容疑者飛段
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サングラスとマスクをした男は大きなハンドバッグを抱え、人通りのまったくない暗く細い歩道を走る。
遠くからはパトカーの音が聞こえた。
一時でも足を止めればすぐに見つかってしまう。
男は焦りながら、そしてスリルを楽しみながら走り続ける。
路地を曲がったとき、壁に肘がぶつかってしまい、ハンドバッグが脇から落ちてしまった。
半分に開いたチャックの間から、札束と血の付着した包丁がこぼれる。
男は慌ててそれを拾ってハンドバッグに押し込み、再び走り出した。
路地を抜け、先程よりも広い道を駆ける。
道の端に点々とある電柱につけられた街灯は、男の銀髪を照らした。
*****
その翌日、遅刻することなく登校して教室に入った飛段は、机に新聞を広げているイタチを見つけた。
その横にはデイダラが上からのぞいている。
「よう、なに見てんだ?」
2人は飛段にはっと振り向いた。
「見ろよ、飛段」
デイダラは飛段を手招きする。
飛段は首を傾げ、イタチの席に近づき、新聞を見下ろした。
その記事には、“コンビニで強盗事件発生。店員2人が重傷”と大きめに載せられていた。
住所を見ると、この辺りである。
「近所じゃねーか」
「そうじゃなくて。問題は犯人の方だ」
デイダラは記事の一文を指さした。
そこには、“犯人の特徴は銀髪の青年”と書かれている。
それを目にした飛段は眉を寄せ、デイダラとイタチを睨みつけた。
「おまえらまさか…」
「疑ってるわけじゃねえよ! うん!」
デイダラは激しく首を横に振って否定した。
イタチは呆れている。
「この辺で銀髪と言えばおまえくらいなものだ。警察に疑われることは覚悟しておけと言いたいだけだ」
「クソ…ッ、パクリのせいでなんでオレが覚悟しなきゃ…」
「この銀髪の犯人がやらかした事件は今月に入って8件だ。怪我人も必ず出ているから父も頭を悩ませている。ここまでいくと、そろそろおまえにも声がかかるはずだ」
飛段が「ハァ?」と苛立ちまじりに言い、言葉を続けようとしたとき、ペインが教室の前の扉から入ってきた。
HRにはまだ早い。
「飛段、客だ」
「!」
ペインのぎこちない表情から、ただの一般人の客でないことは確信できた。
ペインに通されるまま入った来客室の黒いソファーには、スーツをだるそうに着た若干若い男が座っていた。
飛段に振り返って笑みを向け、警察手帳を見せる。
「どーも」
飛段は見たこともないその男を見て内心で舌を打った。
(やっぱ警察かよ)
「まあ気を楽にして座って」
飛段は黙ったまま、向かい側のソファーにどっかりと腰を下ろし、あからさまに毛嫌いしてますという男に目を向けた。
男は笑みを保ったまま尋ねる。
「例の事件は知ってるのかな?」
「…ついさっき知った」
答えた飛段は背をソファーの背もたれにもたせかけ、腕を組む。
「ここらへんで銀髪の子と聞いたら、キミの名前が出てきてね。少し話を聞かせてくれないかな?」
「あんたも銀髪じゃん」
「オレはアリバイあるからね」
一応調べたのか。
飛段は調子が狂いそうになるのを覚える。
「…もうなんでもいいから早いとこ話してくれよ」
「じゃあさっそく、昨夜の23時、なにしてた?」
飛段は視線を上に向け、昨夜のことを思い出して答える。
「家でテレビ見てた」
「家から出なかった?」
「ああ。…つーか、学生なら珍しいことじゃねえだろ? オレは夜遊びしないし」
「夜は危険だ」と角都が言っていたことも思い出す。
「そう言えばキミは一人暮らしらしいね。親御さんは?」
その言葉を聞いた飛段は眉を寄せ、低い声で答える。
「いねーよ」
「…悪かった。じゃあ少し時間を遡ろうか。3日前の20時はなにをしてたのかな?」
「3日前…」
記憶力の悪い飛段でも、その時のことは覚えていた。
角都の家に行った日だからだ。
久しぶりに食事に誘われたのだ。
「角……」
そう言いかけ、はっとして言葉を切った。
教師の家に遊びに行ったなんて言えるはずがない。
ましてや、午前0時を過ぎるまで一緒にいたなんてあからさまに怪しい関係ではないか。
角都に迷惑はかけられない。
「かく?」
男は言葉を促した。
目付きが先程より変わっている。
「格闘ゲームしてた。家で」
「……わかった。ありがとう」
男はふっと笑みを浮かべ、ソファーから立ち上がった。
扉に向かうとき、「あ」と声を漏らし、再び飛段に振り返る。
