昨日の敵は今日の親友
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1週間過ぎた頃だろうか。
飛段とイタチが教室でもよく会話するようになった。
それと、2人で屋上に行くのも見た。
こっそりと屋上の扉越しにそれを聞いていると、ほとんどがくだない話ばかりだ。
どこで仕入れてくるのか気になる情報も聞いたが、オイラとは関係のない話だ。
オイラと旦那のことはもう話したのだろうか。
それも気になったが、あとで気にしないことに決めた。
オイラは立ち聞きしてるわけだし、聞いたとしても怒鳴りにいけない。
数回立ち聞きしたが、だんだん苛立ってきて屋上には行かなくなった。
第一に、なんでオイラが立ち聞きするために時間を割かなきゃいけないんだ。
よくよく考えれば馬鹿な時間の過ごし方だ。
オイラはあいつらと違ってやることは山ほどあるんだ。
うん。
*****
放課後、今日は部活が休みだった。
けど、オイラにとっては休みじゃない。
むしろ好都合だ。
部活が始まる時間から作品作りができるのだから。
「!」
美術室の扉を開くと、飛段がダンボールを抱えてちょうど美術室を出るところだった。
「っ!」
「! おい!」
そのダンボールを取り上げる。
「なにする気だったんだ!?」
この間の腹いせに中のものを壊す気か。
これでもかって形相で睨みつけていると、飛段は「ハァ」とため息をつき、右手を差し出した。
「それ、オレの」
「?」
オイラは一度足下に置き、ダンボールを開いた。
そこには木材や工具が入っている。
すぐ隣の美術室と技術室が一緒に使っている物置部屋から持ってきたのだろう。
美術室からじゃないとその部屋には行けない。
「…「オレの」って、ちゃんと許可とってから持ち出せよ。うん」
顔を合わさず飛段の横を通過したとき、飛段は口を尖らせて言い返す。
「おまえのは許可とってなくていいのかよ」
「オイラは美術部員だ。居残り作業しても、下校時間が過ぎるまでなにも言われねーよ。うん」
ロッカーの上には2段のダンボールが積まれてある。
オイラは慎重に2段目を取り、机に持っていく。
「おまえのさァ、固執って…「好き」ってもんなのか?」
椅子に手をかけたオイラの動きがピタリと止まる。
「な…」
真っ赤な顔でおそるおそる飛段に振り返る。
やっぱりそうなるのか。
いや、オイラもそうじゃないかと思っていたが。
誰かに旦那の話を自慢げに説明するオイラを見て、引かれたことがあったっけ。
ここは否定するべきか。
この顔で。
いやいや、余計に怪しまれるだろ。
元々こいつは嫌いな奴だ。
ドン引きされようが知ったこっちゃない。
うんうん、そうだ。
「…ああ、オイラは、だ…、旦那が好きだ…」
穴があったら入りたい。
真っ赤な顔のオイラの脳裏にそんな言葉がよぎった。
なのに、飛段は顔色ひとつ変えない。
「…そうか…、それってどういうものなんだ?」
「…どうって…。その人のことしか考えられなくなるし、頬とか触れたいし触れられたいし…、つーかなんでオイラがそんなの説明しなくちゃならないんだ!! うん!」
一瞬だが、飛段が嫌悪の顔を見せた気がした。
「…童顔、口も悪い、エラそう、そしておまえを見ていない」
「!」
「おまえの好きってのが、よくわからねえなァ…」
独り言のように呟いて飛段は顔を時計に向ける。
その瞬間、オイラは飛段に突進し、突き飛ばした。
「痛て!」
やはりこいつは転ばない。
飛段の背中にぶつかった机が他の机とぶつかってこけた。
飛段が「いきなりなにすんだコラァ!」とつかみかかり、オイラもつかみ返す。
「飛段てめー、それ以上は許さねえぞ! うん!」
「なにが許さねーんだ、超意味わかんねーんだよ。だから聞いてんだろ? あいつのどこがいいんだ? どこが好きなんだ? 触れたい触れられたい? 気持ち悪くねーのか?」
馬鹿にしているのか、飛段の険しい表情が緩んだ。
オイラは歯を噛みしめ、後悔する。
こいつに話すべきじゃなかった。
「馬鹿にすんな!!」
ゴッ!
躊躇せずそいつの右頬を殴りつけると、飛段も歯を噛みしめてコブシを握りしめ、
「痛てェな、この髷男子が!」
ゴッ!
同じところを殴り返された。
それからまた前みたいに殴り合いが勃発しようとした時だ。
「やめろ!!」
イタチが美術室に飛び込んできた。
オイラと飛段はそちらに振り返った。
「!」
飛段はイタチを見ると、オイラの胸倉から手を放し、オイラはよろけてその場に膝をついた。
飛段はイタチの横を通過して美術室を出て行く。
イタチはその背中を見送ったが、すぐにオイラに振り返って駆け寄ってきた。
「大丈夫か?」
「触るな!」
肩に触れられ、オイラはその手を払った。
「なんだよ…。てめーが飛段とつるんでるのは知ってんだからな、うん。どうせ、飛段とおまえで、オイラのことで笑い合ってんだろ?」
「なにをだ?」
オイラは恥ずかしさで顔を真っ赤にした。
オイラが旦那を好きってことは知らないようだ。
なのに、旦那はオイラを見てくれない。
「出てけよ!!」
オイラは誤魔化すようにイタチの胸を突き飛ばし、イタチは尻餅をついた。
「出てけ、この優等生気取り!!」
イタチは黙ったままゆっくりと立ち上がり、そのまま美術室を出て行った。
その日オイラは、初めて作品に手をつけなかった。
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