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一方、角都達は体育館へと来ていた。
劇もちょうど終わり、いよいよ飛段達の出番である。
ステージの明かりが一時的に消され、すべての窓のカーテンが下ろされた体育館の中は薄暗くなる。
角都達は後方からステージを窺っていた。
「いつの間にあいつらも出る話に…」
飛段達がステージに出ることは、角都どころか鬼鮫も初耳らしい。
先程生徒達から聞いたばかりだ。
「なんでも、自分達から志願したそうだぜ。生徒会の何人かがそいつらのファンだから、即座にOKが出たらしい」
サソリは生徒会の生徒から聞いたそうだ。
ステージにパッと明かりが点くと、ライトの下には、ギターを肩にかけた飛段とデイダラ、ベースを肩にかけたイタチ、ドラムの前に座ってステッキを構えるトビの姿があった。
トビ以外の3人はメイド服を着たままだ。
それを見た客席に座る女子達が「キャー」と黄色い声を上げた。
デイダラとイタチの間に立つ飛段は目の前のマイクを手に取り、苦笑混じりに話す。
「あー、あ―――。ただいまマイクのテスト中~。…よし、ども~、メイド暁で~す。ホントはこんなカッコでライブする気じゃなかったけど、トビの馬鹿に引っ張られてこのまま来ちゃったァ。…似合う?」
客席の女子が「カワイイ~」と声を揃える。
飛段は「サンキュー」と手を振った。
次にデイダラがマイクをとって話す。
「え、と、まあ突然ライブなんて思いついたのは、トビがどっかから昔の暁高校の生徒の写真を持ってきたことがきっかけだ。うん」
続いて飛段が言葉を継ぐ。
「それ見てビックリ。角都先生と鬼鮫先生とサソリ先生の写真だぜ。しかも、3年の文化祭の頃のライブ写真! トビ、どこから持ち出して来たんだ?」
トビは口元に人差し指を当てて首を傾げる。
「秘密っスv」
一斉に生徒達が後ろに振り返り、角都達に注目した。
((あのグルグル仮面がァァァァ!!))
角都とサソリはトビを睨みつけた。
だが、トビは目を逸らしてわざとらしく自作の鼻歌を歌っている。
飛段は「ドラムの奴の顔が塗りつぶされてたのが気になるけどな」などと言っていた。
「まあとにかく、オレらもライブしてみよっかなァってことでコソコソと練習してたんだ」
だから最近付き合いが悪かったのか、と角都は納得した。
「2人とも、時間がないから始めるぞ」
イタチに小声で言われ、飛段とデイダラはギターを構える。
「喉が潰れるまで付き合ってくれよなァ」
飛段が言い終わると同時に、トビが「1、2、3、4…」と杖同士を打ち鳴らし、ドラムを叩く。
それに合わせ、飛段達はギターとベースを弾き始める。
「ウィーアーファイティングドリーマー♪」
最初の曲はFL○Wだ。
飛段とデイダラが弾き語りで歌っている。
飛段達の姿を見て、角都と鬼鮫とサソリははっと学生時代の頃の自分達を重ねた。
なにを思い出したのか、サソリはくっくと笑う。
「そういや、角都、最初におまえが『ハウンドドッ○』歌ったんだっけ」
「ああ、アレは合ってましたねぇ。声も渋いですし」
「確か、鬼鮫は“遥か○方”で、サソリは“ビバ★○ック”だったか?」
サソリは噛みかけていたことを思い出し、不機嫌な顔になる。
3人が思い出話をし始めたとき、イタチは“キ○モノガタリ”を歌い始めていた。
その上手さに、角都達は思い出話を止め、歌に聴き入る。
それから何曲か歌いきり、アンコールにも応え、ライブは終わった。
舞台袖で再び休憩に入る4人。
額の汗をタオルで拭き取り、今度こそ制服に着替えようとしたとき、デイダラは「あ」と声を漏らし、飛段に振り向いて思い出したように言う。
「そういや、よかったのか? ドーナツ」
時刻はもうすぐ4時を過ぎる。
出店がほとんど片づけられる時間だ。
「ドーナツ? ……………ドーナツ!!!」
ライブ疲れで呆けていた飛段ははっと思い出した。
「働きっぱなしで終わらせてたまるかああああ!!」
「飛段! せめて着替えてから行け! 飛段!」
イタチの言葉は耳に入らず、飛段はメイド服のまま舞台袖を飛び出してダッシュで行ってしまった。
ドラムを片づけていたトビは、「あーあ」と声を漏らし、その背中を見送った。
廊下で声をかけてくる女子の群れをかき分け、外靴に履き替えずに校庭を走る。
出店はやはりほとんど閉まっていた。
せめてドーナツの店だけは、と祈りながら走る飛段は、その店を発見した。
まだ閉まる手前だ。
「おい、ドーナツくれ!」
片づけを始めていた男子はその姿にぎょっとするが、申し訳なさそうな顔に変わった。
「残念。もう売り切れたよ」
飛段の祈りが音を立てて崩れていく。
それにつられ、飛段はがっくりとその場に両手と両膝をついた。
「オレ…、働き損…? ご褒美もなしなのか? ヒデェよ、神様…。ヒデェ…」
めそめそと泣き出した飛段に、ドーナツ屋の男子はさらに申し訳なくなる。
「ほ、ほんと…、ごめんな?」
あの暴れん坊で有名な飛段がメイド服でこの世が終わったかのように落ち込んでいる。
滅多に見られる光景ではない。
他の生徒の視線が痛い。
そこに低い声がかかる。
「なにを女々しく泣いている?」
飛段は声の主に振り向く。
「角都ゥー…」
「打ち上げだ。教室に戻れ」
「……………」
飛段はすぐに立ち上がろうとしない。
その様子を見た角都はため息を漏らし、持っていた紙袋を飛段の顔の横につきつけた。
紙袋からは甘い匂いがする。
飛段ははっと顔をあげた。
「食べたがっていただろう?」
角都は「ほら」と差し出した、ドーナツの入った紙袋を飛段は両手で受け取り、勢いよく立ちあがる。
「角都ゥ!」
歓喜のあまり、角都の首にしがみつく。
それだけで興奮混じりに騒ぎ立てる周りの女子達。
「馬鹿っ、裾がめくれるぞ」
角都は慌てて飛段の裾を引っ張った。
その頃、少し離れた出店の陰でその様子を使い捨てカメラで撮影する者がいた。
「高校生活最後の文化祭も、満足に楽しめたようだな」
「トビー、そこでなにやってんだ? うん?」
背後からデイダラに声をかけられ、トビは一回転して調子よく振り返った。
「写真っスよ写真~。あとでみんなで撮りましょうよ~」
デイダラはトビ越しに角都と飛段の姿を確認する。
「ったく、見せつけてくれるよな。うん」
1年の時と違い、飛段の陰は、もうどこにも見当たらない。
1年の頃の飛段を思い出していたデイダラの目の前を、シャボン玉が通過して空へと飛んでいく。
.To be continued