「まだ名乗ってなかったね。オレははたけカカシ。一応警部やってる」
「名乗らなくていい。どうせ2度と会わねーだろ」
(つーか、オレが会いたくねー)
カカシは苦笑したあと、「じゃあ」と来客室を出ていった。
*****
教室に戻ってきた飛段を待ち受けていた者は、デイダラとイタチだ。
席に座った飛段に近づき、「どうだった?」と質問する。
飛段は苛立ち気味に今までカカシと話したことを答えた。
それを聞いたデイダラとイタチは「え」という顔をする。
「警察にウソつくなんて…」
「なぜ角都といたことを言わなかった?」
「言えるかよ! 学校じゃ公認かもしれねーけど、先公と生徒だぞ」
どちらにしろ、面倒な質問をされかねない。
デイダラはため息をついた。
「やましいことしてるわけでもねーだろ。うん。…はっ! まさかおまえらもう…!?」
デイダラとイタチは教室の後方の壁へとあとずさった。
「まだやってねえよ!!」
飛段は速攻で否定した。
帰り道、デイダラとイタチより先に学校を出た飛段はむしゃくしゃした顔をしながら街を歩いていた。
今日は角都の授業もなかったので、余計に機嫌が悪そうだ。
ゲームセンターで遊ぶかコンビニで立ち読みしたい気分だったが、警察に疑われている間、夜はあまり出歩かない方がいいと考え、仕方なく素直に帰ることに決めた。
(これじゃあ、角都の家にも遊びに行けねーなァ…)
目を伏せ、ため息をつく。
その時、
「!」
突然、曲がり角を曲がった男にぶつかった。
「ってェー!」
男とともに尻餅をついた飛段は尻の痛みに顔をしかめ、目の前の男を睨みつける。
「てめ…、!!」
目を見張った。
己と同じ銀髪だったからだ。
顔はマスクとサングラスで隠れている。
男は一瞬飛段の顔を見て硬直し、すぐにはっとして立ちあがった。
「あ! おい!」
飛段も立ち上がろうとしたが、男は手に持っていたハンドバッグから札束を抜きとり、ハンドバッグを飛段に投げつけた。
飛段は驚きながらも反射的に両腕で受け止める。
「っ!」
男は飛段の横を通過し、逃げた。
「待てコラ!」
飛段は逃走するその背中に声をかけたが、男の姿は曲がり角で消えてしまった。
「見つけたぞ!」
「!?」
男が出てきた曲がり角からは今度は警官が出てきた。
警官は飛段の顔と飛段が持っているハンドバッグを交互に見て確認したあと、飛段の左二の腕をつかむ。
「観念するんだな! この強盗犯!」
「ハァ!?」
飛段は混乱しかけたが、すぐに後ろを指さした。
「もしかして間違えてる!? オレじゃなくてさっき逃げた奴が…」
「言い訳なら署で垂れろ!」
警官が手錠を取り出したのを見て飛段の顔は真っ青になった。
「放せ!!」
「ぐっ」
飛段はハンドバッグを力いっぱい振り、警官の腹に当てた。
警官は呻き、手の力が緩む。
飛段はそれを逃さず警官の手を振り解いた。
「お…、オレじゃねえからな!?」
そう言ってから飛段はハンドバッグを投げ捨てて逃げた。
「待て!!」と警官の怒鳴り声を背中で聞きながら。
*****
とんだ災難に遭った飛段は疲れた表情のまま家へと向かっていた。
全力で走ったせいで汗だくである。
銀髪の犯人を思い出し、後悔した。
あの時つかまえていれば、あんな目に遭わずに済んだのだ。
犯人が捕まればすべてが丸くおさまっていたはずなのに。
「面倒なことになっちまったな…」
もうあの道は通れない。
家が近づいたとき、飛段は自分のマンションの前に見たくなかった車が停まっているのを見た。
パトカーだ。
「げ…っ」
「や。おかえり」
はっと上を見上げると、自分の部屋のベランダに2度と会いたくなかった男の姿が見えた。
飛段を見下ろし、小さく手を上げる。
「田んぼ!?」
「はたけだよ」
1階にいた数人の警官も飛段の存在に気付いた。
「ちょっと話聞きたいんだけど、そこのパトカーに乗ってくれる?」
カカシは飛段から目を離さず、下のパトカーを指さした。
飛段はあとずさりし、アレに乗れば絶対にここに帰ってこれないことを悟る。
「誰が乗るかバーカァ!!」
飛段はカカシに怒鳴ったあと、背を向けて走り出した。
「あ!」
「待て!」
下にいた警官達が一斉に飛段を追い始める。
「話聞きたいだけなのに…」
バカ呼ばわりされた挙句に逃げられ、カカシはベランダの柵にもたれた。
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