過去の君に会いに
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「…は?」
飛段が校門を抜けた瞬間、雨がやんだ。
それどころか、空まで明るくなったのだ。
上を見上げると、淡い青空が広がっていた。
周りを見ると、帰宅したはずの生徒たちがまた登校している。
「ハァ!!?」
慌てて懐中時計の時間を見ると、針は8時5分をさしていた。
空の明るさから見て、朝である。
(どうなってんだァァァァ!?)
飛段の横を通過する生徒達は物珍しそうな目で飛段を見てから通過していく。
銀髪のうえに、髪と体はずぶ濡れなのだから嫌でも目立つ。
その視線に気付いた飛段はひとりひとりの生徒の顔を見ていくうちに、気付いたことがあった。
見たことのない生徒ばかりなのだ。
「???」
違う高校なのかと思って入口を見ると、ちゃんと“暁高校”と書かれてあった。
ますますわけがわからなくなる。
「あ? なんだコレ。夢か?」
困惑した顔で校門付近をウロウロしていると、
「待て、そこの銀髪」
「!?」
その声に振り返り、飛段は仰天した。
制服姿の角都がこちらに近づいてきたからだ。
腕には風紀委員の腕章が付けられている。
他の生徒は角都に道を譲るようにスペースを開けていく。
「その髪で堂々と校門から入ってくるとはいい度胸だな。オレの手で丸刈りにしてほしいのか?」
厳しい顔で角都が声をかけたとき、飛段は角都に突進し、
「かぁくずゥ!!」
公衆の面前で角都に抱きついた。
抱きつかれた角都は仰天している。
周りはザワザワと騒ぎだした。
「あいつ、あの角都に飛び付いたぞ!」
「なに考えてんだ」
「あいつ死んだな」
飛段は周りを気にすることなくしがみついている。
「制服姿でオレの機嫌を直そうってかァ!? この策士めェ!!」
「超カッコいい」と興奮していると、角都はそれを振り解こうと抵抗した。
「放せ! なんだおまえは!」
「ハァ!? てめー恋人に向かって酷くね!?」
それを聞いた生徒達はさらに騒々しくなる。
「恋人!?」
「え!? ウソ!? 角都君が!?」
「キャー!!」
ショックを受けてる女子と萌えている女子もいる。
いたたまれなくなった角都は飛段を無理矢理剥がし、飛段の手首をつかんで校舎の玄関へと引っ張った。
「来い!」
「痛てェって!」
折れるほど力強くつかまれている飛段は痛みを訴えながら、角都とともに校舎の中へと連れて行かれた。
日当たりのいい無人の会議室に飛段を連れてきた角都は、乱暴に扉を閉めたあと、無理矢理飛段を椅子に座らせ、机をバンと叩いて睨みつけた。
「オレになんの恨みがある? 自己犠牲の仕返しまでしやがって…」
「…マジ本気で言ってんのか?」
飛段はさすがになにかがおかしいと思い始めた。
「ふざけているのはそっちだろ!」
角都は本気で怒っている様子だ。
飛段は目の前の顔をじっと見つめ、普段見ている角都より少し若いことに気付いた。
眉間の皺も少ない。
(もしかしてここって…)
ある仮説が飛段の脳裏をよぎったとき、会議室の扉が開かれ、小さな男と大きな男が入ってきた。
「よう、連れ込み犯。聞いたぜ、男に抱きつかれたってな」
「その人ですか?」
入ってきたのは、制服姿のサソリと鬼鮫だった。
「サソリ!? 鬼鮫!?」
指をさされ、サソリは片眉を吊り上げる。
「誰だてめー?」
角都は煩わしげな顔でサソリと鬼鮫を交互に見る。
「来たな。校則違反1号と2号」
「これは地毛だ」
「右に同じです」
2人はすぐに言い返した。
制服姿の3人を見て、飛段は確信する。
(もしかしなくても、ここって過去!?)
もう一度3人を見つめる。
(こいつらなんで変わってねえんだよ。特にサソリィ!)
普段の3人がそのまま制服を着たようだ。
角都は飛段に振り返り、命令するように言う。
「そして校則違反3号のおまえ。名を名乗れ」
「…飛……」
そこで飛段ははっとした。
(ちょっと待て。ここが過去なら、ここで名乗ったら未来変わっちまわねーかァ!?)
