせ時間の五分前に着いた。待ち合わせの十分前には着く、という彼のルールは不思議なことに今日は効果が発揮されていないらしい。いや、おかしい。そんなことはない。ましてや雪が降っているわけでもないのに"遅刻"するなんて。今まで一度も効果が発揮されなかったことなどなかったのに、なんて思う私は存外（ぞんがい）彼に影響されまくっているようだった。笑ってしまう。少しくらい外れても良いだろうに。そう思っていたところにメッセージが届く。
【あと少しで着く。】
ふと思いついて悪戯（いたずら）な顔をしながら返事をした。
【珍しいね、十分前にはいつも居たのに】
ちょうど待ち合わせ時間になったところで見慣れた彼が姿を見せ、向こうから走り寄って来た。開口一番、彼はこう言った。
「君が止めてくれるって言ったから、少し自由になってみようと思って」
いつもは見ないはにかんだ顔をしながらそう言うものだから、私も嬉しくなってつい綻んで笑ってしまった。
「そうだよ、少しくらい自由でもいいでしょ？」