このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

夢のまた夢

[1]
僕と彼ーーー来栖くるすは高校時代の同級だった。僕らはクラスに存在する所属グループが違い、二年の終わり頃になるまで一度も話したことはなかったが、音楽の授業をきっかけにお互いの家を行き来するほどの仲にまで進化した。

ある日の放課後、僕は来栖の家にお邪魔していた。彼は一人っ子らしく、親もこの時間は居ないため家には僕らだけだった。麦茶を振る舞いながら来栖は言った。
「今日発売のロッキン買った?」
「まだ。ロッキンって今日だったか。来栖は買った?」
「買った買った。ほら、これ。表紙、俺の好きなこの人たちだからさ、買うしかないじゃん」
「うわー! 最近メディアに出てくるようになったって聞いたけど、ついに表紙飾ったかぁ……」
僕が感慨深く呟くと、来栖はそっと言った。
「俺は学校でこっそり読んだから。よかったら貸そうか?」
「え、いいん? んじゃあ一度読んで、欲しくなったら買うわ」
「現金なやつだなー」
そうケラケラ笑いながら言った来栖は、床に無造作に置いていた震えているスマホに気付き手を伸ばした。
「電話だ。……げ、父さん」
途端に渋い顔になった来栖は、それでも電話に出ない選択肢は存在しないようで、一つため息をついて応答ボタンを押した。
「はい……父さん。ああ、負けたんだ……え、もう帰ってくるの?」
目を丸くしてーーー元々大きい目が落ちてしまいそうだーーー僕を見た。僕は察して一つ頷き帰り支度を始めた。しっかりと彼から借りた雑誌をカバンに丁寧に仕舞いこんで、立ち上がる。
僕を目で追っていた来栖は少しして電話を終え、玄関に向かう僕を追いかけてきた。
蒔希まき
振り返ると、僕より少しだけ小柄な彼はとてもすまなそうな顔をし、俯いてしまった。以前、まるで追い出しているみたいで嫌だと言っていたことを思い出す。
「来栖、大丈夫だよ」
そう言っても気持ちは晴れないらしく、つむじばかりが見える。ここからではどんな表情をしているかは見えないが、きっと眉尻が下がっているのだろう。
ーーきみのせいじゃないのに。
どうしても元気づけたくて、考えた挙句提案をした。
「来栖。このロッキン、しばらく借りてていい?」
きみの好きな人たちが表紙を飾った大事なロッキンを僕の家に避難させていいか、と言外に含めたことまで気付いたか気付かなかったか。俯いていた来栖はパッと顔を上げ、何度も頷いた。
「あんがと。んじゃあ、借りてくね」
また明日、と言い合い来栖とは玄関先で別れた。家の前の道路には赤や黄色の葉が散らばっていた。
1/5ページ