危険な看病
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とあるマンションの一室で、角都は己のベッドで仰向けに寝ていた。
頭痛と咳と喉の痛みのせいでなかなか寝付けず、顔をしかめている。
「コホッ、コホッ」
ピピッ、と脇に挟んでいた体温計が鳴り、取り出して見ると、デジタルな文字で38.7℃とでていた。
朝計った時より上がっている。
見なければよかったと後悔した。
余計にしんどく感じてしまう。
なぜ自己管理を怠ったことがない角都が風邪をひいたのか。
その原因は角都本人にもわかっていた。
(オレとしたことが…、阿呆(校長)から風邪をもらうとは…)
昨夜のことを思い出し、頭痛を覚える。
角都は校長の家に呼び出されたのだ。
見舞いの品を持って校長の家に行くと、そこには布団を被って息苦しそうな校長が迎えた。
その顔は言葉で表現するにはえげつないほどえらいことになっていた。
周りに病原菌が見えそうだ。
その時の角都は早くも帰りたがった。
その気持ちは露骨に表情にでていた。
『ゲホッ、帰りたそうだな』
『帰らせろ、この歩く病原菌』
角都は見舞いの品を校長の目前に突き付けて手渡してから早速帰ろうとする。
『待て。せっかく来たんだ。もう少しゆっくりしてい…、ゲホゴホ!』
『触るな。大人しく死んでろ!』
結局、そのまま風邪の一部を持って帰ってしまったのだ。
「ゲホゲホ…」
怒りを含めた咳が出る。
ふと、「角都ゥ」と駆け寄ってくる飛段の姿が脳裏をよぎった。
風邪さえひかなければ、1限目から飛段の姿が見れたというのに。
今頃、残念そうに机に伏している頃だろう。
(こんな弱ったオレを、飛段に見せるわけには…)
その時、
「角都大丈夫かァ!?」
「!?」
突然窓から飛段が入ってきたのだ。
「飛だ…、ゲホッゲホッ」
半身を起こした角都は声を出した途端、酷い咳をした。
さらに飛段の心配を深めてしまう。
「超やべーじゃねえか! なにしてほしい!?」
「とりあえず土足で窓から入ってくるな…」
飛段が話すには、角都が寝込んでいることを考え、わざわざ起こすのも悪いと思って窓から入ってきたらしい。
ちなみに、角都の部屋は5階である。
目撃者がいなくて幸運であった。
警察に起こされるのは勘弁してほしい。
角都はベッドで横になりながら、「お粥作るから」とキッチンに消えてしまった飛段を待っていた。
(学校をサボってまで来るとは…)
心配して会いに来てくれたのは嬉しいことだが、そのせいで飛段の出席日数を減らしたと思うとどこか心が痛む。
ただでさえ、飛段は出席日数が危ういというのに。
「うわー!! 溢れたー!!」
キッチンから聞こえた叫び声に角都は飛段の出席日数の危うさから、己の身の危うさを案じた。
飛段は目を伏せたまま、両手で鍋を持ってきた。
鍋からは米が溢れていた。
(米を入れすぎたな…)
角都は一見して理解する。
飛段は「残していいから」とリビングへ移動する。
残された角都はできるだけ全部食べようと粥を口にした。
だが、
「ぶふっ!!」
(マズっ!!)
中をかき混ぜると、冷蔵庫にあった栄養がありそうなものがぶちこまれていた。
体に良さそうな緑茶や烏龍茶も水と一緒に混ぜられている。
(もったいないことを…!)
それでもせっかく飛段が作ってくれたのだから食べなければ、とレンゲを握りしめた。
飛段はリビングにあるソファーに座りながら、イタチに電話をかけていた。
ちょうどあちらは休み時間である。
“風邪には卵酒がいいと聞く”
「たまござけ?」
“酒の中に卵を入れたものだ”
「わかった!」
“作り方は…”ブツッ
飛段はイタチの言葉の続きを聞かずに携帯を切ってしまい、早速近くのスーパーまで走った。
*****
一方、イタチはツーツーと繰り返し鳴る携帯を見つめ、「切られてしまった」とデイダラに顔を向ける。
隣の席に着くデイダラは何気なく窓の外を見る。
「大丈夫かな…、角都先生」
イタチも角都の身を案じた。
*****
「……………」
角都は目の前でビチビチとのたうつ魚を見つめた。
魚の口にはいくらがぎっしりと詰まれていた。
惨い光景である。
「さあ角都、活きのいいうちに!」
ビチィ!!
「あう!」
角都は魚の尾をつかんで飛段の顔面に当てた。
魚の口からいくらが派手に産卵…、いや、散乱する。
「なんだこれは」
「なにって…、卵鮭だろォ?」
飛段は痛そうに両手で己の額を押さえて答えた。
角都はがっくりと項垂れる。
飛段は「鮭の中に卵を入れる」と思い違いをしたのだ。
鮭であろう被害魚はビチビチと跳ね続けていた。
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