昨日の敵は今日の親友
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7月に入った頃だ。
登校したとき、珍しく朝から席に着いていた飛段が話しかけてきた。
「イタチから聞いてきたぜ。「愛」はつまり「恋」ってことだ」
「…は?」
「だから、好意? のことだって。その好意を持った奴のことを想うたびに胸が苦しくなって、顔が熱くなって、そいつのことしか考えられなくなるってよ」
言いたいことはわかった。
とりあえず、ここでそれを発言するのはやめてくれ。
オイラは顔を真っ赤にしてそれを伝えた。
確かに愛ってそんなカンジだろうな。
「病気みたいなもんだから、デイダラ、気をつけろよ? 恋の病って言うんだぜ?」
もしかして恋煩いのことだろうか。
「そういうおまえは恋したことないのかよ」
「イタチはあるらしいけどな」
「!」
イタチもなのか。
オイラはちょっとびっくりした。
「飛段はどうなんだ? うん?」
「オレは…、ないっつうか…、わかんねーな…」
「……そうか…」
どことなくそういうのに嫌悪感を見せていたから関わりたくないものだと思っていた。
けど、興味はあるようだ。
「そういう奴が見つかるといいな。うん」
「デイダラはオレが好きか?」
「嫌いだ、バカ」
「冷てーなァ」
オイラは小さく笑い、はっとして右手で口を覆った。
笑ったんだ、このオイラが人前で。
いつぶりだろうか。
「笑ったな。ゲハハッ」
「…オイラだって笑うさ。うん」
そう言ってオイラはまた笑ってやった。
*****
放課後、イタチが絡まれているのを飛段と一緒に見つけた。
体育館裏の奴らとはまた別の先輩だ。
あの時不参加だった奴らだな。
他の奴らが謹慎処分を食らったのは知っている。
その報復だろう。
オイラと飛段は顔を見合わせ、同時に笑みを浮かべて頷き、走り出した。
最初に攻撃したのは飛段だ。
先輩越しからそれを見ていたイタチは「あ」と声を漏らしたが、先輩はなにかの作戦と思ったのか気にせず、それゆえに後頭部に飛段の飛び蹴りをまともに食らってしまった。
ご愁傷様。
「てめーらの絡み方も今時だっつーの」
「ベタベタで気持ち悪いくらいだ。うん」
これぞまさしくヒーロー登場。
なるほど、芸術的だ。
現れたオイラ達を見て先輩達は早くも浮足立っている。
「飛段に…」
「デイダラだと!?」
「こいつら、なんでつるんでんだよ!?」
飛段はイタチに近づき、イタチの肩に腕を回した。
「オレらのダチに手ェ出さないでくれるゥ?」
オイラは背を向けたまま、小さく言う。
「……その…、この前は…、悪かったな…。うん」
イタチがどんな顔をしたのか気になったが、振り返っているヒマはなさそうだ。
先輩達は挑発的に言いだした。
「飛段、デイダラ、そいつがどんな奴か知ってんのか?」
「面も頭もいいうえに、父親が警察のお偉いさんで、オレらみたいなのを見下してる奴だぞ」
オイラも最初はそう思っていた。
けど、おまえらに言われるとすごく腹が立つ。
なにか言い返そうとオイラが口を開けた時だ。
「オレは、それをひけらかした覚えは一度もない…!」
その時、オイラは初めてイタチの怒りを耳にした。
ずっと溜めこんでいた気持ちとともに吐き出されたかのようだ。
イタチの怒りを目の当たりにした先輩達はビクリと震えた。
それでも「よ…、よく言うぜ」と強がる奴らもいる。
「それ以上喋んじゃねーよ。イタチのこと、知りもしねーくせに知ったかぶりかますな」
今度は飛段が怒りを見せた。
やはり迫力がある。
そうだ、イタチのことは少なくとも先輩達よりオイラと飛段が理解しているつもりだ。
「これ以上イタチに手出しするようなら、謹慎覚悟でオイラ達がまとめててめーらを潰しにかかるぞ」
