金と銀と黒
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7月に入った頃だろうか、いつもの場所で昼食をとっていると、飛段がこんなことを言いだした。
「誰かを愛したことってあるか?」
「ぶっ!」
まさか飛段の口から「愛」が出るとは思わなかった。
不意打ちを食らってしまったオレは飲みかけた缶コーヒーの中身をぶちまけかけた。
顔に熱が集まるのを感じながら、濡れた口端をハンカチで拭ってから答える。
「愛かどうかは知らないが、好きになったことは…ある」
「違いってなんだ? どういうものなんだ?」
質問を増やしてしまった。
「えと…、愛はその人物を知ってから芽生えるものだ。異性に興味・好意を持つくらいのことを好きという…、好意なら、恋ともいう…、と思う…」
口にすると恥ずかしいものだ。
「男同士だと言わねえのか?」
「!?」
どういうことだ!?
飛段がサンドイッチをムシャムシャと頬張っているが、いつ不意打ち発言をされるかわからないので、オレは手を止める。
「ど…、同姓も同じだ」
そう言って、思わず鬼鮫先生の顔が浮かんだ。
「!?」
なぜここで鬼鮫先生の顔が…!
ここ最近、鬼鮫先生を思うたびに顔が赤くなる。
授業中はまともに顔も見られない。
「恋ってどんなモンなんだ?」
「……好意を持つ人物のことを思うたび…、胸が苦しくなって…、顔が熱くなって、その人物のことしか考えられなくなる」
思いつくことを言ってみただけだが、よくよく考えれば今のオレではないか。
「病気みてーなモンなんだな」
「少し違うが、まあ、恋の病とも言うしな…」
「そっか…。いいもんかどうかわかんねーな。オレは誰にも恋したことねーから…」
「……………」
そういう相手が早く現れればいいな。
口にはしなかったが、オレはそう望んだ。
いつまでも、好かれてばかりではもったいない。
*****
その翌日、まさかと思った。
教室で飛段とデイダラが仲良く話しているのだ。
当初、仲が最悪だったあの2人が。
教室に入ろうとしたオレは出入口で固まってしまう。
まさか、飛段はデイダラが好きだったのか。
昨日の会話を思い出し、それから「いや、そんなバカな」と頭を振る。
飛段の前の席はオレだ。
どうやってあのいつもの席に座ろうか。
やけに遠くに感じられた。
もう飛段と語る日はないのだろうか。
2人は楽しそうに笑い合っている。
オレの背中に寂しさのようなものが圧し掛かった。
結局、独りか。
チャイムがなるまで、オレはしばらく廊下で茫然としていた。
放課後、久しぶりに先輩達と会った。
偶然ではなく、待ち伏せだ。
足下に唾を吐き、険しい顔をしながらこちらに近づいてきて、オレが逃げないように取り囲む。
「よくも先公にチクってくれたな」
鬼鮫先生から謹慎処分を食らったらしい。
「てめーのせいで、ほとんどがトラウマ受けたんだぞ」
そう言えば、前より先輩達の姿がない。
今いる先輩達のほとんどがなにを思い出したのか青い顔だ。
鬼鮫先生、一体なにをしたのですか。
「すみませんが、オレは今、そんな気分じゃありません」
良いも悪いもないが、オレの今の気分はどちらかと言えば過去最悪だ。
こちらも謹慎処分を受けるくらいボコボコに殴りそうだ。
先輩と先輩の間を通り、正門へと向かう。だが、先輩は相変わらずしつこかった。
はっとしたあと、オレの肩を力いっぱいつかむ。
「待てやコラァ!!」
「だからしつこいと…。あ」
振り返ったオレはキョトンとした顔になる。
「ぷっ。なんだその手」
「今時ねえっつーの」
つられて後ろに振り返った隙にオレが不意打ちを食らわすかと思ったのか、先輩達は嘲笑した。
ゴッ!!
その途端に、オレの肩をつかんだ先輩の後頭部に見事な飛び蹴りが食らわされた。
先輩はオレの横を吹っ飛んで通過し、地面に転がる。
「てめーらの絡み方も今時だっつーの」
「ベタベタで気持ち悪いくらいだ。うん」
現れたのは飛段とデイダラだ。
「飛段に…」
「デイダラだと!?」
「こいつら、なんでつるんでんだよ!?」
先輩達は驚いて声を上げた。
早くも浮足立っている。
有名な奴らだったのか。
飛段はこちらに近づき、オレの肩に腕を回した。
「オレらのダチに手ェ出さないでくれるゥ?」
「……その…、この前は…、悪かったな…。うん」
デイダラは背を向けたまま、小さな声でこちらに謝った。
「飛段、デイダラ、そいつがどんな奴か知ってんのか?」
「面も頭もいいうえに、父親が警察のお偉いさんで、オレらみたいなのを見下してる奴だぞ」
その言葉に返したのはオレだ。
「オレは、それをひけらかした覚えは一度もない…!」
怒気を抑えたその言葉に、先輩はビクリと震えた。
初めてオレの怒りを目の当たりにしてるからだ。
「よ…、よく言うぜ」
「それ以上喋んじゃねーよ。イタチのこと、知りもしねーくせに知ったかぶりかますな」
飛段は今にもつかみかからんとする迫力だ。
こちらまでビビってしまう。
「これ以上イタチに手出しするようなら、謹慎覚悟でオイラ達がまとめててめーらを潰しにかかるぞ」
「ひとりずつ、ブチブチとよォ…」
先輩達全員の戦意が喪失された。
黙ってオレ達に道を開ける。
「行こうぜ、イタチ」
デイダラがオレの肩を叩き、オレは頷いて歩きだす。
学校から少し離れた場所でオレは2人に尋ねた。
「いいのか? オレと…」
「ハァ? おまえだからいいに決まってんだろ。悪いモンでもあんのか?」
「それに、絡まれた時とか3人の方がいいだろ。うん」
オレの中に、勢いを増して泉のように湧きあがるなにか。
今、やっとわかった気がする。
「…ああ、頼もしい…」
2人につられて笑顔がこぼれた。
「ところで、2人はどうして喧嘩を?」
「オレらって喧嘩してたっけ?」
「飛段が無自覚なだけだ。うん」
その日は、今までにないくらい、言葉を吐き出した気がする。
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