昨日の敵は今日の親友
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それは国語の授業の時間だった。
冷房がきいた教室でおかしなことが起こっていた。
飛段がサボりなのはいいとして、あの優等生のイタチがいない。
体育の時はちゃんといたのに。
飛段に誘われていたとしても、ああいう奴は簡単に授業をサボる奴じゃないことはわかってる。
隣の席が2つ空いているのは初めてのことだ。
小南先生もチラチラとイタチの席を見て怪訝そうな顔をしている。
また先輩達に呼び出されたか。
それにしては遅い。
いつもなら瞬殺で戻ってくるのに、今日は不意打ちを食らったのだろうか。
最初はあまり気にしていなかったが、次の国語の時間となれば話も別だ。
遅すぎる。
「!」
教室の後ろの扉から飛段が入ってきた。
飛段もイタチがいないのを見て驚いた顔をしている。
「デイダラ、イタチは?」
授業中にも関わらず、出入口でオイラに声をかけた。
クラスの奴らに注目されて舌を打つが、「さっきの国語の授業にも来てなかった」と返す。
それから飛段は踵を返して教室を出て行った。
「飛段!」と声を上げて反射的にオイラも立ち上がる。
「…!」
追いかけようとする自分に気付き、座り直そうとしたが腰が下りない。
「デイダラ?」
ペインに声をかけられた時にはオイラの心は決まっていた。
「おなか痛いのでトイレ行ってきます!」
明らかに嘘だとバレたかもしれないが、オイラは飛段を追いかけた。
廊下を曲がるところでその姿が見えなくなったが、すぐに玄関で立ち止まっていたため追いついた。
「飛段!」
「デイダラ? おまえ、授業は…」
「サボり魔に心配されたくねーよ。うん」
出席をひとつ落とそうが痛くもない。
「イタチの奴、もしかして先輩達に…」
「不意打ち食らっても簡単にやられる奴じゃねえんだけどなァ」
一緒に上履きのまま玄関を飛び出し、飛段はガシガシと後頭部を掻きながら辺りを見回す。
「学校外の可能性もあるが、今は近くを探すしかないな。うん」
オイラと飛段は手分けして捜すことにした。
オイラが第2校舎、飛段が第1校舎だ。
1階から丁寧に捜していく。
開いていない教室は窓から中を窺ったり、ロッカーを開けたり、教卓の下を探したり。
反対側の校舎では同じことしている飛段がいる。
互いにいるかいないかの合図を窓から送り、次の階へ急いだ。
だが、校舎を探してもイタチどころか先輩達もいない。
そこでオイラは気付いた。
イタチがいなくなったのは体育のあとだ。
だとしたら、怪しいのは体育館か。
オイラは飛段に合図を送る。
ジェスチャーで「体育館に行く」と。
*****
体育館には鍵がかかっていた。
これでは中を調べられない。
裏の倉庫から入ってみようと裏へとまわった。
度々オイラは自分の身長を呪う。
男子としてはちょっと低い。
こんな時に飛段がいればと思うが、今はいない。
ちゃんとジェスチャーを理解してくれたのだろうか。
オイラはジャンプして倉庫の窓枠に手をかける。
窓はオイラでも潜れるかと思わせるほど小さい。
とりあえず腕の力だけで体を持ち上げ、窓を覗きこんでみる。
「!!」
誰かが倒れていると思ったら、イタチだ。
「イタチ!!」
声をかけるが返事どころか反応もない。
脱水症状で倒れているのか。
オイラは窓を開けようとしたが、鍵は開いているのに窓は固く閉ざされたままだ。
壊れているようだ。
イタチの奴、遠慮せずに割ればよかったものを。
通気のない倉庫の中はおそらく蒸し風呂状態だ。
誰かを呼んでこようとしたとき、足音が聞こえた。
窓から下りたオイラはそちらに振り返る。
「飛だ…」
最悪だ。
足音が多いと思ったら先輩たちだった。
下品に笑っていたそいつらはオイラを見るなり怪訝な顔をする。
「なんだおまえ」
「あれ、こいつ1年のデイダラじゃねーか?」
指をさすな。
「おまえら、イタチを倉庫に閉じ込めたな!?」
それを聞いたそいつらはまた嫌な笑い方をした。
「だったら?」
オイラは倉庫に指をさす。