瞬時に言葉を切り替える。
「ひーくんです。またはひったん☆」
「殺されたいか」
角都は目の前でカワイイポーズをとって自己紹介した飛段に殺意を覚えた。
「おまえ、1年か?」
サソリに違う質問をされ、飛段は素直に答える。
「いや、3年」
「ウソを言うな。たとえ黒髪でも、こんな珍しい目の色をした奴がいれば馬鹿でも覚える」
そう言いながら角都は飛段の瞳をのぞきこんだ。
不意に近づいてきた顔に飛段はドキリとする。
瞳をじっとのぞきこんでいた角都は後ろポケットから白いハンカチを取り出し、飛段の顔に押しつけた。
「ぶ!?」
「拭け。川にでも落ちたのか? ずぶ濡れだぞ」
先程まで雨に打たれていたとは言えない。
「あ…、ああ…」
飛段は角都のハンカチで頭や顔を拭いた。
ワックスは流れ、髪はすべて下りている。
「優しいじゃねーか。女にそんなことしたことねーだろ」
眺めていたサソリはニヤニヤと笑みを浮かべながら角都に言った。
それを聞いた飛段は首を傾げる。
「付き合ってる奴いねーの?」
飛段に問われ、角都は冷たく返す。
「なぜおまえに教えなければ…」
「いねーぜ」
「サソリ!」
勝手に答えたサソリを睨みつける角都。
サソリは構わず続ける。
「つーか、こいつが女と歩いてるとこなんて見たことねー。言い寄られはするけど、あまり相手にしねーし」
「…この時期だ。女に構っている暇があるなら勉学に勤しむ」
それを聞いた飛段はホッとした反面、疑問を浮かべる。
(この状態の角都の唇を奪った奴って、どんな奴だァ?)
そこではっと閃く。
(まだならオレが奪っちまえばいいじゃん☆)
密かに笑みを浮かべ、小さく舌なめずりをした。
今日は冴えてるひーくん。
さっそく角都の唇奪っちゃえ作戦に移る飛段。
「角都、黙ってて悪かったが、オレは占い師だ」
「占い師?」
胡散臭そうな目を向ける。
「銀髪の奴と口付けしねえと不幸になっちまうぞー」
妖しい笑みを浮かべながら、水晶玉もないのに両手を泳がせている。
角都は鼻で笑った。
「馬鹿馬鹿しい。白髪の高齢者と接吻しろとでもいうのか」
それを聞いた飛段はガクリと肩を落とす。
「だーかーらー、てめーの目の前に若い銀髪がいるだろォ」
同時に角都は右手を伸ばして飛段の首をつかんで絞める。
「殺されたいようだな!」
「うげげ」
飛段は苦しそうに呻きながら角都の右手首を両手でつかむ。
「角都さんストップ!! この時期に犯罪犯したらマズいですって!!」
見兼ねた鬼鮫も止めに入る。
「げほっ、げほっ」
解放された飛段はその場で噎せた。
「貴様、これ以上ふざけると…」
「8月15日生まれの獅子座のA型」
角都の動きがピタリと止まった。
サソリと鬼鮫も驚いている。
3人の反応を窺った飛段は続けた。
「好物はアン肝とレバ刺し。嫌いなものは栗羊羹。趣味は読書……」
遮るように角都は両手を伸ばして飛段の首をつかんで絞める。
「貴様オレのストーカーか!?」
「うえええ」
「だからすぐに殺意剥き出しに手を出さないでください!!」
再び止めに入る鬼鮫。
「諦めな銀髪。そいつの対象は女だ」
(てめー、こっちの味方になれよ。未来で思いっきり男子生徒(デイダラ)とラブラブしてるじゃねーか!)
