桜色の秒針
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少女Cは語る。
「正門の前で飛段さんを見かけたんです。手袋をつけてこなかったのか、手を擦り合わせて寒そうにしてました。私、思い切って声をかけました」
少女AとBは聞き入る。
「うー、さぶー」
飛段は手を合わせ、息をかけたり摩擦で温めようとする。
「飛段さん!」
「んあ?」
飛段が振り返ると、そこにはカイロを握りしめた少女Cがいた。
「えーと…」
飛段は少女の顔を思い出そうとするが、記憶にない。
同じクラスだというのに。
「こ、これ、よかったら…」
少女Cはもじもじしないようにと心がけながら、飛段にカイロを差しだした。
キョトンとした飛段だが、すぐに笑みを浮かべて言う。
「ありがとな。でも、いいや」
「え。でも…」
「これからデッカいカイロがやってくるしィ♪」
「デッカい…カイロ?(汗)」
やってくるとはどういうことなのか。
それはすぐにやってきた。
「飛段」
少女Cと飛段は同時に振り返る。
飛段の場合、反射的に明るい顔で振り返った。
「角都ゥ!」
角都は温かそうな黒のコートを身に纏っていた。
飛段は両腕を広げて角都に飛びつく。
その行動を読んでいたのか、角都のコートの前は開いたままだった。
「ちゃんと防寒してこい。なんだ、この冷たさは…」
角都は飛段の冷えた頬に触れて言った。
飛段は角都の胸に頬を擦りよせる。
「角都のために冷たくしといたァ」
「わけのわからんことを…」
角都は呆れながらも、これ以上飛段が冷えないようにと、飛段がコアラのようにしがみついたまま、コートのボタンを留めて歩きだした。
「オレの家に着いたら、なにか温かいものを作ってやる」
「じゃあオレ、シチューがいい♪」
そんな会話をしながら去っていくホットなカップルを、少女Cは黙ったまま見送った。
手はカイロの熱で温まっているにも関わらず、凍ったように動かなかった。
「なんで他の男女カップルより超マジラブいんですかァ!!」
少女Cは泣きながら床にコブシをぶつけた。
続いて少女AとBも騒ぎだす。
「ここ共学でしょう!!?」
「もったいない!! 暁高校アイドルトリオが!!」
先程から話を聞いていたペインは「まあまあ」と3人を落ち着かせようとする。
「おまえ達の痛みは伝わった。だが…、あの3人はやめときなさい。自分のためにも」
泣き喚く3人の傍らでペインは小さくため息をつき、明後日の方向を茫然と眺めた。
(本日も進路相談者はゼロ)
勉学よりも恋愛に余裕がない不幸な少女達の話だった。
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