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夢のまた夢

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警察が介入し彼の父親は容疑者として連れていかれ、僕も彼も警察からの事情聴取を受けることになった。僕のバイト先や家族には警察から事情説明の電話が行き、ひとまずは事なきを得た。未成年ということもあり、事情聴取には僕のお母さんが着いてくれることになった。
元は仲の良かった家族であったこと。彼の母親の事故、それによりおかしくなってしまった父親のこと。CDが割られたこと、それでも父親と家族でいたかったこと。せめてと思い、CDや雑誌を僕の家に保管していたこと。僕の中にある情報を全て開示した。これで今度こそ助かってほしいと一縷の望みをかけて。
彼の事情聴取にも同席したお母さんは泣きながら謝っていた。これは大人の怠慢だと、嘆いていた。その大人にはきっと自分も入っていたのだろう。
「助けてあげられなくてごめんなさい。大変だったでしょうに、一人でがんばったね。ごめんね」
あとで会った来栖の目は真っ黒で何を見ているのかわからなかった。
[7]
もうあと半年もしないうちに高校を卒業するということもあり、来栖は親戚の家から通うことになった。周りは引越しに伴い転校も視野に入れて話を進めていたが、そこに待ったをかけたのがなんと来栖だった。どうせあと数ヶ月しかないのだから変な目で見られるのは今の学校も転校しても変わらない。それならきっと変わらない態度を取ってくれるはずの僕が居る学校で卒業したい。そう言い、頑として譲らなかったと聞く。
教室で僕は出会い頭に抱きついて言った。
「来栖……お前はなんて良いやつなんよ……」
周りは引いた目で見ていたが素知らぬふりをした。
彼は力を振り絞って僕を引き離そうとしていたが、何がなんでも離れない様子に根負けしたらしい。そのまま話し始めた。
「もう吹っ切ろうと思ってさ。母さんは死んで、もう戻らない。父さんもアル中になって療養中で、会えない。なら、せめて卒業するまでは蒔希とまた音楽の話をしていたい。だから転校はやめた」
でも、これなら転校しても同じだったかな。そう続いた言葉に思わずパッと離れた。見上げる来栖の顔はいたずらっ子のように笑っていて、久しぶりに見たその笑顔に僕は目を丸くした。そんな僕の様子にもお構い無しに彼は「久しぶりにカラオケ行こう」と放課後の約束を取り付けてきた。

お互い数曲歌ったあと、あの曲一緒に歌おうと彼は言い、デュエット曲を送信した。あの時のように自然と別れてやはりゾクッとする。
「来栖はやっぱり上手いね」
「まあな。……でも蒔希と歌っている時が一番楽しいから、最近は一人で歌うことすらないな」
「え? じゃあ今久々に歌ってるってこと?」
「うん。やっぱり楽しいな」
そう言って笑っている彼の顔を見て安心した。それと同時に"あのお誘い"を思い出す。
ーーきみはまだ僕と本気で組みたいと、一緒に歌っていきたいと思ってくれている?
「ねえ、蒔希」
来栖の声にハッと彼を見やる。真剣な目で僕の目を見つめていた。
「将来二人で組まない?」
僕はだんだんぼやけて、うまく見えなくなっていく来栖をそれでも見つめていた。
「蒔希となら、一緒に食っていける気がするんだよ」
ついに目を閉じてしまい、それでもあの時出来なかった返事をしたくてぶんぶん首を縦に振った。
「首取れるよ、蒔希」
笑いながらそう言った来栖はとても嬉しそうだった。
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