バレンタイン戦争
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とうとうこの時が来た。
朝6時に目覚めた3人はベッドから身を起こし、これから戦争に出向くような覇気を漂わせていた。
あの飛段が早起きするほどだ。
それぞれ家を出て、町中でばったりと出会った。
それでも驚きはせず、学校へと向かう道の向こうを眺める。
「また…、この時が来たぜ」
「こっちはいつでもどんとこいだ。うん」
「気を抜くな」
3人の手には、それぞれカワイイ包装紙に包まれた薄い箱を握っていた。
「なーにしてんスかー?」
そこへKYナンバーワンのクラスメイトが来た。
「トビ、毎回思うけどおまえ家どこだよ。うん」
時には飛段のマンションの前に現れたり、イタチの家のわき道から現れたり、デイダラの家の前を通過したり。
ちょうど綺麗な三角形で繋げるほど3人の家は別々にあるというのに、トビは神出鬼没に現れる。
トビは3人が片手に持っている箱を見た。
「あ! そういえば今日ってバレンタインっスね? こんなドキドキソワソワな日に、なに似合わない空気かもしだしてんスか?」
一応3人のただならぬ空気は読めたようだ。
とにかく、体をクネクネさせて踊っているトビはうざい。
「オレらにとってはまさに戦争だ」
飛段も真剣である。
トビは「戦争?」と聞く。
デイダラは「うんうん」と頷いて言った。
「オイラ達は各々の恋人にコレを渡さなきゃならねえ。だが!」
ギラリとデイダラの目が光る。
その言葉をイタチが継ぐ。
「その前に、敵をかわしていかなくてはならない」
イタチの目はどこか切なげだ。
「て…、敵…?」
3人の恋人は全員男だ。
だとしたら、敵というのは「先生~v ここ教えてくださ~い」と言い寄る女子生徒だろうか。
しかし、「かわす」という言い方も引っかかる。
「「「!!」」」
トビがモヤモヤと考えているとき、3人は突然はっとした顔になり、いきなりトビに背を向けて走り出した。
「あれ? 皆さ…」
その背中を追いかけようとしたトビだが、
「あ!! 逃げた!!」
「追いかけるのよ!」
「待ってー!! イタチ様ー!!」
「飛段くーん!」
「デイちゃーん!!」
ヌゥの群れの如く、大勢の女子が飛段達を追いかける。
「ギャ―――!!!」
その群れに逃げ遅れたトビは踏みつけられてしまった。
哀れ、お約束。
正門を潜った飛段は提案する。
「トビみたいに仮面被って登校するかァ?」
「一発バレるだろ。うん」
「却下だ。恐ろしい提案を思いつくな」
4人のトビ、考えただけで気味が悪い。
そんな話をしながら玄関に入り、下駄箱を開けた時だ。
「うわあああ!!」
「「イタチ―――!!」」
バレンタインチョコの箱にイタチが埋まってしまった。
最初にイタチが開けたため難を逃れた飛段とデイダラは救出に向かう。
「大丈夫か!?」
デイダラに引っ張りだされ、イタチは呻きながらも箱の山から出てきた。
飛段はイタチの下駄箱の中を見る。
中は至って普通の広さの下駄箱だ。
「どっからこんな数が出て来たんだ? 異次元空間? つうかイタチ、入りきらねえって!」
手紙の時と同様、律儀に袋に入れて持って帰ろうとするイタチを止める。
「しかしもらったものは…」
「てめーがそうやって律儀に受け取っちまうから調子に乗って次々と渡しにくるんだろーが。もう正直に鬼鮫先生と付き合ってますって女子の前で言っちまえ。数が減るから」
飛段とデイダラじゃあるまいし、簡単に暴露するほどイタチの口は軽くない。
飛段の言葉に「うーん…」と唸るだけだった。
「また去年みたいに拉致られるぞ。うん」
「!!」
その言葉でその時のことを思い出したイタチはゾッとした。
あの時のことはトラウマとなっている。
その時、背後から凄い勢いで走ってくる女子達が正門を潜るのが見えた。
