私の知り合いに『ルールや自分で決めた規則に雁字搦（がんじがら）めになっている男』が居る。
ひとつ、朝は毎日七時までに起きウォーキングを平日は三十分、休日は一時間行う。
ひとつ、摂（と）る食事は三食以上。一食三品まで。
ひとつ、お風呂に入るなら食事の前。
ひとつ、二十三時までにベッドに入る。
これは健康に関するものを簡単にピックアップしただけで、彼のルールはそれ以上にある。私がよく覚えているものは『初めて出会う人や長く付き合う職場の人には簡単に心を見せるな』である。おかげで雑談できるようになるまで、ひと月半かかった。
私は一度、彼に
「そんなにマイルールを決めて生き辛（づら）くないのか」
と聞いたことがある。彼は私の目を少しの間見つめたあと、ぽつりとこう言った。
「自由がある方が、生きづらい」
それはどういう感情の元で口にした言葉なのか、彼の顔や目を見てもわからなかった。その時だけでなく、今も昔も『過去に何かあったのか』『誰かに裏切られたことがあったのか』と色々聞きたいことはあったのにどれも口にすることはできずにいる。けれど私は、彼はそのままで良いとも思っている。