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運命はきっと左利き

 島野少年は「運命」などという非科学的極まりない夢物語のことなど一切信じていなかった。
 少年はそれはもう大層な皮肉屋で、口を開けば毒ばかり吐く。見目は決して悪くない、むしろ人目を引くほどには整っているのだが、いかんせん目付きがよろしくなかった。
 成長期を迎えても思うように伸びてくれない身長も、彼の性格に歪みを与えた一因と言えよう。はっきり言って、島野はちびだった。西暦が始まってから二千年も経ってしまったこのご時世、地上から百六十センチほどの視界しか確保できないことは、間違いなく島野の負けん気に拍車を掛けた。
 もちろん島野はもう子供ではないので、最低限の処世術は身に付けているし、何か進んで揉め事を起こすような性質でもない。日々慎ましやかに、クラスの友人と気軽に笑って過ごす生活にだって、これと言って不満はなかったのだ。
 七月。夏真っ盛り。いくら周りが何かと浮き足立つ季節とは言え、島野少年は燃え上がるような熱い恋の気配なんてものは全く求めていなかった。受験生の夏を適当にやり過ごして、適当に模試で満点を取って、適当に最後の高校生活を謳歌する。そんな至極シンプルなプランを用意していたし、それを恙無く実行するつもりだったのだ。
 あの日、あの体育館で、"あの後輩"に出会いさえしなければ。
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