昨日の敵は今日の親友
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それから数日が経過したある日の早朝、放課後の部活終わりまで待てなかったオイラは、早く作品作りに取りかかろうとロッカーに積んだダンボールを取ろうと椅子を移動させてその上に載った。
ダンボールの数は昨日で4段となった。
一番上に手を伸ばす。
置くのはいいが取るのは難しそうだ。
つま先立ちになり、力いっぱい手を伸ばした。
「!?」
ダンボールが取れた途端、バランスが崩れた。
ダンボールもろともこけるかと思った時だ。
「っと」
いつ入ってきたのか、飛段がオイラの背中を左手で支え、オイラが落としそうになったダンボールを右手で受け止めてくれた。
しばらく動きを止め、はっとしてすぐに飛段の手からダンボールをひったくり、飛段から離れる。
振り返ってなにか言ってやろうかと思ったが、ここは憎まれ口を叩くべきところではない。
「ありが…」
言いかけ、一度両手に持っているダンボールを机に下ろした。
「…礼は言わねえからな。うん」
声も小さかったし、背を向けたままだったが、飛段は「おう」と返す。
もう一度振り返って見たその顔には薄笑みがあった。
こいつはオイラのこと嫌いだと思ってた。
いや、嫌いなら初めから関わってこないか。
「全部下ろせばいいのか?」
「…ああ」
飛段は椅子に載って3段から順番に下ろしていく。
1段目なら椅子を使う必要はないんだろうな。
「慎重に持てよな」
「わかってるっつの」
オイラが念を押したにも関わらず飛段は3段積みのまま持ってきた。
慎重の意味すらわかっていない。
オイラはなにも言わずダンボールを開けて中の物を取り出した。
「なんだこれ、サソリの先生かァ?」
芸術の意味さえわかってねえ奴にわかれば上等だ。
オイラはダンボールから取り出したそれを教卓の前にあるテーブルに並べる。
腕、脚、胴体、そして顔。
壊れないように分けてダンボールに入れてたものだ。
あとは顔の形を整えれ、焼いて全てのパーツを組み立てれば完成だ。
木片のナイフで綺麗に顔の輪郭を削っていく。
誰かに見られているとけっこう恥ずかしい。
「なんか…」
椅子を逆に座る飛段は口出しする。
「人形ってカンジだな…」
「そりゃ、どう見ても人形だ。うん」
おかしなことを口にすると内心で小さく笑った時だ。
「おまえが作りたいのは、サソリだろ?」
「…!」
言われてはっとし、目の前の無表情な旦那の顔を見つめた。
いや、無表情というより“ただの顔”だ。
なにかが足りない。
これは、旦那じゃない。
オイラの、単なる作品だ。
「……………」
完全にオイラの手が止まった。
うつむきながら思い知っていると飛段が「おい」と声をかける。
「そろそろ、授業じゃねーの?」
「!」
もうそんなに時間が経ったのか。
今のうちに美術室の鍵を返しに行かないと美術部が使用禁止になってしまう。
オイラは作品にあまり手をつけないままダンボールに戻し、飛段に協力してロッカーの上に積んでもらい、鍵を手にとって美術室を出た。
飛段が出て、オイラが扉を閉める前にあのダンボールを見る。
オイラはあの作品を完成させていいのだろうか。
というより、あれは完成と呼べるものだろうか。
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