咲き始めた時間
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早朝、ベッドの脇に置いていた携帯が3回目のコールを鳴らす。
光るサブ画面にはデイダラの名前があった。
部屋中に響き渡る携帯の呼びだし音に、ベッドに潜っている飛段は寝返りを打っただけで無視した。
それから1分後、4回目のコールが鳴り、ようやく飛段はベッドに潜ったまま手探りで携帯をつかみ、通話ボタンを押してから耳に当てた。
「…もしもしィ?」
寝起きが悪いのか、その声は不機嫌である。
“「もしもしィ」じゃねーよ飛段!! 今何時かわかってんのか!? うん!?”
携帯越しからデイダラの怒鳴り声が聞こえ、飛段は眠い目を擦りながらベッドから起き上がり、携帯画面の時間を見た。
8:15
その時間を見つめているうちに、どんどん眠気が覚め始め、変な汗が額を伝った。
「あ゙あ゙あ゙ああああ!!!」
マンションの住人が全員起床するほどの大声だ。
携帯から「このバカ―――!!」とデイダラの嘆きの声が聞こえる。
飛段は「すぐそっち行く」とデイダラに言ってから携帯を切り、準備にとりかかった。
制服に着替え、洗面所で顔を洗って慌てながら髪をワックスでオールバックにセットし、首にネックレスをかけ、テーブルの上に置いておいた朝食用の焼きそばパンを口に咥え、薄いカバンを抱えてマンションを飛び出した。
外へ出た途端、桜の匂いが鼻を通るのを感じた。
桜の香りが漂う町の中を飛段は必死で駆け抜ける。
時間が足りないという危機を感じ、近道を使うことにした。
口をモゴモゴとさせたまま神社の石段を2段飛ばしで駆け上がり、社の向こうの林を走り抜け、下り道を下り、ハードルのようにガードレールを飛び越え、住宅街の狭い道を走った。
その先の曲がり角を曲がってひたすら直進すれば、学校の裏門にたどり着ける。
もしかしたら間に合わないかもしれないという不安を覚えながら曲がり角を曲がったとき、
「!!」
見覚えのある黒のセダンが停まっていた。
その車の持ち主が運転席の窓から顔を出し、飛段に声をかける。
「乗れ」
「角都ゥ!」
運転席に座るスーツ姿の角都を見た途端、疲れた表情を浮かべていた飛段は一気に開花したような笑顔になった。
飛段は嬉しそうに角都の車の助手席に乗り込む。
「シートベルトを締めろ。罰金は御免だ」
角都にそう言われ、飛段がシートベルトを締めると同時に車は発進する。
向かうはもちろん学校だ。
「待っててくれたのかァ?」
「デイダラが騒いでいるのを聞いてな。仕方がないから迎えに来てやった」
前を見ながら角都は答えた。
飛段は「ゲハハ」と品のない笑い声を上げる。
「あの角で待っててくれて嬉しいぜ」
なぜなら、あの角こそ、ちょうど1年前に2人が出会った場所だからだ。
それを聞いた角都は苦しげに顔をしかめた。
「…あまり思い出したくないがな」
「なんでだよ。運命の出会いってヤツだろォ!?」
角都と飛段は同時にその時のことを回想する。
*****
「ヤベー遅刻するゥ!!」
1年前、飛段は現在と同じく遅刻し、近道を通りながら学校へと急いでいた。
ベタベタだが、曲がり角を曲がったとき、飛段は角都と初めて出会ったのである。
キキキキキィッ
ドン!!!
*****
「……完璧な人身事故だった」
転任早々事故を起こしてしまった角都は、病院に連れていくわけにはいかず、学校まで車で運んで保健室で飛段を介抱したそうだ。
保健室のベッドに寝かされるまで気絶していた飛段は、介抱した相手が自分を轢いたとも知らず、一目惚れしたらしい。
のちに角都は白状したが、飛段は「運命だ」と逆にはしゃいでいたそうな。
「角都を一目見て、オレの心はアクセル全開だったぜェ。今もな♪」
「おまえを一目見たオレはブレーキ全開だったがな」
車は徐々に学校に近づいて行きながら、桜並木道に挟まれた車道を走る。
飛段は助手席の窓からそれを眺めた。
「うわっ、スゲー満開…」
見惚れている飛段を横目で見た角都は、ポケットからなにかを取り出した。
「飛段、手を出せ」
「?」
角都に振り返った飛段は、言われるままに両手を差し出した。
角都はそのてのひらの上に取り出したものをのせる。
「…時計?」
桜と同じ色の懐中時計である。
角都は気恥ずかしそうに言う。
「……その…、誕生日だろう?」
今日は4月2日。
飛段の誕生日である。
「……………」
飛段は懐中時計の蓋を開け、時を刻む秒針を見つめた。
「今時、懐中時計は古かったか? それに、色も…」
春休みの間に、飛段の誕生日になにをあげようかと考えながら町を歩いていた角都は、小さな雑貨店の窓から珍しい色の懐中時計を見つけ、飛段の瞳と同じ色だからという理由で購入したのだ。
「サンキュウ角都ゥ!!」
角都の方に顔を向けた飛段は、満面の笑みで角都に抱きついた。
大袈裟に抱きつくのを阻止するシートベルトが恨めしい。
「飛段、運転中だ!」
危うく逆走するところである。
そんなもの知ったこっちゃないというように、飛段は角都の首にからみついたままはしゃいだ。
「オレ超嬉しい!! 絶対一生大事にする!! これで遅刻もしないぜェ!!」
「懐中時計にアラーム機能はついていない」
そうツッコみながら、角都は指先で飛段のアゴを軽くあげ、優しいキスをし、額をコツンと合わせた。
「誕生日おめでとう、飛段」
ラブラブモード中すみませんが、前見てください、角都先生。
完全に逆走しています。
余談だが、その日は始業式で、学校からのプレゼントなのか、飛段のクラスの担任は角都となった。
.To be continued