「ひとつずつ、ブチブチとよォ…」
決まった。
先輩達の戦意が完全に喪失し、どう返してくるかと思えば、今度は素直にオイラ達に道を開けた。
オイラはイタチの右肩を叩く。
「行こうぜ、イタチ」
イタチは頷いて歩きだした。
それから学校から少し離れた場所でイタチはオイラ達に尋ねてきた。
「いいのか? オレと…」
「ハァ? おまえだからいいに決まってんだろ。悪いモンでもあんのか?」
飛段の次にイタチは視線をこちらに移した。
オイラはもう逸らさない。
だから笑みを浮かべて答えてやる。
「それに、絡まれた時とか3人の方がいいだろ。うん」
そしてイタチはやっと笑みを見せた。
「…ああ、頼もしい…」
その日オイラは部活をサボり、初めて誰かと肩を並ばせて下校した。
夏休み前日の放課後、オイラは旦那を美術室に呼んだ。
旦那は「忙しい」と言いながらもついてきてくれた。
気のせいか、オイラを見る目も変わった気がする。
最近は、旦那から声をかけてくれたり、助言をしてくれることも少なくない。
「見せたいものってなんだ?」
「オイラの芸術だ」
オイラは奥にある作品にかけられた布を「せーの」と内心で言って外した。
それは粘土で作った旦那の像だった。
それを見た旦那は驚いて目を見開いている。
像の旦那の顔には笑みが浮かんでいる。
オイラが見たかったあの笑顔だ。
自画自賛するようだが、今にも動き出しそうで今までの作品とは比べ物にならないほどいい出来だ。
「…くく…っ」
旦那は小さく笑った。
「旦那?」
「そうか…、おまえは今…こういう作品を作るのか」
上げられたその顔にはオイラの見たかった優しい笑みがあった。
オイラは思わず泣きそうになる。
旦那はオイラに近づき、頭を撫でてくれる。
「そうだ…。オレが見たかったのは、こういう作品だ、デイダラ」
「旦那…」
「まあしかし、恥ずかしい奴だな…」
像を見上げる旦那の、頬がほのかに赤い。
照れているのだろうか。
オイラの顔の方がもっと赤い。
「その…、オイラ…、旦那に認めてほしくて…、今まで頑張って来たんだ。うん…」
「……………」
「旦那…、オイラ…旦那が好きだから…」
ここでフラれてしまっても、そりゃあちょっとの間は立ち直れないかもしれないけど、大丈夫だ。
それに今は新しい友人たちがいる。
芸術以外のものを教えてくれた友人がいる。
旦那はオイラの顔をじっと見つめ、口を開いた。
「オレは…」
オイラは次の言葉に構え、旦那は続ける。
「おまえの作品が好きだ」
「いや、旦那、オイラ自身は…」
「だから、オレが見ててやるからおまえは毎日ここに来い。オレもここに来てやるから」
「! 旦那、それって…」
「いいな、死んでも必ず来い。その像はあとでオレのアトリエに運んでもらうから置いとけ」
オイラの胸に指をさして早口でそう言ったあと、旦那はさっと背を向けて美術室を出て行ってしまった。
オイラは旦那の像に振り返り、小さくガッツポーズする。
その時、キイ…、と鉄の扉が開く小さな音が聞こえてはっと振り返ると、
「♪」
「…」
飛段とイタチがロッカーに隠れていた。
「!!」
完全に見られていたし、聞かれていたようだ。
当然オイラは顔を真っ赤にしながら起こり、「おまえらにもいつか同じことしてやる! うん!」と宣言した。
*****
その1年後の春だ。
遅れて教室に飛び込んできた飛段は、体に包帯を巻いた状態のまま、目を輝かせながら言った。
「デイダラ! イタチ! オレ、恋した!!」
さて、こいつの恋の行方をどこで窺ってやろうか。
そして、どう芸術的に達成させてやろうか。
それはまた別の話になるな。
うん。
.To be continued