昨日の敵は今日の親友

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これは親から聞いた話だ。

オイラが最初に興味を示したものは、粘土だった。

千切って口に入れるような馬鹿はしなかった。

ただ、こねてこねてなにかを作ってた。

親父の血かもしれない。

親父は芸術家だ。

おふくろはモデル。

だから海外出張は珍しいことじゃなかったし、家でも学校でもオイラは独りには慣れていた。

薄暗い部屋での作品作りは当たり前だった。


たまに生意気だとか言ってちょっかいを出してくる馬鹿な奴らもいたけど、その時は自力で解決してきた。

勝てる時と勝てない時があったけど、喧嘩はできない方じゃない。


小学校中学校は美術部に所属してたけど、どいつも同等とは思ってなかった。

オイラの芸術こそが一番。

暗い生活のクセに妙な自身だけはオイラの中にあった。


気に入らなかった作品は自分で跡形もなく壊した。

唯一、オイラの作品を壊すのを止めたのが、サソリの旦那だった。

オイラは失敗作を初めて見直して初めて思いとどまったんだ。

今もあの時の作品はオイラの部屋に飾ってある。


*****


銀髪の名前は飛段。

中学校の頃にそいつの噂を聞いたことがある。

とにかくワガママで乱暴者、大きな問題になる前に中学の転校が何回かあったそうだ。

手がつけられない問題児のクセに少年院に入るほどの事件は起こしていない。

刺激を求める女子の間では人気の高い奴だが、男子はあまり関わろうとしない。

なにをされるかわからないからな。


そいつとオイラは今、遅刻した罰として資料運びを手伝わされていた。

職員室、理科室、音楽室などに。

体力がいいわけじゃないのに、たくさんの資料のせいでオイラは入学式から筋肉痛を起こしそうになる。

なのに、隣を鼻歌歌いながら歩く飛段は至って平然としている。

2つの大きなダンボールを両肩に担ぎながら。

オイラは箱1個を両手で持つのも限界なのに。


「えーと次は…、美術室だったな」


教室のある第1校舎の反対側にある第2校舎の3階の美術室だ。

2つの校舎を繋ぐ渡り廊下を歩き、第2校舎に移り、美術室を目指した。

その間もオイラと飛段は口をきいていない。

いや、飛段の方から「なあ」だの「よぉ」だの話しかけてきたけどオイラは無視した。

関わりたくないからだ。


美術室に入った途端、美術室独特の匂いがした。

奥に誰かいる。

一目見たとき、オイラは危うく資料を落とすところだった。


「美術の資料もってきたぜー」


飛段はオイラの横を通過してその人に近づく。


「その辺に置いとけ。落とすなよ」


人形の顔を彫りながら、こちらを見ずにその人は言った。

飛段は「偉そうだな」と言いたげに眉をひそめ、近くのテーブルにそれを置く。


「だ…、旦那…」


オイラが声をかけると、その人はこちらを見た。

あの目と再び合わせる日をどれほど待ち望んだことか。


「おまえ…」


今、旦那は頭の中で記憶を探っている。


「サソリの旦那、久しぶりだな。うん! オイラが小学生の時に…」

「………ああ、あの時のガキか…」


思い出してくれてオイラは安堵した。

あの時となにも変わっていない。

人形のように整った顔も、体つきも。

ここで微笑んでくれれば舞い上がる気分になるが、残念ながらサソリはニコリともしなかった。


「ここでは先生だ。それにしても、あの時のガキがデカくなったな」


そう言って旦那はまた作品に顔を向け、作品作りを始めた。


「あの時は小学生だったし、当然だろ。うん」

「シモの毛も生えたのか?」

「ぶっ!」


冗談なのだろうか。

表情がわからない顔だから見分け方がわからない。


「……………」


それは飛段も同じだった。

じっと、オイラと旦那が会話しているのをただなにも言わずに見ていた。

なにを考えているのか、思わずゾッとするほど虚ろな目をしていたから、オイラは悪寒を感じながらも振り払うように旦那と会話した。

旦那と出会ってからの自分を話した。

ついに賞をとったことも。

旦那もコンクールなどの作品集でオイラの作品を見てくれたらしい。


教室を出る前に、最後に旦那はこう言った。


「今のおまえは、ああいう作品を作るのか」


考え過ぎだろうか。

あれはオイラを褒めてくれた言葉なのか。

昨日の旦那の言葉がどうにも脳に引っかかって仕方がない。

気になってあまり眠れなかった。

無表情でああいうこと言われ、ちょっと傷ついた。

オイラが見たかったのは、聞きたかったのは、ああいう顔でも言葉でもない。

オイラが旦那のために磨いた芸術というものを知ってほしかった。

そして「すごい」と褒めてあの笑みを見せてほしかった。


昨日からの思いを抱えたまま、オイラは学校に登校した。

玄関にはあのイタチと飛段がいる。

こっちに気付く前にとっとと教室に向かおうと靴箱を開けた。


先に「お」と飛段の声が聞こえ、続いてオイラが「あ」と漏らした。


靴箱を開けた途端、バラバラと雪崩のように手紙が落ちてきたからだ。

飛段もだ。


飛段は「あーあ」と手紙を見下ろして苦笑を漏らした。

慣れている感じだ。

はっとイタチの方を見ると、イタチのカバンから手紙が漏れているのが見えた。

明らかにオイラより多い。

きょとんとした顔でこちらを見つめていた。


「み、見んじゃねーよ。うん」


見下されている気がした。

その時は被害妄想だったけど。


オイラはイタチを睨みながら手紙を拾った。


どうもうちはイタチの仕草や反応がオレの苛立ちを刺激する。

学校は違うが、噂だけでも中学校の頃から嫌いだった。

警察のお偉いさんの息子で、金持ちで、容姿端麗、成績優秀、昨日窓から窺ったが喧嘩も文句なしに強い。

絵にかいたような完璧人間だ。


ひがみなのはわかってんだ。

けど、それがオイラを苛立たせてるんだと思う。

イタチを直視した時に嫌悪感を抱いたのは事実だ。


オイラは、うちはイタチが嫌いだ。


それと当然、飛段もな!


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