そう思いながら飛段がサソリを睨みつけると、予鈴の鐘が鳴った。
「おい、鳴ったぞ」
サソリに言われ、角都は舌打ちをして飛段から離れた。
「次に会う時は黒髪にしてこい」
「角…」
「それと、2度とオレに近づくな」
そう言ってサソリ達とともに会議室を出て行った。
残された飛段は胸に痛みを覚え、会議室から出るのに時間がかかった。
*****
日当たりのいい場所にいたおかげで、濡れていた服はそれなりに乾いた。
(過去の角都がオレのことを知らないのは当然だ。わかってはいるけど、ああ言われるとやっぱ傷つくなァ…)
髪も乾いたため、通学カバンの中に入ったワックスでオールバックに戻そうかと考えたが、気分ではない。
これからどうするかと考えながら歩いていると、自分の教室の前に着いてしまった。
入っても、生徒達は飛段のことは知らない。
デイダラとイタチもいない。
教室の扉の前で「うーん」と悩んでいると、聞きなれた声が聞こえた。
「!」
角都の声だ。
後ろの扉の隙間からそっと窺うと、教科書を片手に席を立って英語を読んでいた。
発音も完璧である。
周りの女子たちはうっとりとした表情で見つめたり聞いたりしていた。
「ハァッ、カッコいい…」
同じく飛段も。
次の数学の時間も、その次の体育の時間も、飛段はずっと完璧な角都を眺めてはうっとりとしていた。
昼休みの時間、サソリは部活の集会で、サソリは委員の集まりで抜け、角都はひとり温かい中庭のベンチで弁当を食べていた。
ぐうううう~
「……………」
ぐぎゅるるる~
上から聞こえる音に小さなため息をつき、角都は見上げずに声をかけた。
「…おい、出てこい銀髪」
ベンチの隣の植木から飛段が滑るようにするするとおりてきた。
「な…、なんでわかったんだ?」
「腹の虫が蝉のようにうるさい」
飛段は顔を真っ赤にし、腹の虫を黙らせようと腹を押さえた。
それでも腹の虫は容赦なく鳴る。
心なしか先程より大きい。
「……………」
「…弁当はどうした?」
「…ない」
薄い通学カバンをひっくり返して出てきたのは、ワックスなどの身だしなみ用のものばかりである。
普段は置き勉しているため、教科書やノートは向こうの時代の机の中で、昼食はほとんど購買のパンだけである。
向こうの昼休みで金は使ってしまった。
「………ほら」
角都は弁当の蓋におかずとごはんを載せ、予備の割り箸を飛段に渡す。
「え? いいのか?」
「食べたくないなら…」
下げようとしたそれを飛段は慌てて奪った。
「食べる!!」
早速、断りもなく角都の隣に座り、ガツガツと食べ始める。
「うめー! コレ、角都が作ったのか!?」
頬に米粒をつけたまま笑顔を向けられ、角都は一瞬戸惑った。
「あ…、ああ」
「超うめー! オレ、いっつも購買のパンばっかだから栄養偏りがちって言われるんだよなァ」
角都に、と続けそうになった言葉をおかずと一緒に飲み込む。
「………おまえ…、オレが怖くないのか?」
水筒を渡したあと、角都はふと飛段に尋ねた。
「んー? なんで? 怖いっつーか、オレは角都が好きだぜェ?」
水筒に入った烏龍茶を飲んだあと、飛段は笑みを向けながら言った。
「……………」
女子から告白されたことは幾度もあったが、まさかこんなにはっきりと「好きだ」と言われたことがないので不意打ちを食らった気分になる。
告白する前は、誰もがこちらの様子をおそるおそる窺ってから声をかけてきたからだ。
「角都ゥ、ごちそうさん」
満足な笑みで蓋を返され、角都はその表情をじっと見つめてから蓋を受け取った。
弁当をしまおうとしたとき、スチール缶の空き缶がこちらに転がってきた。
「「!」」
飛段と角都はほぼ同時に顔を上げる。
転がってきた方向には、目つきの悪い3人の男子がいた。
「聞いたぞ角都。おまえ、そいつに抱きつかれたって?」
「おいおい、そっち系だったのかよ」
飛段は、嘲笑を浮かべながら近づいてくる男子達を、睨みつけながらベンチから立ち上がる。
「んだてめーら…」
角都は立ち上がった飛段の手首をつかみ、自分の背に隠した。
「角都?」
「なんの用だ?」
角都は男子達を見据えて低い声で尋ねる。
真ん中にいる男子は目元を痙攣させ、「なんの用だだと?」と怒りで声を震わせて続けた。
「人の女とっておきながら男に走りやがって」
「好きな人ができたの」とでも言われ別れを告げられたのだろう。
明らかに逆恨みだ。
「人聞きが悪いな。オレはとった覚えはない。あちらが勝手に言い寄ってくるだけだ。この男も同じだ。オレとはなんでもない」
それを聞いた飛段は胸を痛めたが、
「だから、手を出すな」
「…!!」
そう続けられ、表情をパッと明るくさせた。
「カッコつけんな!!」
真ん中の男子がコブシを握りしめて迫ってくる。
角都は後ろの飛段を軽く突き飛ばし、コブシを握りしめて振りかぶった。
ゴッ!!
横に振るわれたコブシを軽くかわし、振りかぶったコブシを男子のアゴに直撃させた。
男子は大きく吹っ飛び、中庭にある池に落ちる。
「スゲー…」
それを見た飛段は思わず呟く。
「この…!」
右の男子が角都に殴りかかる。
角都が先程と同じようにその顔面にコブシを食らわせようとしたとき、左の男子が角都目掛けなにかを投げつけた。
「! 角都!」
それに気付いた飛段は咄嗟に角都の横に立った。
ゴッ!!
飛段の額に大きめの石が食らわされる。
「銀髪!!」
打ちどころが悪く、角都の声とともに飛段は気を失った。
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