昨日の敵は今日の親友
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当然ながらオイラはすぐに美術部に部活届を提出した。
顧問は旦那だ。
中学の時より楽しく美術ができるってもんだ。
けど、旦那は部活になかなか顔を出さなかった。
面倒臭がりなのか。
それでも今だけは都合がよかった。
部員たちが帰ったあと、オイラは密かに、美術室の奥にある掃除用具の入ったロッカーの上のダンボールを取った。
身長が高い方じゃないから、椅子に載らないととれないけどな。
初めはただの粘土の塊だったこれも、オイラが手を加えて数日、形を成してきた。
この作品だけはどの作品よりも慎重に作っている。
窓際の椅子に座って作業しながら、黒板に掛かっている時計を見ると、もうすぐ6時を回る。
部活が終わってから1時間。
この1時間がオイラが作業できる時間だ。
ここで切り上げないと他の教員が「もう帰りなさい」って言いに来る。
家に持って帰って作りたいところだが、デカさがあるので易々と持って帰れない。
「…うん」
作りかけの作品をダンボールに戻し、ロッカーの上に置き直す。
それから通学カバンを手に持ち、美術室の電気を消して美術室を出た。
「機嫌良さそうだな」
「うわぁ!!?」
教室を出た途端、飛段がいきなり横から声をかけた。
びっくりしたオイラは扉に背中をぶつけてしまう。
バンッ、という音が廊下に響き渡った。
「びっくりさせんなテメー!」
胸を抑え、鼓動を落ち着かせる。
「つうか、おまえ、今日学校来てないだろ。うん」
「屋上でサボってた」
そう言って上に指をさした。
学校に来る気があるのかないのか。
「あ、そ」
オイラは飛段に背を向け、電気のついた廊下を渡る。
「なんでそうサソリに固執するんだ?」
その言葉に思わず足を止める。
気安く呼んだことにも腹を立てたが振り返れない。
顔が真っ赤なのがバレるからだ。
「……誰がテメーなんかに教えてやるか」
背を向けたまま答えた。
「あの先生はおまえに興味なさそうだったぜ」
「!!」
オイラは反射的に振り返って飛段に早足で近づき、
ゴッ!
コブシでその整った横っ面を殴った。
考えないようにしてたことを、馬鹿だと思っていたこの男が簡単に口にしたからだ。
手加減しなかったから、殴られて横に顔を向けた飛段の口端から血が伝う。
「わかったふうな口きくな! うん!」
飛段は「痛ェな…」と口端を手の甲で拭ったあと、鋭い視線だけこちらに向けた。
次の瞬間、目眩がした。
そう思ったと同時に左頬に痛みが走り、窓に背をぶつけてしまう。
「手ェ出したからには覚悟できてんだろーな、クソマゲ」
*****
オイラは玄関の手前で力尽きて廊下に座り込んだ。
階段から下りるのもだるかった。
「つ…っ」
頬に触れただけでじんわりとした痛みが走る。
たぶん顔が酷く腫れていると思う。
さすが根っからの不良だ。
喧嘩の経験が違う。
1対1で負けたのは初めてだった。
オイラも何度か殴り返してやったけど、片膝もつかず、オイラが吹っ飛んで倒れたら鼻でフンと笑ってさっさと帰りやがった。
あのヤロウ、満足そうに帰りやがって。
腹が立って廊下を殴った。
あれからどれくらいいたのか、窓の景色は暗かった。
もう陽も沈んだのか。
「大丈夫?」
ぬっと白衣を来た奴が現れたが、オイラにはもうびっくりする気力はない。
白衣を来た、顔が白黒の奴だ。
保健医の確か、ゼツ先生だったか。
「手当テシテヤルカラ来イ」
「……………」
確かにこの顔じゃ町中を歩けねえからな。
うん。
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