野球とサッカーの違いについて
ある日の深夜。翌日は仕事も休みなので夜更かしをしようと、朝型人間の私には珍しくポップコーンとジュースを片手にテレビで録画した洋画を観ていた。警察に追われていた犯罪者が追い詰められ、お互い拳銃を突きつけあう緊迫したシーンでテレビは無音になり、その時ちょうどテーブルに置いたスマホが着信を報 せた。ドキドキしているのに、と思いながらも見ると表示された名前は彼だった。一度テレビを停止させ、電話に出る。
「もしもし? 寝てる時間じゃないの?」
『……』
「おーい、起きてる?」
電話に出ても声が聴こえない状況に少し戸惑うも、ふざけた声色 を作って声をかけ反応を待ち続ける。
『人を、殺したんだ』
衝撃の言葉を聴いて、今度は私が言葉をなくした。
『あ、ごめん。夢なんだ。本当には殺していない』
多分、彼は取り乱していたんだと、今なら思う。そして間違いなく、私も取り乱していた。
「取り敢えずそっちに行こうか?」
と聞けば、来てほしいに変わりはないがこんな夜中に一人で外を出歩かせる訳にはいかないと、強く否定されれば行動選択肢の一つを失ってしまった。恐らくその言葉もルールから来るものだろうと、知り合ってからもう長い私は簡単に思い至る。電話だけで済ませようとしている心も垣間 見えた。ならば、それに乗ってあげるべきだろう。
『たまに、人を殺す夢を見るんだ。人を殺して、僕は嗤 っている。それくらいならもう慣れたんだよ。びっくりして未 だに起きるけど。……今まで、何故そんなにルールを決めているのか、聞いてこなかったでしょう? 聞かれなくて僕はすごくほっとしていたけれど。ルールを決めているのはこれのせいなんだ。たかが夢、されど夢。いつか自分が同じことをするかもしれない、しないという保証が僕の中には何もない。何もないんだよ。だからせめて自由をできる限り無くして自分の行動を制限してる。……今日は。今日の、夢は』
そこで口を噤んだ彼は、言葉を絞り出すのも苦しいような、細い細い溜息の音だけ響かせた。
「いいよ、言って」
幾分か心を落ち着けた私がそう促すと、それでも躊躇っていたようだがついに口を割った。
『君を、殺した』
さしずめ私の声を聴いて安心したい。この電話の意図は、そんなところだろう。まさか自分が殺されているとは思いもしなかったけれど。
『君を殺しても、僕は嗤っていなかった』
哭 いていたんだ。その言葉は消えてなくなりそうなほどか細い音だった。
「君は、人を殺さないよ」
『……君のことを今更疑ったりはしないけれど、でもその根拠は僕にはない』
「でも私にはある」
私の言葉を聴く体勢になったのだろう。彼が何も喋らなくなったのを、これ幸いとばかりに私の根拠を話す。
「君は自分に厳しくて、人に優しい。ルールを決めていることからこれはもう明白だよ。人を殺すのも躊躇わない、むしろ嗤ってられるくらい凶悪な自分を心の奥深くに眠らせているのかもしれない。私は顔を合わせたことがないから君の言葉を信じるしかないけれど、そんなところを見たことがない。片鱗も、見たことがないんだよ。……私を殺した時に哭いていたんでしょう? 殺したくて殺した訳じゃ、ないんじゃないかな。夢の中の君は、何があったかわからないけれど私を殺さなきゃいけなくなった。それなら私は君に殺されない行動をするよ、簡単ではないかもしれないけれど。だから、君は私を殺さない。万が一、凶悪な顔の片鱗を見たら私が全力で止める。その顔を向けている相手が誰であろうと、いつなんどきでも止める。だから、また怖くなったら電話してよ」
彼は哭いていた。文字通り、慟哭 していた。私はそれをしっかりと受け止め、聴いていた。
「もしもし? 寝てる時間じゃないの?」
『……』
「おーい、起きてる?」
電話に出ても声が聴こえない状況に少し戸惑うも、ふざけた
『人を、殺したんだ』
衝撃の言葉を聴いて、今度は私が言葉をなくした。
『あ、ごめん。夢なんだ。本当には殺していない』
多分、彼は取り乱していたんだと、今なら思う。そして間違いなく、私も取り乱していた。
「取り敢えずそっちに行こうか?」
と聞けば、来てほしいに変わりはないがこんな夜中に一人で外を出歩かせる訳にはいかないと、強く否定されれば行動選択肢の一つを失ってしまった。恐らくその言葉もルールから来るものだろうと、知り合ってからもう長い私は簡単に思い至る。電話だけで済ませようとしている心も
『たまに、人を殺す夢を見るんだ。人を殺して、僕は
そこで口を噤んだ彼は、言葉を絞り出すのも苦しいような、細い細い溜息の音だけ響かせた。
「いいよ、言って」
幾分か心を落ち着けた私がそう促すと、それでも躊躇っていたようだがついに口を割った。
『君を、殺した』
さしずめ私の声を聴いて安心したい。この電話の意図は、そんなところだろう。まさか自分が殺されているとは思いもしなかったけれど。
『君を殺しても、僕は嗤っていなかった』
「君は、人を殺さないよ」
『……君のことを今更疑ったりはしないけれど、でもその根拠は僕にはない』
「でも私にはある」
私の言葉を聴く体勢になったのだろう。彼が何も喋らなくなったのを、これ幸いとばかりに私の根拠を話す。
「君は自分に厳しくて、人に優しい。ルールを決めていることからこれはもう明白だよ。人を殺すのも躊躇わない、むしろ嗤ってられるくらい凶悪な自分を心の奥深くに眠らせているのかもしれない。私は顔を合わせたことがないから君の言葉を信じるしかないけれど、そんなところを見たことがない。片鱗も、見たことがないんだよ。……私を殺した時に哭いていたんでしょう? 殺したくて殺した訳じゃ、ないんじゃないかな。夢の中の君は、何があったかわからないけれど私を殺さなきゃいけなくなった。それなら私は君に殺されない行動をするよ、簡単ではないかもしれないけれど。だから、君は私を殺さない。万が一、凶悪な顔の片鱗を見たら私が全力で止める。その顔を向けている相手が誰であろうと、いつなんどきでも止める。だから、また怖くなったら電話してよ」
彼は哭いていた。文字通り、