春風に撫でられて
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早朝、飛段は自分の教室へと入り、席で話し合っていたデイダラとイタチに声をかけた。
「おはよ…」
「あ、おはよ…、って、どうしたそのクマ!! うん!?」
びっくりしたデイダラは思わず立ち上がった。
イタチも飛段の顔を見て一歩あとずさる。
飛段の目はやや充血気味で、その下にはくっきりとクマが浮き出ていた。
今にも倒れそうである。
「い…、一睡もしていないのか?」
イタチに問われ、飛段は「うん」と小さく頷いた。
「夜遊びか?」
「角都がいるのにするわけねーだろ。ゲームだ、ゲーム」
睨まれると余計に怖い。
「飛段もゲームなんてするのか」
飛段の口からゲームの話題が出たことはない。
飛段は、デイダラの席の前の自分の席に座って話し出す。
「それがさァ…、昨日立ち寄った店で、オレと角都の激似のキャラが出てるゲームがあってさァ。衝動買いして早速プレイしたらハマってハマって…」
「気が付いたら朝になっていたというパターンか。うん」
デイダラとイタチは呆れ返る。
「格闘ゲームで、キャラとキャラがコンビを組んで、対戦相手の別のコンビをぶっ倒す。オレ似は大鎌使ったり、角都は触手的なもので攻撃するんだぜェ。マジカッコよかったァ」
昨夜のことを思い出したのか表情が恍惚としている。
デイダラとイタチは2度呆れた。
「まさか、倒せないキャラがいて、それ倒すのに時間がかかったとか?」
デイダラに問われ、飛段は首をフルフルと横に振って答える。
「オレと角都でどれだけ色んなキャラが倒せるかプレイし続けてたァ」
「「せめて他のキャラもプレイしろ」」
3度目の呆れ。
同じキャラクターを使ってても、飛段はまったく飽きなかったとか。
席に座った飛段は今にも机に伏して眠ってしまいそうだ。
それに耐えるように自分の頬を引っ張ったり、つねったりしている。
飛段が眠るものかと頑張っているのには理由があった。
「おい、1時間目角都の授業だぞ。そんな状態で受けられるのかよ。うん」
それが理由だ。
2年の時は、飛段は必ず出席し、居眠りもしなかったのだ。
角都が怖いからという理由ではなく、角都の声を聞き、角都の動作を見れないのが嫌なのである。
「うー…。眠ィ…」
ここで今まで自分が更新してきた角都観察記録を崩すわけにはいかない。
なにより、角都に落胆されたくないのだ。
飛段は後ろの席のデイダラに振り返り、頼みごとをした。
「デイダラ、オレが眠りそうになったら、なにやってもいいから叩き起こしてくれ。イタチも」
デイダラの隣の席のイタチにも声をかけた。
窓から教室に入ってきた、春の暖かい風が飛段の頬を撫で、眠りへと誘おうとする。
飛段の席は窓際であるため、直撃するそれは容赦なく繰り返された。
飛段の瞼が閉じられ、そのまま開くなったとき、デイダラは筆箱から三角定規を取り出し、それを飛段の頭に振りおろした。
ゴス!
「っ!!?」
30°の尖り具合は凶器である。
「しっかりしろ。あと数秒で数学だぞ。うん」
「お…、おゥ…」
刺された後頭部を撫で、頬を軽く叩いて眠気を飛ばした。
それから数秒後、授業の鐘が鳴ると同時に角都が教室に入り、教卓の前に立った。
「昨日やったページ、覚えているな? 今日はその次のページから始める」
上から目線の言葉に飛段は再び恍惚の表情を浮かべる。
どんだけ角都が好きなんだってばよ。
このまま眠気が覚めるかと思ったが、角都の低い声が心地よすぎて逆にさらなる眠気が訪れる。
頬杖をついた飛段の頭が揺れるのを後ろから確認したデイダラは、シャーペンの先でコツコツと飛段の頭をつついた。
「飛段、起きろ。うん」
「Zz…」
寝息まで聞こえてきた。
「おい」
イタチは試しに消しゴムを飛段の頭にぶつけてみる。
しかし、飛段の反応はない。
「起きろって、うん」
シャーペンの先で何度も飛段の後頭部をつついていると、
プスッ
デイダラの手に嫌な感触が伝わった。
手を止め、血の気が引いたデイダラを見て、つられてイタチの顔もだんだん血の気が引いていく。
「……………」
シャーペンを飛段の後頭部から離したデイダラは、じっと目の前の後頭部を凝視した。
「!!!」
しばらくして、頭から首筋にかけて赤い一筋の血が伝ったのを見て、デイダラは声をあげそうになった。
同じくイタチも。
急いでポケットからティッシュを取り出し、シャツに付着する前に飛段の血を拭った。
証拠隠滅である。
その間も飛段は起きず、ついには机に伏してしまう始末だ。
「デイダラ、なにをしている」
「!」
飛段の後ろでゴソゴソとしていたのを見られてしまった。
角都の視線がデイダラから、前の席の飛段へと移る。
それを見たデイダラとイタチは「あーあ」と諦めた。
「珍しいな…」
角都はそう呟き、教科書を教卓に置いて飛段に近づいた。
それを見下ろす顔は呆れている。
「飛段、起きろ」
角都の声でも飛段は起きない。
「ゲームで夜更かししたそうです」
イタチにそう説明され、角都はため息をついた。
「馬鹿が…」
殴って起こしてやろうかと思ったとき、
「かぁくず…」
飛段が寝言を呟いた。
その表情は楽しげだ。
口にはしないが、角都に言わせれば「カワイイ」。
「角都ゥ…、オレェ…、寝てない…」
その寝言に角都は思わず小さく笑った。
「馬鹿が」
先程とは言い方が違う。
角都は飛段をそのままにし、授業を再開した。
その間も、飛段は「角都角都」と寝言を続けた。
数学の授業が終了し、角都が教室を出たと同時に飛段は起き、早速デイダラとイタチにがなる。
「なんで起こしてくれなかったんだよォ―――!!」
「「……………」」
飛段の全ての寝言を聞いていたデイダラとイタチは赤面したままなにも言わない。
実は、クラス全員も同じ状態になっていた。
他の友達と喋ったり、教室を行き帰りするものも、最低2回は飛段をチラ見している。
「な…、なんだよ…」
「や…、飛段…。おまえ、かなり恥ずかしいかったぞ」
「聞いてたこちらまで恥ずかしくなる…」
「?」
「おまえ、寝言で「角都」連発なうえに、「好きだ」「キスしろ」…、その他恥ずかしい単語いっぱい言ってたぞ。うん」
見ていた夢を覚えているのか、飛段の顔が途端に真っ赤になる。
「ウソ。それ、角都に聞かれてた?」
デイダラとイタチは「全部」と声を揃えた。
飛段はさらなるショックを受け、机に伏せる。
「最悪だァ…。角都絶対呆れてる…」
そんな飛段を尻目に、イタチとデイダラは小声で話す。
「いや…、アレは呆れていたというより…」
「楽しそうだったな。角都って、ドSだよなぁ。うん」
ちなみに、今まで角都の授業で眠って角都に叩き起こされなかった生徒は飛段だけである。
.To be continued