金と銀と黒
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オレは頭を悩ませていた。
普通ならパニックを起こすところなのだろう。
折りたたんで積み上げられたマットの上に座り、周りを見回す。
外からは授業が始まる鐘の音が聞こえた。
マズい、授業に遅れてしまった。
もう休み時間は終わってしまったのか。
誰が仕組んだことなのか、体育館の倉庫の中に入った途端、出入口を閉められてしまったのだ。
おそらく、いつも仕掛けてくる先輩達とはグルのクラスメイトだろう。
たぶん、「倉庫の鍵を落としてしまったから探してくれないか」と言いだした生徒だ。
オレもこんな簡単な罠に引っ掛かるとは。
最近緩みすぎだ。
もう6月末期だ。
冷房設備もなにもない体育館倉庫の中は蒸し風呂と同じだった。
若干、マットやその他の用具から汗の匂いがする。
「…っ」
目眩がしてきた。
あれから1時間半。
そろそろオレもパニックを起こさなければ。
危機を自覚したオレはマットから下りて扉を何度も叩く。
これは先程もやった。
結局、誰も駆けつけてこない。
それから飛び箱の上の部分を取り、扉にぶつける。
耳鳴りがするような大きな音を立てただけだった。
やはり鉄の扉は頑丈である。
無駄な体力を使ってしまった。
飛び箱を投げつけたオレはその場に座り込んでしまう。
今度は頭痛がしてきた。
思った以上に脱水しているようだ。
気がつけば2時間は経過していた。
意識も朦朧とする。
このまま汗にまみれたまま死ぬのだろうか。
あまり綺麗な死に方とは言い難い。
飛び箱に背をもたせかけ、目を閉じる。
倉庫の外から蝉の鳴き声が聞こえた。
*****
目を覚ますと、保健室の天井が目に入った。
半身を起こすと、保健室のベッドに寝かされていることに気付く。
「まだ起きてはいけませんよ」
「!」
ベッドの脇には、鬼鮫先生が座っていた。
ホッとしている顔だ。
鬼鮫先生は手に持っていたコップに入った水をオレに渡した。
喉が渇いていたオレは黙ったままそれを飲み干して尋ねる。
「先生、なぜここに…」
「いつまで経ってもあなたが授業に顔を出さないと他の先生から聞いたので、捜し回っていました。まさか倉庫にいたとは…」
「……オレの不注意でした。捜し物をしていたら、誰かが間違えて…」
「イタチさん」
鬼鮫先生はオレの両手を握りしめ、真剣な顔を向けた。
オレは思わずドキッとして顔に熱が集まるのを感じた。
「本当のことを話していただけませんか?」
「先生…」
なんでもない、と言おうとしたが、遅いと思った。
本当のことを話さなければ、この手はずっと握りしめられたままだろう。
なぜか、それでもいいと思ったが、オレはゆっくりとなにがあったかだけを話した。
喋り過ぎないようにしていたのに、鬼鮫先生の前では嘘はつけなかった。
「本当のことを話していただいて、ありがとうございます」
その微笑みに、オレは初めて泣きそうになった。
それから少しして教室に戻ったあと、冷房がきいているにも関わらず、飛段とデイダラは額に汗を浮かばせたまま机に伏していた。
また喧嘩だろうか。
ところどころに痣が見当たった。
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