「人を呼んで来い! あいつが倉庫で死にかけてんだよ! もう気が済んだだろ! うん!」
「エラそうに命令してんじゃねーよ。そいつが死のうがオレらには関係ねーよ。大体、人呼んでもどうすることもできねーぜ?」
そう言ったそいつはポケットから小さな鍵を取り出した。
「さぁて、これ、なんの鍵でしょー?」
気付けばオイラは走り出していた。
鍵をつかもうと手を伸ばすが、
「ぐ!」
そいつに腹を蹴られ、地面に転がった。
「慌てんじゃねーよ」
オイラは咳き込みながら腹を押さえ、リーダーらしき先輩を睨みつけた。
ただでは渡してくれないか。
数は5人。
オイラを蹴った奴はおそらく喧嘩慣れしている。
クソ、イタチを助けに来なかったらこんな面倒な目に遭わずに済んだんだ。
まあ、そう思ってももう遅いか。
諦め半分に立ち向かおうとした時だ。
オイラを蹴った奴が横に吹っ飛んだ。
きょとんとしていると、そいつはオイラの隣に並んだ。
「飛段」
「ヒーロー登場~♪」
「てめー遅ェんだよ。うん」
「間違って屋上に行っちまったんだよ」
「体育館に指さしたろ!」
つまりまったく理解できてなかったということだ。
それから校舎をウロウロした挙句ここに行きついたらしい。
もっと早く来てくれればオイラも蹴られずに済んだってのに。
「とりあえず、イタチの救出といくか」
パンッと飛段は右手のひらに左コブシをぶつけた。
それから先輩達がかかってきたが、飛段の敵じゃなかった。
巻き添えになったオイラも応戦しざるをえなくなったし。
なにが嫌だったって、その時のオイラと飛段は協力して喧嘩なんてどちらも経験がなかったから、互いの背中をぶつけるわ、コブシが当たってしまうわで散々だった。
誰と喧嘩してるのかわからなくなるし。
まあそれも5分もかからなかったわけで。
先輩達は全員地面に伏してのびている。
「最悪だ、おまえとの喧嘩」
「お互い様だろォ?」
オレ達は先輩達を見下ろしながら短く言い合い、飛段は小さく笑った。
「なに笑ってんだ? うん?」
「おまえ、イタチのことが嫌いじゃなかったのか?」
「ああ、嫌いだ。…同族嫌悪ってやつだ」
ただ、オイラに似ている。
そう思った途端ムカっ腹が立ってきたんだ。
それは飛段も同じだ。
性格は全然違うのに、2人とも同じ匂いがした。
だから2人はつるむようになったのかもしれない。
けど、芸術を優先したいオイラはそれを拒んだんだ。
結局今はこいつと肩を並ばせていることになってるわけで。
「イタチさーん!」
「!」
「誰か来た!」
声が聞こえ、オイラは飛段を急かしてすぐ背後の木にのぼった。
そこから下を見ると、しばらくして鬼鮫先生が走ってきた。
他の先生からイタチがいなくなったことを聞いて捜しにきたのだろうか。
「これは…」
倒れた先輩達を見て驚いている。
オイラ達がやったなんて知れたら停学ものだな。
そこでオイラは先輩達から奪った鍵を見たあと、振りかぶり、倉庫の開かずの窓にぶつけた。
「!」
窓に当たって地面に落ちたそれに気付いた鬼鮫先生が拾い上げ、倉庫を見上げた。
体育教師である鬼鮫先生はそれが倉庫の鍵だってわかったはずだ。
それから踵を返して体育館へと向かった。
「これで助かるな。うん」
オイラはホッとして木に背をもたせかける。
飛段は上の枝に座りながら「ゲハハ」と笑った。
「おまえイタチのことけっこう好きだろ?」
「誰が」
「サソリと同じ「好き」なのか?」
「たとえオイラがイタチのこと好きだとしても、旦那に対する好きとはまた別格だ」
「どう違うんだ?」
こいつは天然か。
オイラは口を濁して答える。
「だから…、その…旦那に対する「好き」はイコール「愛」だ!」
「愛…」
真剣な顔で復唱するのはやめてくれ。
余計に恥ずかしい。
「愛ってなんだ?」
「それは…」
そう言われてみると説明しづらい。
この気持ちをどうこのバカに伝えればいいのか。
「とりあえず、イタチに聞いてみろ。うん」
オイラも考えてみるから。
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