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深淵を覗く

生まれてきて、ごめんね。

いつか、母にそう言ったことがあります。いいよ、大丈夫。ここまま餓死するから。そう申したら思い切り頬を平手でぶん殴られました。意味が解りませんでした。

原因は覚えておりませんが、母と喧嘩をーーはたまた何か私が悪いことをして叱られている最中であったかもしれません。とにかく分が私に悪い状況でありました。なぜそんな本音をぶちまけてしまったのか、殴られてから後悔しました。私は大きい音とそれに付随する出来事をひどく嫌う傾向にありましたので、叱られているーーまたは喧嘩をすることはそれの最たるものでした。
心に秘めて生きていく覚悟をしたというのに、あろう事か私を産んだ張本人に向かって死刑宣告を突き付けてしまったのです。本音をぶちまけたその時は小学生ほどだったとはいえ、言って良いことと悪いことがありました。あれは間違いなく悪いことだと成長すればするほど理解しました。しかし、あの時はなぜ私のことを理解してくれないのかと、むしろ憤慨してしまったのです。そうなるともう収拾がつきません。なぜならお互い怒っているのですから。これが恋人同士だったならここまま別れ話に進んでさようなら、の一歩手前でしょう。
しかし折れたのは母でした。崖の下に飛び込むことを自分の子どもは恋焦がれている、というのはいやでも理解したと思います。それを全力で止める気持ちでいることも子どもながらに感じましたが、その時取った行動はとても大人でした。あの疲れた顔で微笑む母は今でも時折思い出します。
「あんたの好きな納豆巻き。買ったから、食べよう」
私は私で折れる気など微塵もなく、だからこそ母が折れてくれたことは歓喜に値するものでした。それが例え理解の末にのたまった言葉ではないとしても。

お母さん、産んでくれて有難うございました。どうして産んだんだ、と思うことは少なくないですが産んでくれなければ知らなかった景色がたくさんありました。原因は分かりませんが、私は死に焦がれています。それは間違いようがなく、救いようのない事実です。ですが今までの人生は、くすんだ青色だけでなくあか色もあれば、薄い黄色のようなこともありました。全て『喜怒哀楽』にまみれていました。生きていて、良かったと思いました。
その上で、私はどうしても叶えたいのです。だから、今一度言わせてください。

生まれてきて、ごめんね。
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