昨日の敵は今日の親友
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
それはオイラが小学生の時だ。
遊び盛りの年のくせに友人を作らず、ただ芸術ばかりにのめりこんでいた。
自信はあったんだ。
けど、審査員という悪魔はガキの自信を一瞬で打ち砕いてしまう。
周りからは感心されていたはずのオイラの芸術が、落とされてしまった。
優勝者への祝福の拍手を遠くで聞きながら、オイラは自身の作品の前に立ち尽くしていた。
粘土で作ったアート。
自信があった作品も、今は霞んで見える。
コブシを握りしめ、その作品を殴ろうとした時だ。
「おっと」
いきなり背後から振り上げた手首をつかまれた。
「子供(作品)に八つ当たりするな、みっともねえ」
オイラは手を振り払い、そいつを睨みつけた。
「!」
赤い髪、赤い瞳、そして童顔な顔。
昔、芸術コンクール最年少受賞したサソリだ。
それからどの芸術作品もほとんど優秀賞を得ている。
大人顔負けの芸術家だ。
審査員の中に混じっていたことも覚えてる。
「なにが気に入らなかったんだろうな、あいつら」
サソリはオイラの作品を見上げながら言った。
オイラはサソリから目を逸らす。
「アンタもそいつらの中の一人だろ。うん」
「オレは結構推してたんだがな」
「オイラは、審査員の奴ら全員にオイラの芸術を認めさせたかったんだ!」
そうじゃないとオイラの芸術は意味をなさない。
プロ達に認められてこそ、オイラの芸術の素晴らしさは証明されるはずなんだ。
「ほっといてくれよ。うん」
「そりゃ悪かった。オレはただ、この作品はオレ好みだと言いたかっただけだ」
サソリは右手を伸ばし、オイラの作品に優しく触れ、薄笑みを浮かべる。
噂では悪魔みたいな奴だと聞いていたのに、こんな優しい笑い方をするのか。
顔が人形のように整っているため、不覚にもドキッとしてしまう。
その人形のような顔がこちらに振り返った。
口元が「だから…」と動く。
サソリはこちらに近づき、すれ違い際にオイラの頭の上にポンと手を置き、出入り口へと向かった。
「だから、やめるなよ、作品作り。おまえはこれからだ」
その背中が出入り口の扉に遮断されるまで、オイラはじっと見つめていた。
サソリが出て行ったあと、オイラはもう一度作品を見上げる。
また光を取り戻したような気がした。
「…これから…」
ぶつけようのなかった怒りが消えていくのがわかった。
審査員共の奴らじゃなく、あの人が認めてくれる作品をいっぱい作りたいと思った。
その日からオイラは今まで以上に作品作りに没頭した。
中学では何度も賞をとった。
けれど、あの人はあれ以来姿を見ていない。
会場を探し回っても、どこにも見当たらなかった。
あの人にまた褒められたい。
「親を超えた」「サソリ以来の逸材だ」「楽しみにしているよ」
他の奴らにそう言われても、オイラがほしいのはあの人の…旦那の言葉だけだ。
.