3人の顔が真っ青になる。
普段の女子達は大人しいものなのに、この日となると人柄が変わってしまう。
「とにかく、上履きは諦めろ! うん!」
「おいアレ完全に他校の女子が混ざってるだろ」
「飛段、急げ!」
3人は来客用のスリッパに履き替え、教室へと急いだ。
教室には大勢の味方がいた。
クラスの男子だ。
3人が教室に入ってきたと同時に扉を閉め、数人がかりで扉を押さえた。
「やっぱ今年も派手に追いかけられてるな」
「安心しろ。引き出しの中のチョコの山もオレ達が処分しておいたぞ」
男子達の口まわりにはチョコが付着している。
礼を言うべきなのかが複雑なところだ。
「ここなら、クラスの女子以外は寄ってこないだろ」
「安心なところとは言い切れないところだけどな。うん」
3人だけがモテることを面白くないと思っている男子達は、女子達を阻止することに全力で協力してくれるが、時々殺意の眼差しを送ってくる男子も中にはいる。
「モテるくせに嬉しそうにしやがらねえ…」
「今年こそはあのコからもらえると期待してたのに…」
「ホモのどこがいいんだ…」
「オレも男子と付き合えば振り向いてくれるのか…」
視線だけで訴えてくる男子達。
「……………」
イタチ達は席に座りながらその視線をひしひしと感じていた。
問題は恋人へのチョコ渡しだ。
教室を移動する時は男子達の防壁があるため、デイダラは美術の時間に、イタチは体育の時間に手渡せるが、今日は数学がない。
飛段は机に伏したままどんよりしていた。
「飛段…、学校が終わってからじゃダメなのか?」
イタチの言葉に飛段は顔を伏せたまま首を振る。
「職員会議でだいぶ遅くなるって…。今日渡さなきゃ意味ねーんだ…」
「だからって、教室と授業以外で男子の奴らは守ってくれねーぞ。うん」
飛段はどうしようか考えながら窓を見る。
しかしすぐに逸らした。
外からこちらを窺う女子達の視線と合わすところだったからだ。
普段は肉食系男子な飛段も、得物を待ち構える女子達にとっては草食動物も同然だ。
休み時間も昼休みも気が抜けない。
「確か3時間目ってB組のクラスが数学の授業っスよね?」
いつの間にかトビは飛段の前の席に座っていた。
「トビ!?」
「おまえ、よく無事だったな。うん」
「名誉の傷見ます?」
こちらに背を向けたトビの背中には、いくつもの靴痕があった。
仮面にもヒビがある。
よく生還したものだ。
トビが出した提案は、3時間目の授業のためにB組に向かおうとA組を通過する角都をつかまえてチョコ手渡せばいいとのことだった。
その間、1時間目の美術の授業中にデイダラが提出の作品とともにサソリへチョコを渡し、2時間目の体育の終わりにこっそりとイタチが鬼鮫にチョコを手渡した。
飛段は早く渡したくてうずうずしている。
箱を見つめているだけで中のチョコが溶けてしまいそうだ。
「ちなみにおまえらはなにチョコあげたんだ?」
昼休みの時間、昼食を食べながら飛段が尋ねた。
「オイラはカップケーキ」
「オレはトリュフだ」
当然手作りだ。
飛段にはそんな器用なことはできないため、市販のものである。
要は気持ちだ。
そしてやってきた3時間目の前。
飛段は廊下側の窓からそれを窺おうとする。
「うわっ」
しかし、先程よりも女子が増えている気がする。
出て行けばもみくちゃにされるだろう。
トビの提案は読まれていた。
まるで罠にかかるウサギを堂々と待っているかのようだ。
「出れない…」
飛段は涙ぐみながら窓の先を指さし、デイダラとイタチに訴える。
とりあえず2人は飛段を窓から離した。
涙ぐんでる飛段の写真を窓越しに撮られていたからだ。
作戦変更。
やはりあの手をつかわざるをえない。
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